第12話 ルームメイトの素顔

 そもそも探偵の素質や探偵に関連することが何か解らない。

 元の身体に戻るために覚悟を決めたけれど、不安は募るものだ。

「じゃあ。もう寝ましょうか。探偵試験云々のことはまた追って連絡するね。喜和子きわこちゃん。それでは寝ましょう」

神前かみさきの合図で、壱馬いちま諒子りょうこ映見えみは自分たちの部屋に戻っていく。映見は俺の手を引く。

「喜和子ちゃん、行こっか」

「う、うん」

俺は映見に手を引かれるまま、部屋に戻っていく。部屋に戻る際の映見は沈黙を保っていた。俺は口を開く。

「あの、あのさ」

「なに?」

「映見ちゃんはどうして神前さんの依頼とかに参加するようになったの?」

「うーん。最初は面白半分?かな」

「面白半分か」

面白半分にしても結構、大変なことをやっているようにも思えた。神前の言っていた内容からすると単純明快なものじゃないだろう。

「面白半分だけど人のためにやっているとか、私の存在意義に近くなっているというか」

「存在意義ね。すごいなぁ」

「前にも話だけど、私って虐待されていたんだ」

「うん、知ってるよ」

「キッカケは神前さんが受けた依頼に私の親に復讐したい人がいたからなんだ」 

「復讐って」

復讐とはどういうことだろうか。法治国家において殺人はあり得ない。勿論、そんな子供にはさせないだろう。

「うん。簡単に言うと私の親にとって大切なものを奪うことが復讐だったの」

「大切なもの?」

「うん」

大切なものとはなんだろう。映美の表情が暗いものになる。想像としては子供を【自分の宝物】と思う親が多いだろう。

俺の亡くなった母親を思い出した。けれども、映美は虐待されていた。映美は俺を見る。

「少しは自分の親が私に感情を向けていると期待してた」

映美はぽつりぽつりと話す。俺は何を返せばいいのか解らず、黙って聞く。

映美が俺に長々と昔話をするのは初めてのことだ。

(つづく)


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クズ芸人、美少女に転生する 深月珂冶 @kai_fukaduki

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