後日談

 事件は解決した。


 藤田さんの認知症は思っていたよりも、進行していたらしい。

 ふらふらと出かけては他人の自転車を自身のものと勘違いしていたようだ。

 乗ったはいいが、高さや座り心地の違いからすぐに降りていたということ。


 この事件の疑問の1つ、備え付けロックの解除に関して。

 これは藤田さんからすれば簡単なこと。鍵を間違えたと思ったら、自転車屋時代の経験から代用品で解除していたのだ。


 事件後再び『秋雲』に集まった面々はしんみりと語りあっていた。


「フジちゃんも老人ホームかぁ」

 

 マスターは寂しそうに呟く。


「マスターも気を付けてくださいね」と、巡査部長はカウンターから声をかける。


「私かい?事件になるような技術はないから」

 

 そう笑うマスターだが、探偵と自治会長も少し心配げだ。


「人間寿命があるように、脳にも寿命があるんです」


 その探偵の言葉に頷く自治会長。


「長生きもいいが、脳の寿命より先にあの世がいいかな……」


 その言葉を最後に、各々おのおのはぼんやりと湯気をあげるコーヒーカップを眺めるばかりだ。その様子にマスターは、「何にせよ、今日を大切にね」と語るのであった。



喫茶店『秋雲』事件録 完

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喫茶店『秋雲』事件録 八雲ヨシツネ @Colindale

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