盾のおっさんとツンデレ花嫁 【中編版】

エイル

1話 村八分の男

 剣と魔法で魔物を倒し、村を守りながら畑を耕す異世界のナセル王国の辺境の人口100人ほどの村に46歳の男がいた。

 

 嫁はなく、稼ぎは酒に注ぎ込むから太りお腹はボコッと出た酒太り、仕事は狩人だが素早さのステータス値が低く、武器の扱いは、スキルが取得出来ないため扱えない。一緒にいても役に立たないから他の村人が狩りに一緒に行くこともない、真正のボッチな男である。

 

 100人足らずの村であるから、その男、エースのことは全員知っている。村人達は彼を口々に呑んだくれエースと蔑んだ。

 

 村のエースなって欲しいと親に付けられたエース。その名前に負けた男は今日も酒を呑むためだけに村を出る準備をする。

 

 村の地域は内陸性気候の為に雨が少なく作物はあまり育たない。川は近くにはなく、やや標高が高めである。

 

 水は井戸でも得られるが水量に限りがため干やがりやすい。だから雨が少ない時に備えて消費量は極力抑えている。主な農業用水源はため池になっている。これも干やがる事はよくあるので、気休め程度の効果しかないのである。

 

 作物の育たない村の主な産業は魔物狩りで得た素材と鉱物資源の販売で、足りない農作物は行商から買う必要がある。

 

 村の良い狩場である露天掘り鉱山の近くはエースを蔑む村の狩人に追い払われるから、エースは危険な荒野で仕事をしている。

 

 村の狩り場は岩山なので、魔物から隠れやすく罠も設置しやすいし、何より魔物に囲まれ難く逃げやすい。

 

 攻められにくく、守りやすいのだ。

 

 それに対して木も草も少ない荒野では魔物に囲まれたら、倒すか、速く走って逃げるしかない。ステータスエースに逃げるというのは不可能だ。

 

 エースの最低限の仕事の身支度と言っても素材運搬用の荷物袋と仕事道具の盾を持っているだけである。

 

 そして呑んだくれにとって最も大切な酒の買い出しに村の酒屋にエースはやって来た。

 

「いつもの安い酒をこれで買えるだけ売ってくれ」

 

 店主はガタイのいい男で酒場と酒屋を合わせたような店を切り盛りしている。料理は酒に合えばより良いが調味料が限られるから、食えればいいそんなレベルである。

 

「酒臭いぞ、朝から呑んでまだ呑むのか、さすが呑んだくれエース」

 

 村人の顔くらい覚えているのだから、上等な接客なんて村人にはしないのだ。特にエースは客と思われているかも怪しい。

 

「俺の稼いだ金なんだからいいだろ?」

 

「安酒ばかりで儲けがない悪い客だ。呑んだくれエースさんよ。ほらいつもの濁り酒だ」

 

「これでも客なんだから愛想笑いくらいしろよ」

 

「もっと上等な酒を買えばしてやる」

 

 濁り酒は放置して、発酵させただけの手間暇を極限まで減らした、アルコールが入ってる呑める物程度、毒物はギリギリ入ってないクソっ不味く辺境の村人でも飲みたくはない酒である。

 

 もちろんビンなんて上等な物に入っておらず、魔物の皮革製、継ぎ接ぎだらけで安物の長持ちしない水筒に入っている酒を有り金の全てを注ぎ込み買う。そして受け取った酒水筒を一つ残して残りをエースは荷物袋にしまう。

 

「じゃあな、また仕事が終わったら買いにくる」

 

「道中で呑んだくれて死ぬなよ呑んだくれエース」

 

「ありがとよ。呑みきるまで死なねーよ、またな」

 

 呑んだくれエースがまともに会話する村人は、この店主だけである。何だかんだと憎まれ口を叩くが、エースのためだけにぼろ酒の材料を注文して行商から仕入れる男気ある人である。だからエースは村八分でも村に住んでいるのだろう。

 

 安物でも爆買するエースは酒屋の店主が上げる利益にそれなりに貢献してたりする。会話してくれる動機は知らぬが仏だろう。エースもそこまで馬鹿じゃないので察してはいるだろうけども。いやアルコールの友情とか思ってそうだ。

 

 エースは盾を売っている雑貨屋とも取引はするが完全に定型文で、ゲームのごとく完全にリピートである。雑貨屋の売り上げ1位がエースなので店主のおばちゃんが声を出してくれるのだ。世の中やっぱり金が偉大なのだ。

 

 荷物袋にパンパンの酒を持って村の出口に歩いて行くと村の幼い男の子とその母親とすれ違う。

 

「呑んだくれエースに近寄るんじゃありません」

 

「はーい」

 

