恋する由良

恋する由良

外出禁止令が出ているというのに

人と群れてはいけないというのに

私の心は揺れていた

台所のカレンダーを見詰めた

もうあと幾日もない

昨日は透析　明日も透析

行きたい

どうしても行きたい

世間にはウイルスが蔓延している

慢性疾患がある透析患者の私が

罹患したらひとたまりもない

だけど行きたい

この心はおさえられない

恋する乙女のように心が弾む

飛び乗った電車はガラ空きで

白いマスクをつけた乗客がチラホラ

鄙びた田舎の一本道

この道を真っ直ぐ行くと海

ときおり吹き抜ける浜風

土埃も一緒につれてくる

私は思わずスカートの裾を押さえ

長い巻き毛がうしろになびいていく

傍らの軒を連ねた花屋の店先に

赤と黄色のチューリップが揺れている

潮風とともにあまく懐かしい薫りが流れてくる

由良の浜辺はすぐそこ

ああ　この景色に会いたかった

この風景画を見たかった

数年来のファンである絵描きさんの

期間限定の個展

やっぱり好きだなあ

無理して来てよかった

私の心は幸福に満たされた

今でも瞼を閉じれば浮かんでくる

由良の海に続く鄙びた一本の田舎道