第6話 王様の耳は象の耳

私はお母様がパーティーに連れて行こうとしていることを知り、ダグは家へと帰宅し俺はと言えば母親であるウィーナ・ルドガーの寝室にまで足を運んでいた。




 「お母様失礼してもよろしいでしょうか?」




 「ええ、いいわよ」




 俺はナンシーと共に寝室に入るとそこには大量の・・・尺のおかしいドレスが並べられていた。




 「お、お母様そのドレスは少し小さすぎるのではないのでは? いくらお母さまと申し上げあげましてもあふれ出んばかりのその美貌にドレスがはち切れてしまうのではないでしょうか?」




 「何を言っているのエレット、これはあなたが明日着ていくドレスよ?」




 「お母さま本気なのですか? 明日開かれるパーティーに私を連れて行くというのは」




 「ええ、私に二言はございませんよ? なんでも貴族たちの間で、綺麗な少女を見たと噂になっておりましたの、その少女はメイドと一人の少年を連れていたとか。先日行ったパーティーでそのお話をされましてね、何でもそれはここ辺境地ルドガー領と言うではありませんか、この地でメイドを連れているものなどよそ様の領主殿以外となると私たちルドガー家の者に限られてきます、生憎近頃この領地に来訪者の方のご予定はなく、そのため私もパーティーに赴いた次第ですわ、そしてどうやらその話をこの国の第一王子であるアレン・ゼント様の象よりも大きな耳の情報網にかかったらしいの、アレン様直々にこの私に対してぜひとも明後日行われるパーティーにお誘いしてはくれないかという申し出でしたので是非にと答えさせていただきましたの、最近エレットは元気がないと聞いていましたし、一度外の世界を見て気分転換も必要かと思いましてね」




 ウィーナはそういうと目の前にあるドレスを一着ずつ吟味し始め。




 「どうせなら派手な方がいいかしらねナンシー、折角綺麗とお褒め頂いているのだから装い華やかで誰の目にも止まる存在がいいわよね?」




 「そ、そうですね奥様、ですがここはエレット様の素の可愛さを生かすという方向もよろしいかと思われますので、あえて質素なドレスを着て、お化粧でドレスアップもよろしいかもしれません」




 「そ、そうねぇ装飾品などの有無はどうしましょうか? 王子にお呼ばれしたのだからそれ相応の装いをしていかなければ無礼に繋がるかもしれないじゃない?」




 「ですが私たちの立場は子爵。ほかの上流に就かれている爵位の方々の目障りになるやもしれませんここは慎重にメイクだけで穏便に済ませては」




 「けど・・・」




 先ほどからナンシーは妥協案を提案してくれいるようなのだが、どうしてもこのウィーナ夫人は俺、いや私に華やかなドレスを着飾せたいらしい。




 「まぁ奥様折角ですので! 両方やっちゃいましょう!」




 ちょっとナンシー!?




 「いいわね、それで行きましょうナンシー!」




 これは普段ナンシーをからかっていた俺へ見せしめか!?




 「ああ、お嬢様が綺麗なドレスで私の教えたダンスを踊ってくれる日が来るなんて」




 その恍惚とした表情に俺は今までに感じたことのない恐怖を感じた。


 まるでショタに女装をさせたがるどこかのお姉さま方のような。 まぁこっちでも向こうでも一人っ子だったんですけどね。(あ、やばいお姉さま方を追加設定したくなってきた・・・そんなトッピングじゃあるまいし・・・)




 ということでウィーナの寝室は今やエレットドレスアップ会場と化した。




 ああでもないこうでもないと、2人は俺を外野守備者に仕立て上げ、今度は服の色やデザインで論争を繰り広げていた、あの俺の意見は?・・・




 そして論争から大論争へと発展ののち、ポリエステル生地で少し光沢を帯びたフロスティブルーの上着を羽織りマスカレード風ドレスで、スカートの部分には生地の厚いレース数枚にブルーの反対色であるオレンジ色の花の刺繍を施し、膨らみを付けるためにスカートの中にパニエを履かせるという結果に落ち着いた。(ポリエステル生地は19世紀に入ってですがどうしても光沢を出したかったのでここに記しておきます)




