Epilog
「つか……れ、た……」
どさっと畳の上に置かれた人をダメにするクッションへ崩れ落ちる。あれから十二時間程。深夜丑三つ時を過ぎてうっすら朝日も見えそうな時間帯。ようやく事情聴取やら後始末やらナニヤラカニヤラから解放され、ふらっふらでどうにか愛しの我が家……では無く、バディのお家へ辿り着いたところ。あぁ、このクッションホントにダメになる。
「ちょっとバンビ、お風呂入るんでしょ! その為にわざわざうちに来たのに」
はい、私の部屋だとシャワーだけになるし、どうせならちゃんとしたお風呂入って、お酒飲みながら祝杯挙げようってことでベア子の職務報告が終わるのをわざわざ待って一緒に帰ってきたのだ。でももうダメ~一歩も動けない~。
「ねぇバンビ? もう! 寝るなら私先にお風呂入るからね」
呆れ声のバディが去って行く。ビール冷蔵庫に入れてねって言いたいけど言う気力が無い。本日第六機関エーテル回路フル回転で頑張りすぎました。やっぱりあのサイズはダメだよ。アレは担当どう考えても私じゃ無い。世界観間違ってる。私はその、何というか怪異とか、異形とか、伝承とか、そういうの相手にしないといけないジャンルのはず。それがどうして巨大イカ……
それでも結果は上々。流石私たち最高の鹿熊コンビ、バンビ&ベアー。公安課からもお褒めの言葉を頂いたし、金一封もしっかりゲット。バイクも新しいの用意してくれるみたいでマスターへのフォローも一安心。それに、ベア子もちゃんと評価されていたみたいだ。これが正直なところ一番大事。
ぶっちゃけた話、私がこうやって星の代行者としての力を行使する理由なんて彼女の為くらいしかまともな理由が無い。これは、絶対に秘密だけどね。ベア子はベア子の幸せを掴むべきだと思うし、むしろ私は彼女が幸せに結婚して、子どもが出来て、人並みに子育てに悩み奔走している、そんな姿が見たいのだ。
だから、これは内緒。私だけの、共有することの無い痛み。
少しウトウトしていた様で物音に気付き目を開けると、お風呂あがり、寝間着の浴衣姿なベア子が、ビールとグラスを二つ持って丁度私の横に座るところ。ちゃぶ台にグラスを置き、ビールを開けて注ぎ始める。
「お風呂空いたよ。入れば?」
「……先に乾杯したい」
だろうね、とグラスを勧められる。のそのそ起き上がり、どもどもとグラスをもってお酌をもらう。素敵な黄金比。コレは絶対美味しい。
「では、無事イカ退治成し遂げられた公安課熊小川衣都様より乾杯の音頭を」
「え、何この茶番。酔ってるの? まぁいいや。お疲れ様。あと―――来てくれてありがと奈津。……乾杯」
ちょっとだけグラスを重ねて、よく冷えたビールで喉を潤す。あぁ、この疲労感。夜から朝に変わり白け始めた空を眺め、気温の変化に蜩がカナカナと奏でる音に耳を傾けながら飲むビール……これはギルティだ。
「そうだバンビ、アレやめてよね。エーテルの受け渡し術式のこと報告書に堂々とキスって書くの。お陰でまた署内で色々言われるじゃない」
「キス以外にどう書けと?」
「あれば付与術式。キスとは違う。わかった?」
「いーじゃん別にそんな細かいこと。それにこれが初めてでもあるまいし」
「五月蠅い、黙れ馬鹿バンビ」
Their story continues.
鹿と熊VS巨大イカ バディ以上百合未満な石ノ森系が円谷系巨大生物と戦うだけのお話 時邑亜希 @Tokimura-Aki
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