第5話 理想が現実となった日
「先生?」
「すまない。ごめん、もう大丈夫。おかしいな。泣くつもりなんて無かったのに」
人の暖かさに触れた。誰か、他人の暖かさを他でない自分に向けてくれる。それだけで十分だった。泣きわめくのには十分だった。
国民的妹と理想的美少女の膝で大号泣し、泣き止むまで頭を撫でられていた私は、泣き止んですっきりした。今までいくら泣いても足りなかったのに。
「いいですよ。大丈夫です。今まで頑張ってきたんですもの、泣きたいときに泣いても責めるものはいません。少なくとも、今ここでは」
ありがとう。
心から出た感謝の言葉。
二人向けてしっかり頭を下げる。
土下座ではなく、今度は礼として。
「よしっ! おにぃも泣き止んだし、しんみりタイムはおしまいかな? どうする? なにする? おにぃ」
「いかがしますか、先生」
「ああ、そうだな……」
小説でも書こうかな。
米 米 米 米 米 米
「瑠璃と柚子葉が出てくる小説」
「え!? なにそれ! 瑠璃読みたい!」
「私も読みたいです、先生」
「そうだな。書き上がったらな」
どうせ死ぬなら死ぬ前にやることやってから死のう。死ぬ前に読む小説を書こう。『死ぬ前に読む小説(仮題)』。それがタイトル。それを書くにはそれなりの準備がいるし、構想も妄想も必要。だから、今公開している小説はリハビリと私が自分を保って生きていくために書いている。
『死ぬ前に読む小説(仮題)』には理想の妹と理想の彼女……嫁が登場する。オタクらしい設定だ。生きることと、生きていくこと、あとは死ぬことについてきちんと向き合い、きちんと書いていく。記していく。私が生きていた証として。彼女たちが存在していたシルシとして。理想が現実に現れ、私が少し生き延びた時間を書いていく。それが一年か、十年か、八十年になるのかはわからない。早ければ一日で終わるだろう。そうならないことを祈りながら、必死に地面に額つけて、色々なものをすり減らしながら生きていく。死ぬために生きる。その日まで。泣きながら、吐きながら、薬でおかしくなりながら、何かを求めて、何も得られないで、負け組の人生を生きていく。
それがこの『死ぬ前に読む小説(仮題)』である。
死ぬ前に読む小説(仮題) 小鳥遊咲季真【タカナシ・サイマ】 @takanashi_saima
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