チート能力「マーフィーの法則」で異世界を生き抜けるか?

藍染 迅@「🍚🥢飯屋」コミカライズ進行中

第一話

 俺はいきなり白い部屋にいた。 

「何だこの場所は?」 

 見知らぬ人たちと列に並んでいる。 

「先頭にいるのは誰だ?」 

 明らかに女神風の人だ。いや、女神だ。オーラというか、ハローというか。後光が差している。 

「これはあれか? 何やらチート能力を貰って異世界に飛ばされるやつか?」 

 ラノベ的展開に巻き込まれたようだ。 

「はい、次の人――」 

 俺の番が来た。どんな能力が良いのだろう。経験値二倍とか、必要経験値二分の一とか、即死魔法とか、全属性魔法適性とか、自動治癒とか、いろいろ選択肢があるぞ。 

「次の人、どうぞ」 

 鑑定能力とか、アイテムボックスは当然のセットだよね。そこでチート枠を使われたくない。 

「あなたですよー。」 

 ちゃんと決めておかないと、変な能力にされてしまうというパターンがあるからな。こういう場合は――。 

「能力に希望はありますか?」 

「――マーフィーの法則っていうやつに気をつけないと――」 

「マーフィーの法則ですね。はい、注入! では、いってらっしゃ~い」 

「エッ! いや、こっちの話で――。ああっ!」 

 体が光を発したかと思うと、金粉のようになって散って行く。 

「違う、違う。そうじゃなくて――!」 

「はい、次の人〜」 

 俺は異世界へと飛ばされた。 

  

 一瞬眼の前が真っ白になったと思えば、次の瞬間はもう異世界にいた。異世界だよね? お馴染み、森の中からスタート。 

「訳わからんが、とりあえずステータス!」 

 眼の前に想像通りのステータス画面。陳腐だなあ。 

「わあ。レベルもHPも、MPも各能力値もすべて十って、どうなのこれ? めっちゃ手抜きだろ」 

 使える魔法はなし。スキルは「マーフィーの法則」だけ。以上。 

「ないわー。雑だわー」 

 マーフィーの法則といえば、「トーストはバターを塗った側を下にして落ちる」とかいうジョークネタでしょ。昔流行ったっていう。 

 試しに「スキル」の項目をタップしてみると、 

 

『特殊能力。魔力の消費なく発動することができる』 

 

 と、表示された。 

 法則の発動って何だよ? 何ができるの? 今度は「マーフィーの法則」をタップ。 

 

『マーフィーの法則を発現させることができる能力』 

 

「だから、その法則って何だよ? ん? 続きがある」 

 ページをめくると、マーフィーの法則の解説があった。 

 

『任意の対象にマーフィーの法則を発生させる』 

 

 トーストを落としてどうするのよ?! それで異世界を生き抜けってか? やっちまったな、これ。 

 はい。詰みました――。 

  

「おや? こんなところに人間が?」 

 突然、ボスキャラ感満載の奴が現れた。 

「おっと、動くな」 

「ぐっ! 体が……」 

 どうやら金縛りになる魔法をかけられたようだ。俺、絶体絶命?  

「ふむ。名乗らぬのも下品だな。我はこの世を支配する魔王ジュラスだ」 

 本当にラスボスじゃん。開始五分で魔王戦て、ないわー。えっ?  

「これがマーフィーの法則?」 

「何を言っている? 貴様はなぜここにいる?」 

 マーフィーの法則って、「トーストはバターを塗った側を下にして落ちる」でしょう? 最悪の結果が起こるってことだよね? 俺、絶体絶命?  

「答えられんのか? どうやら来る場所を間違えたようだな」 

 何とか穏便に立ち去るって訳に行かないかな? 行かないだろうなあ。マーフィーの法則発動中だからなあ。 

「せめてもの情けに一撃で殺してやろう。そうだな。一瞬で心臓を打ち抜いてくれる」 

 魔王は、拳を掲げた。 

 やばい、やばい、やばい! やられたら死んじゃう。俺、絶体絶命! こんな時チートスキルがあれば―――。 

「では、行くぞ!」 

 俺のチートスキルは、マーフィーの法則だけ。マーフィーの法則って、「失敗する可能性があるものは、失敗する」でしょ? えっ?  

「ドリャーっ! ぐわあーっ!」 

 俺に殴りかかろうとしたジュラスは腕を押さえてしゃがみ込んだ。 

「腕がー!」 

 そうだよね? マーフィーの法則って幾つもパターンがあるじゃん。バタートーストだけじゃなかった。 

「貴様何をした?」 

「形勢逆転だな、ジュラス」 

 やっと分かったよ、俺のスキル「マーフィーの法則」。「壊れる可能性があるものは、いつかは壊れる」とかね。 

「こんなもの! キュア! ハハハ。既に治癒したわ」 

 おー、パチパチパチ。治癒魔法をお持ちなのね。羨ましい。 

「何をしたか知らないが、貴様が勝利することなどない! 食らえ、地獄の業火!」 

 一瞬青い炎が起きかけたが、小さいまま消えた。 

「何だと! 我が究極魔法を打ち消すだと?! ありえん!」 

 アリエールでしょう。あり得たんだから。 

「これならどうだ、メテオストライク! オメガストーム! ブラディミスト!」 

 隕石は粉々に霧散し、大竜巻は微風に変わり、毒霧はぺしゃりと地面に落ちた。 

「何だこれは? なぜ究極魔法の数々が効かぬ?!」 

 ああ、これもう消化試合だわ。引くわー。興ざめだわー。 

「かくなる上は我が最終奥義の自爆魔法――」 

「あ、そういうのもう良いです」 

 俺は魔王の心臓を止めて即死させた。 

  

 ふう。一応危なかったな。ギリギリの所でスキルの使い方を発見したので、何とか助かった。 

 楽勝だったけどが。 

 マーフィーの法則。それは起こりうる最悪の事態がという警告。 

 鍵は「起こりうる」という限定と、「いつかは」という未確定性。それを自在に操れるスキルとは――。 

「生物でも無機物でも、現象でさえってこと」 

 誰でも「突然腕がつる」ってことあるよね。火炎には不完全燃焼というが起こりうる。岩石は内部崩壊することがし、嵐は突然終わったりする。気体と液体の相変化は常に起きている。 

「心不全なんていつ起きるか分からないよね」 

  

 これって俺無敵じゃね? マーフィーの法則、最強ー!  

「俺に害のある現象すべてに、スキル自動発動ね。敵は心不全で倒せば良いと」 

 老化だけはどうにもならないけど、病気や怪我からは身を守れるし、どんな敵でもサクッと倒せるぜ!  

「ところで、これからどうすりゃ良いんだろ? 何かヒントはないかな? ステータス!」 

 あらためてステータス画面をよく見直してみた。 

「おや、次のページがあるみたいだ」 

 ページをめくると、この世界での俺のミッションが書かれていた。 

「なになに? 魔の森で魔王ジュラスと合流し、その配下となって人類を滅ぼすだって?」 

 そりゃないじゃん! まさかの魔族側? もう魔王殺しちゃったよ?  

「あー。やっちまったなぁ~、こりゃ」 

  

 まさかこんなところまでマーフィーの法則通りとは。 

  

「起こりうる最悪の事態が起こる」 

  

 いつかって今日かよ?!  

  

(おわり) 

  

  

  

 

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