「あんな独り身で呑んだくれの中年男になるじゃありませんよ」

 

「はーい」

 

「なるなら、思いやりの心があるお父さんを目指しなさい」

 

「うん、お父さんみたいになる!!」

 

 そんな声を聞きながら、エースは無視して歩いて行く。

 

 反応すれば罵倒されるのだから無視にかぎるのだ。万が一にでも、エースが無視されたら心が折れそうなんてことは無いった無い。

 

「呑まなきゃ、やっとられん」

 

 そうぼやいて、クソっ不味いさっき買った酒を呑むと、早足で村を出たのだ。

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 村八分のエースが出発した頃、村では若い恋人同士の二人が夢を膨らませている。

 

 封建社会である以上、あまり遠くに移動は出来ないし、自由に旅することも出来ない。行商人も基本的に領主の領地から外には出ない。

 

 国を越えて移動が出来るのは、豪商や貴族くらいなのだ。だがもう一つ例外が存在している。それが冒険者だ。

 

 腕っぷしだけでなれる職業ではないが、強くなければ生き残れない職業でもある。強さで貴族や豪商と同じ特権階級に成れるのだから、才能があれば目指さないわけがない。

 

 冒険者ギルドの試験は学科が存在しているために、読み書き計算が出来ない若者が合格する事は無い。特権階級なので誰でもホイホイ入れたりはしないのだ。

 

 そんな情報はこんな辺境の村に、誰も教えてくれないために知らない。強ければ可能性ありと思っている。

 

「マリー、行商人が注文してた武器を持って、村に来たぞ。一緒に受け取りに行こう」

 

 冒険者を目指す若者の片割れのケインだ。今の若者の中で一番のイケメンにして、村で最強のステータスとスキルを持っている。

 

 罠と槍で狩りをする村では、かなり珍しく得意武器は両手剣を選んでいる。両手剣は長さがあり取り回しは悪いが一撃の重さと、敵との距離を最低限は保てる武器だが、金属部分が多いから価格はかなり高い。

 

「そうね。私も頼んだ短剣とスタッフも試してみたいし、買いに行かなきゃね」

 

 マリーは後衛の魔法使いだ。だが魔法の威力を向上させる装備は、かなりの高額になる。なぜなら付与スキルを武器に効果を与えた物か、ダンジョン産の物品になるからだ。

 

 そんな物は買えないので、とりあえず殴れば攻撃になり、それなりの大きさで護身にも使えるスタッフと、軽く使いやすい短剣を護身用に選んだ。

 

「高ったんだから、そうとう強いさ。これで二人で冒険者になろうな」

 

「ええ、私達で一獲千金、世界を見て回りましょう」

 

 有名になるという夢ははない。なぜなら二人は有名で国を破壊できるほど、強い冒険者を知らないからだ。既知の外は想像もできないのだ。


 世界には大陸を滅ぼせるほどの転生ダンジョンマスターが居るがまた別の物語である。

 

 恋仲の二人は、知る限りで最高の夢を語り、行商人の元に注文した品を受け取りに行く。

 

 希望を抱き不安を感じずに突き進める。それが若者の特権だ。

 

 小さな村なのですぐに行商人の元にたどり着く。この村の娯楽は酒と噂話、生活必需品などの買い物だ。それら全て行商人が持ってくる。

 

 だから行商人の来る日は賑わい我先にと話を聞き、物を買う。もちろん買うためには村の商品を行商へ売らねばならない。

 

「今回も盛況ね、さてと私のスタッフと短剣はこれかしら?」

 

 ステータスやスキルがあるために、かなり重く大きさがあるスタッフでも、十分に実用性がある。装飾こそないが、武器として洗練された実用美を備えたスタッフと短剣をマリーが見つける。

 

「それと、その剣が注文の品ですよ。残りの代金支払えば、お渡ししますよ」

 

「もちろん私はあるわよ、ケインはかなり高額だけどあるの?」

 

「俺も大丈夫だ。これで足りるよな?」

 

「毎度あり、武器も大切だけど防具はいいのかい?また前金貰えれば良いもの持ってくるよ」

 

「これで稼いで、次はいい防具を頼むさ」

 

「若いってのはいいねぇ。無茶して死になさんなよ」

 

「ありがとう、次も貴方に頼むわ」

 

「おっそりゃ毎度あり、ちょっとはサービスするよ」

 

「ああ、分かった防具も頼もう」

 

 辺境の村なのに行商人は複数人がこまめにやって来る。大きな利益があるわけではないし、特産品もないが行商人には、何故か人気な村である。

 

 装備を整えた二人は荒野へ防具の代金を稼ぐための狩りと、武器の試し斬り、何より夢を適える修行のために村を出たのだった。

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