 「ナンシー」




 「奥様」




 二人は勢いよく手を握りしめそのまま熱い抱擁を交わし始めた。


 二人の間からなぜか男の友情みたいなものを感じた、前世が男の俺が言うんだ間違いない。




 「それでは今日はこのあたりで、明日またメイクは私が致します、ナチュラルでよろしいでしょうか奥様?」




 「そうね、悔しいけれど私より元がいいからその方が殿方も喜ばれるでしょう」




 こうしてエレットドレスアップ計画は幕を閉じるのであった。




  エレットは一人自室に戻り化粧台の前に突っ伏し項垂れていると。




 「おっひさ! げーんき!」




 顔をあげるとそこにはいつぞやの女神が、サングラスをかけ、水着姿で鏡の中にいた。




 「楽しくやってるかしら?」




 「お前は楽しそうだな!」




 「そりゃもう楽しいったらありゃしないわ、今まで見たくもないクソデブの動向を見守りつつ生活しなきゃいけなかったからもう退屈で退屈で、その分のバカンスを楽しんでるってわけ! そっちの調子はどうよ? 魔物に転生して、アイテムは葉っぱだったかしら? あ、それはまた別だわ」




 こいつ今葉っぱって言ったか? 今確かに葉っぱって! そんなもん股間守れるぐらいの機能しかねーじゃねーか! いや下手すりゃ股間さえ守れない。




 「あんたもいちいち細かいわね、えっと、ああ! 思い出したわ! そうよ! 勇者で携帯だったわね! あんたも運がいいわね! どうなのよ使い心地は! しっかり町の1つや2つ救って工業化まではすすんだかしら?・・・ あら女だわ、あんた誰?」




 そうかいそうかいお前はそういうやつだったんだな、全く俺のことなど覚えてない、さっきクソデブって言ったこと覚えてろよ?




 「相変わらずの減らず口、それだけ文句言えるってことは元気そうで何よりだわ」




 気のせいだろうか女神の声が幾分優しく聞こえるのは。




「なによ、私はあんたのことしっかり見てたんだから、今まさに純潔を散らすまいと、うなだれていたとこをwww童貞捨てずに処女捨てて、しまいにゃその身も捨てられてwwwざまぁないわね! この世界をもっと楽しみなさい、人と人との関わりをもっと積極的に大事にするの、そうすればきっと子沢山の賑やかな王室ができるわよwww明日のパーティーにはゼント王国の第一王子アレン・ゼントが出てくるらしいじゃない、そして嫌でもあなたのことを気に留めるでしょうよ、前回言い忘れたけどあの美顔ローラーを使ってスキル:メイクアップしっかり発動しているみたいだし、前世と比べれば大分見違えたじゃない? その調子なら大丈夫そうね、私はいつでもあなたのこと見守ってるから安心しなさい、あなたの気の向くままに生きていいの、不都合は全部私がもみ消してあげるから、でも王子たちは私の力ではどうしようもないから自分で回避しなさいね、王族をいじるのは女神会でもタブーだからね、結婚してもそれはもう王族の一員だからよく選びなさいね。それじゃよい異世界ライフを!」




 女神は銀髪少年よろしく、はたまた風の何三郎かってぐらいの早口でまくし立て挙げ言いたいことだけ言って消えちまいやがった。




 美顔ローラーを毎日使い続けたからこんなかわいい顔になっちまったのか、そりゃ失敗したな・・・まぁでも見ててくれるって言ってたし、そこだけは安心だな・・・いや・・・見てるだけの可能性も・・・




 ついに時は来た、今日は昨日からしたら明日で、今日からしたら今日だ。つまりは今日。そう今日だ。




 逃げるなら今しかないな、まだみんなが寝ているこの時間なら外へ出て・・・今までろくに外に出たことがない俺が、外に出て生きていける!? いやそのための素振りだ、俺は今日まで欠かさずこの美顔ローラーを振り回してきた、結局、木剣も実剣も持てはしなかったけど、それでも俺は・・・あれ? おかしい窓が開かない?・・・木組の格子をみれば鉄で杭を打たれていた・・・扉は・・・だめだ・・・閉じ込められてる・・・トイレはいつもナンシーを呼んでいたから、やられた。俺に逃げ場など毛頭なかったんだこの部屋は密室だ! なんとしてでも今夜のパーティーにつれていきたいらしいな・・・女神が見てくれているとか言ってたし、多分、多分、きっと・・・不安だ。




