女神様を貰う①


「ねえ、ハルヤ。あれ。あの、焼きそばってやつ。食べたいんだけど。」


「なんだよ。どこ?」


「あれ。あそこ。」


アケディアが指差した先には、屋台があった。日本でいうところの焼きそばみたいな、麺っぽいのを売ってる店がそこにあった。


「昼飯だぞ?あんなんでいいのか?」


「ええ。神界じゃあいっつもおんなじものだったし、この世界のものも、食べてみたいのよ。」


ずっとおんなじもの食ってる……。カップ麺的な感じだろうか。……そういや死ぬ直前まで、食事なんてカップ麺かコンビニ弁当だったっけ。もう関係ないけど。


「神界で何食ってたんだ?」


「名前なんて忘れたわ。味……香りもいいし、蜜よりも甘くて、美味しいのだけど、おんなじものしか食べられないから飽きちゃうの。不老不死を維持する食べ物だから、神界にいる神である以上はそれを食べるんだけど、お酒も決められちゃうし、嫌だったのよ。まあ、今はここにいるから、ここの食べ物食べれるだけ食べようと思って。」


ギリシャ神話で言うところの、神の食べ物アンブロシアと神の酒ネクタルってとこか。それしか食べられないとは、可哀想だな。


「食べるのはいいがなぁ。一応、お前が帰った後のことも考えてくれ。俺はこの金で色々しなくちゃならねえんだ。もちろん少しならいいんだけどな。」


「じゃあ、あれが最後でいいわよ。そろそろお迎えが来そうだもの。」


「仕方ねえな。買ってきてやるから、そこで座ってろ。」


「わーい。」


ホント、ガキだな。こいつは。












「買ってきたぞ〜。て、おい。なんで泣いてんだよ。」


「うぅ……ひっく。」


帰って来たら、女が泣いていた。なぜでしょう。てか、答え分かるやついんの?いねえよな。俺も知らねえもん。もしかしてドラゴンにまた喰われてきたとか?


「どうしたんだよ。」


「ハルヤ、ハルヤァァァァ!」


彼女は俺を見るなり抱きついてこようとする。


「鼻水つくだろ、やめろ。」


しかし泣いた後でひどいことになっている顔で抱きついてこられると、今一着しかない服が汚れてしまう。


「あうっ。」


俺が避けると、バランスを崩したアケディアは、地面とキスした。要するに顔面強打である。アケディア、怪我してないといいな。


「うわぁぁぁん!」


「お、おい。鼻血出てるぞ。」


「うぅ……痛いよぉ………。」


焦った俺は、ジャケットに入っていたハンカチを彼女の鼻に当てて、止血する。この際もう仕方ない。血がついたハンカチはあとで捨てよう。……お気に入りだったんだけどなぁ。


「ったく、一体どうしたっていうんだよ。」


「うぅ……。あのね、そのね?」


泣きじゃくったせいでひっくひっくと言いながらも、何があったのか必死に言おうとしている。鼻を抑えながらだから、しっかり耳を傾けて聞かないと何を言っているのか分からなくなる。


「……いきなりね、声が聞こえたの。」


「うん。そうか。誰のか、わかるか?」


子供はいなかったが、弟夫婦の子供がたまに遊びに来たものだから、子供の扱いはまだ上手い方だと思う。小さな子供から話を聞く時のように、ゆっくり、優しく声をかける。


「神様……私の上司。」


「そうか。なんて言われた?そのまま言ってみな?」


「適当なやつは、神界にいらないって。反省して来いって。」


……ほんとに捨てられたよコイツ。冗談のつもりだったんだけどな。


「そうか。大変だったな。」


「うぅ……。」


泣きじゃくった女神は、本当に人間のようだった。感情を持ち行動する、ひとりの女神が俺の隣にいた。俺からすると、神って感情のないロボットみたいなのを想像してたからというのもあるだろうが、本当に人間らしかった。


「これからどうしよう……。」


そうだった。こいつが『反省しろ』と追い出されたのなら、これからここで生活しなくてはならないということだ。


まあでも、一ヶ月は一緒にいてやらんでもない。というかもう二部屋取っちゃったし。


「行く宛がないなら、一緒にいようぜ。」


「何?プロポーズ?神に求愛とかキモい。」


善意を踏み躙るようなそんな物言いだったが、俺は冷静になるよう努めた。いつでもどこでもこいつを捨てるなんて簡単だ、こいつがもっと絶望しているところで見捨てる方が絶対楽しいはずだと思い直して、気分を落ち着ける。


「誰がお前にプロポーズするか。お前はもしかしなくても確実に馬鹿だな?ただ一緒にいるだけだ。あの宿も一ヶ月借りることにしてるし、どうせなら1人より2人のほうがいいだろ?話し相手がいる方が楽しいしな。」


「いいの?」


「おう。ただまあ、女神であることを言わないこと、しっかり働くことを誓え。それさえ守れば、ある程度の生活は保障するし、小遣いもやる。」


「守らなかったら?」


「その時か。その時はまたあの森でパクッとサクッと逝ってもらうかな。」


「ドラゴンは嫌。」


「じゃあ真面目にいろ。お前くらい華奢なやつは俺でも担げるからな?いつでも森に捨てられるぞ。」


小学校から大学までのあだ名は『熊』。もちろん社会人になってからも、熊と呼ばれることは多々あった。まあ俺は、一般にデカいと言われる部類ではあった。


だから、筋力増強系のスキルでも貰えるのかと思っていたのに。


【逃げるが勝ち】だもんなぁ……。




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自分のスキルが【逃げるが勝ち】なので、異世界に来たのに戦えない。 〜個性ありすぎる仲間を連れて〜 しろいろ。 @eijitoyoda

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