ぼくは小説が書きたい
猫海士ゲル
「売れる小説」と「読まれる小説」と「自己満足なだけの小説」と、
売れる小説を書くとは──悪魔に魂を売ること
某有名メンタリストさんの言葉(*^^*)
シャーデンフロイデ=ざまあ
人の不幸は蜜の味 ←これが埋め込まれている作品が面白い小説である。
「そうじゃない現実」
人は自分のことを本当は俺すごいんだぞと思いたがる
世の中は公平じゃない
↑これが許せない一般大衆が上級国民という言葉も生み出した
だから、ぼくは──
****** ****** ****** ******
昨年の、とある昼下がり──
「再び小説家に戻ろう」
そんな野望が頭から湧いて出た。
否。
小説家であったことなどただの一度も無かった。
小説を「趣味」で書いていた、あの優しくも活力溢れる時代に帰りたい、という願望だ。
色々とネットを漁ってみる。
むろん古巣のカクヨムも漁っていくつかの『小説講座』を読みながらあらためて勉強し直した。
ユーチューブに「小説家になろう」でビューしたプロの作家、いわゆる「なろう作家」の方が動画をあげられているのを見つけた。
ずばり作家志望者「わなび」達へむけた情報提供チャンネルである。
そこで衝撃を受けた。
これは、そんなお話です。
* * * * * * *
「小説家になろう」でランキング上位に入る作品を書くために、
主人公の精神的苦悩は書いたらダメ。主人公は「俺強えぇ!」で成功報酬の話を主軸に物語を展開させる。ただしギャグ要素としての苦悩(女の子を神聖化しがちな主人公がパーティメンバーの美少女の破天荒ぶりに愚痴る、綿密な計画を立てたのに会話に齟齬が生じて真逆の運命に、など)は、なろうの様式美として歓迎される。ただし読者が笑えるネタとして確立させること。
他には、
主人公と対等な存在は読者から許されない。ライバルが存在してはいけない。冒頭で主人公を負かした相手がいてもその後逆転し、主人公から徹底的に打ちのめされてからは噛ませ犬(ギャグキャラ)にする。主人公に敵はおらず、突っかかってくる悪漢は美少女ヒロインから「あなたじゃ、あの人に勝てないわよ」と笑われる。事実、敵は簡単にやられるのが「小説家になろう」作品である。そしてそれは全て読者が求めているシチュエーションなのだ。
* * * * * * *
これまで「小説とはこう書かねばならない」と思い込んでいた偏見が音をたてて崩れ去る。目から鱗、とはまさにこれを言うのかと長い小説家人生……否、小説を趣味にしてきた人生が全否定されたのだ!
**小説は作者が楽しむために書くんじゃない! 読者を気持ちよく喜ばせるために書くのだ!**
「どうりで、誰も読んでくれないはずだ!」
カクヨムでは数人の方々から温かいレビューを頂いた。それなりに☆もついた。
だが天下は取れない。それでも、まあ、いいかと諦めと妥協のため息がパソコンのモニターを曇らせる。それを数年続けて、そして──壊れた!
「もう、いやだ!!!」
承認欲求を満たせぬ敗北感。
「おまえは負け犬」
ほくそ笑む勝者らが眩しくサイトのトップページを飾る。そして商業デビューを果たす。ぼくも憧れて挑戦してみるが、全く上位に食い込むことすら出来ない。
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
壊れて、そして自分の書いた小説を全て消去!して、これまでレビューをくれた心優しい人たちを足蹴にぼくは、姿を消すことにした。サイトから逃げた。アカウントを自ら削除して「もう小説は書かない」「小説家の夢なんてみない」と誓いを立てて、食べて寝るだけの簡単な人生を選択した。
なのに、何故また書きたいと思った?
どうせ誰も読んではくれない──それでもいいか。
承認欲求は満たされないだろう。だけど──それでも物語を描きたい。自分だけの世界を構築したい。
そんなぼくがユーチューブで「なろう作家」先生の言葉に衝撃を受けた。
「繊細な文章で風景描写なんてするな」
「難しい言葉をつかうな、中学生が理解出来る言葉にしろ」
「比喩表現なんて星の彼方へぶん投げて忘れてしまえ」
いや、もっと優しい語り口です。でも言わんとすることは、こういうこと。
「小説とは、緻密に練り上げた文章で読者の大脳皮質に映像を結んで上映会をやるメディアである」これは嘘だった。
いや、嘘ではないな。けれどそれは純文学の世界の話だ。
エンタメは、特にWeb小説は、、、
* * * * * * *
「
ずばばばっ!