 一度抵抗するもドレスを着せられ俺はまさしく着せ替え人形だった、恋はしない恋はしないそう心に言い聞かせて、2度目のメイクに抵抗虚しく会場行の馬車に乗せられ病院へと連れていかれるペットの気持ちを抱きながら晴れやかな舞台であるはずのパーティー会場へと連行されていくのであった。




 俺は南瓜の馬車ではないことに一抹の不安ならぬ不満を覚えこうなったら是が非でもこのパーティーを謳歌してやるぞ! と思っていたのだが。




 「お嬢様大丈夫ですか?」




 「ええ、うぇえええええええ」




 これが世に聞くゲロインと言うやつなのだろうか? ダジャレと言うには実に汚らしい、王都に着く前に私は自分自身が嘔吐と化していた、どうにかドレスにはかけないようにナンシーの介護の元。道端にゲロを吐き散らしていた、別にヘンゼルとグレーテルではあるまいし、帰り道に痕跡を残す必要はないというのに。




 そんなこんなでやっとのことたどり着いた王宮、そこは知らない世界だった、今までは家の中だけの生活で不自由なく過ごせていたのだが、これだけたくさん人がいるという状況は10年ぶりではないだろうか? 俺が歩くたびに男たちの視線が飛び込んでくる、ウィーナが淑女たるものもっと胸を張りなさい、大丈夫あなたはこの会場の誰よりも美しいんだから。




 そんなことを言われると余計嫌になる、男性女性問わず数多の目線が俺へと刺さる、その視線を意識しないように意識しないように・・・




 うっ視線のレーザー○ームとはよく言ったものだまた気持ち悪くなってきた。




 「お母様まだ気分が優れませんので少し椅子に座っていてもよろしいでしょうか?」




 「あら大丈夫? ナンシー、エレットを見てておやりなさい」




 「お母様それには及びませんわ、ナンシーもルドガー家を代表してきてるのだからお母様についていてあげて、私は大丈夫だから」




 「何かあったら呼んでくださいねお嬢様」




 「えぇ」




 ウィーナとナンシーは会場の中央へと姿を消した。




 「おやおや、これは見女麗しゅうお嬢さん、どちらの家の子かな? 私、アイル・ホーン公爵と申します」




 習った通りにやらねばこの場で首をはねられては困る。俺は足を少し折りスカートの裾を両手で持ち上げ。




 「お初にお目にかかりますアイル・ホーン様。私エレット・ルドガーと申します」




 その途端あたりがざわついた、ルドガー? そんな疑問符だらけの名前が会場内を飛び交った。




 だがその状況を一瞬で打ち消すかのように2階の踊り場へ1人の男性と呼ぶには幼く、だが少年と呼ぶには凛々しい、青年が1人階段から降りてくる姿が見えた、今までエレットに注がれていた視線はみな階上の青年に釘付けになっていた、利発そうな趣に本物の金をあしらったかのような髪色、エレットは女神の言葉を脳裏から呼び出し、あれが、あれこそがゼント王国第一王子アレン・ゼントだと確信した。




 「おお! 王子よお久しぶりでございます!」




 先ほどのアイル・ホーンと名乗った男はアレンの元へ寄るのだがもはや眼中にないようで、その視線はこちらへと向けられていた。




 「失礼ですがお嬢さんお名前を窺っても?」




 「あ、え、あ・・・」




 なぜだ!さっきアイルとか言った男には何も考えずきょどらずにあいさつができた! なのになのに! なんで今この状況で挨拶ができない! 新入社員じゃないんだぞ俺は!




 「な、き、ま、そ、い・・・」




 「失礼、聞き取れませんでした、もう一度お願いしても?」




 「な」




 「な?」




 「な、名前を名乗るならまずはそっちから言うべきでしょ!」




 だあああああああああああああ




 やったやらかした、俺史上最大のやらかし、こりゃあれだこのまま辺境の地だ、島流しだ、ここでやっとタイトル回収か、いやー長かった長かったね・・・俺の人生・・・




 「き、貴様! 無礼であるぞ! 王子に向かってそのような口の利き方!」




 「よい、我は気にしておらぬ、失礼いたしました、私、ゼント王国第一王子アレン・ゼントと申します以後お見知りおきを」




 会場は俺の大声でざわついていたのだがこの目の前にいる王子が腰を折ったことにより、さらにざわめきが大きくなった。




 「お嬢様のお名前をお聞きしても?」




 「わ、私、エレット・ルドガーと申します」




 「あなたがエレット様でいらっしゃいましたか、お噂はかねがね、あなたの前では噂の偶像さえ霞んでしまうほどのお美しさですね」




 「さ、先ほどは失礼いたしました! 我が娘エレット・ルドガーが礼儀もわきまえず、申し訳ありません、なにぶん、箱入り娘なものでして、今回がパーティー初参加で」




 ウィーナは俺の頭を押さえつけ、2人で腰を折った。




 「頭をお上げくださいルドガー夫人、私もこういった場は初・め・て・なゆえどなたがどなたかわかりようもございません」声を潜めて「皆卑しい顔をしておいでですので、ふふ」




