第11話

ロイグランド帝国 宮廷 医務室。

 

 エリスとの激戦を終え、俺は傷の治療の為に医務室に運ばれた。

 

俺としては、治癒魔術で大分と良くなったので早くベッドでぐっすり眠りたかったが、アタナシアたちから小言を言われて、改めて診察を受けることになったのだ。


診察と言っても簡易的なもので、血が流れ過ぎていたので輸血して、体に異常がないか検査するだけで終わった。


まぁ、現代の治療で良かった。一昔前だと体に悪いところがあれば、気を失うまで血を抜かれると言う地獄の罰ゲームが待っていたところだったからな。いくら魔術が発達しているとはいえ、医学知識がない医者が一昔前は多かったらしい。それこそ、床屋の人間が医者になっていた時代だからな。


 本当にこの時代に生まれてよかった。


 俺はそんなことを思いながら、ボ~としていると治療が終わったらしい。


 「まさか、本当に何ともないとは…骨が砕けているかと思いましたが」


 「まぁ、日ごろの行いだな」


 俺は当然のことを言い、左肩を回す。

 普段よりも少し動かし難いが、まぁこの程度なら問題ないだろう。


 キィ~~


 医務室のドアが開いた。

 

 「ロイ、傷の具合はどう?」


 アタナシアかと思って振り返ると、エリスだった。


 エリスか…あいつが言った言葉の意味何だったのか、丁度聞きたかったところだ。

 都合がいい。


 「問題ない。それより要件は何だ?」


 「貴方のそう言うところ嫌いじゃないわ。私も無駄が嫌いだから。ついて来なさい、此処では話せない内容よ」


 「分かった。それじゃあ、世話になったな」


 俺は、医者にそう言って席から立ち上がる。

 エリスは、廊下で俺が来るまで待ち、俺の左側に寄って歩いた。

 彼女なりの優しさなのだろう。


 手すりに掴みながら、階段を上がって屋上に出る。

 上を見れば満天の星空が見え、下を見れば豪華絢爛な宮殿が見える。手入れの行き届いた庭や、噴水。もう、22時は過ぎたと言うのに外は大忙しだ。


 「ロイ、私が言った言葉を覚えている?」 


 唐突にエリスがそう言った。こいつのこういう無駄を省きたがる性格は俺も嫌いじゃない。多分本質的に俺とエリスは似ているのだろう。


 「あぁ、何でも手始めに俺に死んでもらうとかなんとか」

 

 「えぇ、魔術で貴方に似せた死体を王国に送るわ。そして、ちゃんと戸籍を消して貰う」


 エリスはそう言って、俺の腕を掴んだ。


 魔術で強化していない彼女の握力は一般的な女性の握力より、やや弱く、ヒンヤリとして冷たかった。


 「ヘェ~、面白いこと考えるもんだなぁ」

 

 「でしょ。これで貴方は帝国以外の国でまともに仕官できない。そして、母国に帰ることもほぼ不可能になる」


「はぁ~、なら俺が二つ返事で戸籍を捨てますと言う訳がないって事も分かるよな」


 「当然でしょうね。貴方にそれをさせるほどメリットを提示してないもの」


 エリスは自信満々にそう言った。

 不思議なことに彼女が言うと、あながち嘘ではないのかもしれないと考えてしまう。


 「で、どうやって俺を説得するつもりだ」

 

 「宮廷魔術師は、約300~500名程度いるわ。皆、精鋭中精鋭。しかし、コードネームが当たられている者その中で僅か30名のみ。そして、役職持ちはさらに人数が減る。私は、宮廷魔術師でナンバー2の立場にある」


 「詳しく聞かせてくれ」


 「えぇ、勿論よ。団長と副団長にはそれぞれ副官の任命権がある。団長であるアタナシアは、おいそれとは任命権を使えない。でも、副団長である私は違う…まぁ、彼女と違って帝国有数の名家の生まれというのが大きいわね。色々と融通が効くのよ」


 「つまり、お前なら俺を一気に副団長の副官にできるって言うんだな…王宮魔術師の役職持ちは、例外なく爵位が授与される。確かに、魅力的だ」


 俺がそう言うと、エリスは満足げな笑みを見せる。 


 しかし、自分で言うのもなんだが何でこいつは貴重な副官人事まで使って俺なんかを欲しがるんだ。別に、俺としては衣食住の保証と宮廷魔術師に推薦してくれるだけで、あんな国身分なんか捨ててやるつもりだったんだけどな。


 「なんで、私が貴方をそこまでして欲しいか分かる?」


 「知らん。でも、あんたの目的に俺の魔術が役立つと確信してるんだろう」


 「貴方のそういう聡いところは好きよ、ロイ。一体どこで貴方はその魔術を会得したかとても興味があるわ」


 そう言って、エリスは俺の首筋にヒンヤリとした彼女の手を伸ばす。


「ペラペラ喋ると思うか?」


「あり得ないでしょう。魔術師にとって魔術は命より大切。他人にペラペラ話す馬鹿がいる訳ないわ」


「じゃあ拷問でもするのか?」


「まさか、あいにくと私は自分の所有物を無闇に傷つける趣味は無いわ。大事なのは貴方が私の為に魔術を行使すること。それだけよ」


 「そうかよ…なぁ、そろそろお前の目的を話せよ。時間の無駄だ」


 「…私の目的は、アーレス王国を滅亡させることよ」

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本日より、宮廷魔術師として働きます~母国で何処にも就職できなかった最強魔術師は、大国で宮廷魔術師として採用されることになった件について 星月一輝 @seisei0617

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