ドラゴンが
ずずぅぅん!
「うん、
「イエス!」
* * * * * * *
これが「なろう小説」であり、そしてこれで良いのだ。
と、いうか「こういう書き方じゃないと読者は読んでくれない」と先生はおっしゃった。
「マジですか」
ぼくは目を皿のように見開いて…… ←と、こういう比喩表現もNGなのだ。
ぼくは驚いて目を見開いた ←こういうふうに書きなさい。
うん、もちろんこれはあくまでも「小説家になろう」の読者層がそうなのであって、たとえば青春小説「スーパーカブ」という名作を生み出した「カクヨム」ならばもう少し純文学的な雰囲気になるかもしれない。
* * * * * * *
姫からお借りしたエクスカリバーを俺はおもいっきり振り下ろした。
「ぐおぉぉぉ」
「それにしても──」
そうとうな大きさだ。一人では食べ切れないなあ、と途方に暮れていると石造りの
俺は笑顔を作ると手招きをした。飯は誰かと一緒のほうが楽しいからだ。
* * * * * * *
こんな感じかな。
もう少し平易なほうが良いかもしれない。
一方で「幼女戦記」や「オーバーロード」を生んだアルカディアは細かい情景描写が必須だろう。いわば「なろう」とは真逆の読者層が多いと言えるかもしれない。
* * * * * * *
宝玉が散りばめられた聖剣エクスカリバー。帝国の姫は──俺よりも年下の清楚な美女だ──「国の宝です」と一言添えて俺の手に握らせた。
今、その剣の力をもって漆黒のドラゴンに挑む。鱗に覆われた羽を広げて、やつは威風堂々と突進してくる。
「えい、や!」
聖剣に埋め込まれる宝玉が光り輝いた。俺の意識に何かが入り込む。抵抗は出来ない。ただ口をついて出た「神の力は偉大なり」呪文のような言葉には俺自身が驚いた。神など、俺は信じてはいないはずだ。
正気に戻ったとき、眼前にはドラゴンの巨体が横たわっていた。首がスッパリ切り落とされ鮮血に砂の地面が染まっていた。
「俺が、やったのか」
そんなとき視線を感じた。苔むした石造りの廃墟に囲まれた奇妙な村だが、その一角にエルフの子供が顔だけ覗かせていた。女の子のようだ。
「どうした、このドラゴンの肉が欲しいのなら、ここへ来て俺に頼め」
エルフの子供は──ボロ布に身を包んではいるが磨けば美少女になる気がした──少し怯えながら、それでも空腹に逆らえないのか俺とドラゴンの両方に視線を左右させながら近づいてきた。
「うむ、おまえが俺の奴隷エルフとなるなら、これからも腹いっぱい食わせてやるがどうする」
何故だろう、何故そんな提案が口から出た。自分自身を制御出来ない不可思議さに頭を振り、それでもエルフの美少女に名前を尋ねた。
「……フェイトと、申します。旦那さま」
フェイトは膝をついて俺を崇めるように見上げた。蒼くつぶらな瞳だ。
「よし、宴の用意だ!」
* * * * * * *
ううむ、個人的にはこれが一番好き。と、いうかこういうふうに小説を書きたい。けれど、この書き方では少なくとも「小説家になろう」では世に出ることはない。ランキング最下位を争う状態になる、と先の作家先生はおっしゃる。
そのサイトの読者層に合わせた書き方を心得なければならない──わけだが、おそらく「幼女戦記」や「オーバーロード」は特殊な事例であって、アルカディアでもここまで書き込むと読者は読んでくれないのではないだろうか。
根底にあるのは、若い人たちの「本離れ」だ。
実はラノベも売れなくなってきている。ちなみに言っておくが、ここでいうラノベとは『電撃文庫』や『スニーカー文庫』などの「若者向けライトノベル・レーベル」のことであり、「なろう小説」ではない。
なろうをはじめ、Web小説は「本を読まない」現代っ子たちが唯一例外的に小説を読みに来るインターネットサイトだが、本を読まないだけあって「小難しいの嫌い」「簡単な日本語で、ばーっと書いてあるやつがいい」「擬音がいっぱい楽しいお」な子たちの楽園なわけだ。そこに「日本語を駆使した純文学的言霊ワードで君たちの脳内に映像を浮かび上がらせてあげよう」なんて勘違いした爺が小説書いても誰も振り向いてくれない。
悲しい現実だなあ、と日本語の衰退を憂いながら、今日も小説家の稼ぎだけでご飯が食べられる日を夢見ながらMacと格闘している。
ぼくは小説が書きたい 猫海士ゲル @debianman
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