 その時エレットの身体が震え上がった!




 それは第一王子に身体を触れられたからとか言うわけではなく、初めてという言葉に過剰に反応したためだった。




 「お母様申し訳ありません私気分がすぐれなくて」




 「それは大変だここは私にお任せください、安静になれる場所へお連れいたしましょう! さ!」




 さ、じゃない! さ、じゃ! ってえー、ちょっとナンシー! なんでついてきてくれないんだ。いらん気遣いをすなー! 早く来い、来い! きてー。グッじゃない! グッじゃ!




 親指を立てるなー!




 そのままアレンは自身のメイドを連れ立って別室へと俺を招き入れた、べ、ベット・・・




 「さぁエレット様こちらへ」




 俺はしょうがなく促されるまま横になる、今ここで治ったと言ってもいいのだが、明らかにおかしいまだ時は今ではない。




 俺が横になっていると、なぜか王子が俺の顔を覗き込んでくる、俺が身体を横へひねると王子もそれに伴い顔を俺の方へと向けてくる、また俺が身体を捻ると・・・




 「ごほん、失礼ですが王子、紳士たるもの女性の嫌がることはお控えになられた方が」




 「ああ、すまないつい、ね。あまりにも可愛いお人形さんだったもので。」




 はいお前ギルティ!世が世なら叩かれてるぞお前! てかなんでそんなにイケメンなんだよ! クソこの野郎羨ましい!




 「あ、あの!」




 俺は王子の視線に耐えられなくなり飛び起きる




 「も、もう大丈夫ですので戻りませんか?」




 「もういいのですか無理しなくても大丈夫ですよ? 顔が赤いようですし無理なさらずに」




 「お母さまもメイドも心配していると思うので」




 「そうですか、ならこの部屋から出る条件として、私と一曲踊ってくださいませんか?」




 この詐欺野郎! 弱っていることをいいことに調子に乗りやがって!




 「一曲だけでよろしいのですか? 私、ダンスには自信がございますの他の殿方ともお戯れをと考えておりますの」




 こいつは絶対俺に気がある。男の俺が言うんだから間違いない、だとすればこういうやつはビッチだの遊び人みたいな女には気軽には手を出さないはずだ! 一国の王子の嫁が遊び惚けていると知れ渡るのは国的に問題だろう? さぁ! どうでる!




 「ええ、一曲だけで結構でございます、私のトリを預かって頂ければね」




 白い歯を見せるな! 明かりの少ないこの部屋でもお前のその白い歯に月光が反射して、イケメンに見えちまうだろ!




 「トリでございますか、それは大事な約束をしてしまいましたね私も、ふふ」




 「そんなに気負うことはないさ、ただ、トリと言うのはこの国では自分に一番近いものと踊るという風習があるらしいのでね、それをぜひあなたと踊りたいんだ僕は」




 その顔は背筋が凍りつくほど真剣な顔だった、俺はこの男に無意識のうちに気後れしていた。




 俺たちはパーティー会場へと戻ると死・線・をマジマジと感じた、それは悪意のある女性の目線だった、失敗だ、一国の王子と席を外していたともなれば、そりゃ格好の餌食だ、ダンス中なにをされるかわからんな、ここは静かに座っておくことにしよう。




 だがそんなことを知らないダメンズたちが俺を囲んだ、ぜひ自分とダンスを踊って欲しいと言われたが俺はすべて断った、ただただ気が乗らなかったそれだけの理由だ、あれだけ大法螺吹いちまったけどそんなものはしらん、そろそろ落ち着いた曲ばかりになってきた、パーティーももうじき幕を閉じるのだろう、ならあの王子に捕まらないように、俺はそそくさと・・・この時のための嘔吐での道しるべtp言っても過言ではない! 




