勘違いから始まる物語に笑いと驚き、そして、“クズの意地”を見る…。

 酒に全てを捧げて生きてきたデブで、クズなおっさんが主人公の物語。

 本作の魅力はなんと言っても人間関係。特にアル中・クズ・デブの主人公とヒロインとのやり取りです。

 酒に溺れ、酒を何よりも優先する主人公。その様を好ましく思わない村人たちからは村八分な扱いを受けます。
 そんな彼が、ひょんなことで出会ったのがロマンチストのヒロイン。主人公について純粋に興味を持った彼女が彼の過去を調べてみると、そこには嘘をつけない、一途に好きなモノを愛し続ける不器用な男がいました。

 そんな不器用で少し捻くれた主人公と、純情でツンデレなヒロインとの掛け合いこそが最大の魅力。ヒロインのとある“勘違い”が全ての始まりですが、主人公はクズなので、それを指摘することはありません。しかも、とある出来事がヒロインから見た主人公の“良さ”に拍車をかけることに…。

 勘違いに気づかずアプローチする彼女を適当にいなす中年のおっさん。そんな2人のシュールな構図に思わずクスリとさせられます。それなのに、物語の最後には2人の関係性も大きく変わっていて、主人公の本当の良さも見えてくる。主人公なりに“クズの意地”のようなものが伝わってきて、思わずグッときました。

 デブであること、辺境の村なのにやけに商人が訪れる理由などなど…。何気ないそれらの設定にもきちんと意味があって、クズというだけでは無い主人公の良さを示す伏線になっている。
 それでいて、あくまで主人公とヒロインの関係性に着眼点が置かれ、でしゃばらない。その絶妙な塩梅も見事でした。

 笑いと驚き、そしてクズの意地を見ることが出来る作品。全体で25000字と短い、短編よりの中編で、タグにもあるように最後まで読んでこその面白さかと思います。勘違いから始まった小太り中年とツンデレ2人の行く末、必見です!

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