ポテトヘッド

スロ男(SSSS.SLOTMAN)

🥔


 ポテトヘッドは、もともと本物のじゃがいもに手や足といったパーツをつけて完成される玩具おもちゃだった。

 だから、これはいわばマンヘッドである。

 私は切り離したばかりの人間(女性。おそらく二十代の後半といったところか)の頭部に手と足のパーツをつけた。

 深夜のガレージはがらんとして、真ん中に所在なくマンヘッドが……いやウーマンヘッドか……それとも時勢にあわせてパーソンヘッドといったほうがいいか……所在なく突っ立っている。

 なんだか味気ないので目玉をくり抜き、インカの目覚めを詰めた。

 ずいぶんと、

 ところで呪詛というのは口から発せられるものである。呪いの言葉は音となって人に届き、届くことによって脳が受け止め、災いの種子になり花開く。

 だから人の命を刈り取るときは、きちんとその口を閉じておかなければならない。さもないと、あなたの頭の中に呪いはこごる。

 私は用心深いので、ちゃんと彼女の口は閉じておいた。タコ糸をクロスステッチの要領で縫い付けたのだ。

 騒ぐのを抑えるために口の中に放り込んだのは男爵芋の種芋だった。叫びはくぐもり、えずく音と喘ぎ、粘ついた咳払いをBGMに革用の針で縫っていく。

 そのときはまだ彼女は自前の手足を持っていたし、眼は蛍光灯の光を反射していた。キリストよろしく両の掌は釘で打ちつけてあったし、脚も膝から下はつま先が地を向いていたけれども。


 さて。

 私は出来上がったポテト眼ヘッドに、屈んで囁きかける。

「目覚めよ、人の子」

 邪魔だったので断ち切りバサミで適当に短くしてあげた髪を揺らして、彼女が手を挙げた。

 かわいらしい。

 だが、どちらを向いているのかわかりづらいので彼女のじゃがいものお目々にマッキーで瞳を描いてあげた。顔の前で手を振ると、ちゃんと描かれた瞳が左右に振れた。

 私は彼女の右手に断ち切りバサミを、左手にトンカチを持たせた。

「さあ、望み通り、男のもとへ行くがいい。いまの君ならば願いは果たせるだろう」

 こくん、とうなずいて彼女はシャッターへと向かっていく。私は指を鳴らし、シャッターを開ける。

 大きな音を立てて開いていくシャッターの、外は闇。

 自分をイモと呼んだ、憧れの君へ、ただそういって笑い者にしたことの怨みを存分に晴らすがいい。

 あなたが簡単に楽になれないよう、あるいはあっさりあらぬところへいってしまわないよう彼女の口は閉じておいたし、手足も脆くか弱い。甘噛みのように指の一本一本をちぎり取られ、柔らかいところから徐々に潰されていくが良い。一晩中、何度も何度も。

 それが人間をやめた、いまの彼女の望みなのだから。

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