 「どこへ行かれるのですか? 姫?」




 姫だと? 当たりを見渡すも女性だけではなく辺りには人っ子一人いない、後ろを見返せば、パーティー会場から漏れる光が、王子の背後を照らし、顔に影を作る、不敵な笑み。




 「我が姫よ、もう逃げ場はございません、さ、お手を」




 もうこうなったらやけだ、こいつを猛スピードで振り落として恥をかかせればいいルドガー家には申し訳ないが、俺の未来のためだ。




 落ちろ! 落ちろよ! なんでこいつはついてきやがる! 俺らだけ遊園地のティーカップで高速回転しているみたいだ。




 「ふふ、面白いですねあなたは、それじゃぁ僕は振り落とせませんよ?」




 「王子こそ、躓いて恥をかいても知りませんことよ?」




 「それはいけない! こんなパーティーで恥をかくような王子を誰が貰ってくれましょうか? その時はエレットが私を貰ってくださいね?」




 こいつどさくさに紛れてもう呼び捨てとは憎たらしい!




 「ご冗談がお上手ですわね、王子は」




 「私はいつでも本気ですよ?」




 「それではもっとスピードをあげましょうか!」




 「お望みとあらば!」




 俺はなぜこいつと張り合っているんだ?・・・最初は踊りたくないから、踊るのであれば何か盛大にやらかしてしまおうと、けれど今自分自身はもとより、俺の心が躍っているようにも思える、それは息が上がっているとかそんなものではなく、ただただこの状況をアレンがいる状況が楽しい。




 こんなに心を揺さぶられたのは、あの日以来だろうな。




 そんな前世のことを考え頭の中が回想に入ろうとするなか、俺は忘れたいた。




 普段ナンシーとダンスの練習をするときには動きやすい恰好で臨んでいたのだが、ここは本番、そしてあの二人が力を入れて選んだドレスの裾が俺の足元にまで、「あっ」つい言葉を漏らした、世界が転げ落ちるかのような構図に俺は焦りを見せたのだが。




 「おっと、これでは本当にお姫様ではございませんか、ですがこうして近くで見てみれば私も今まで様々なじゃじゃ馬で野を駆け回ったものですがエレットのそのお美しい衣装はまるでメタリックに輝くアハルケテのようではございませんか」




 俺が転んだ瞬間この王子は地面すれすれのところで俺を咄嗟にお姫様抱っこの要領で抱きかかえた。




 失敗だ。調子に乗りすぎた、ドレスは褒められるわ、場の雰囲気にのまれるわ。決して馬場ではなく。




 ああ、なんて醜くも美しい、天からぶら下がるシャンデリアの陽光のような光を浴び、なおそのご尊顔が勇ましく見える。




 「あの、王子? 流石に今のままでは恥ずかしいのですけれど?」




 「そうかな? これほどまでに美しい光景は民衆の歓声をこの一身に受けたこの私目でも今までに見たことがないほどだが」




 こいつなんでも話を盛ればいいわけではない! 盛るのは女性の乳だけでいいと前世の俺も言っていただろうが! 顔は盛ってはいけないいいね? なんなんだ最近のプリクラや加工アプリは! おっともうこの世にないものを嘆いても仕方あるまい、だが現に俺の子のメイクなり美顔ローラーなりで盛られているから文句を言われるのは俺の方なのだが。




 「っふ、こんな見せかけのメイクに心躍らせているようではお話になりませんわね王子?」




 「そこまで言うのなら今夜私のベットの上でそのメイクの下だけでなく本当の姿を私の御前で晒していただけるありがたいのだけれども?」




 「お、お戯れを!」




 その時俺の顔は活火山のようだったろう。




 「これを戯れと捉えるのはエレット君ぐらいのものだよ? 僕は本当に君を僕のものにしたいと思っているのだからね」




 冗談じゃない、俺が王族になるだって!? そんなものドレスの中に履いているパニエ。そう鳥かごの中に入れられるようなものじゃないか! そんなのは真っ平ごめんだね! 俺はまだまだこの大空に夢みて羽ばたいていたいんだ!

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現実世界で窓際編集隠キャの俺が彼女に浮気されたので当て付けに自殺したら女神様にガチャを引かされ、悪徳令嬢に転生したのでチートスキルを無理やり勝ち取り辺境でスローライフを始めたい!(希望的観測) @enikki

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