女神様と


「もしもしー!?朝ご飯できていますよー!?」


ガバッと飛び起きる。


昨日の昼頃にチェックインしたはず。俺は一体何時間寝ていたのだろうか。


「もしもー……。ああ、おはようございます。ご飯ですけど、お連れの方はもうご飯をいただいていますので、一階の食堂まで行ってくださいね。」


あんにゃろう、俺を起こさずに自分はさっさと飯ってか。まあ、いいけど。


「えっと、お手洗いってどこかな。先に行きたいんだけど。」


「ああ、えっとですねー、外に出てすぐ左に曲がると、小屋がそこにありますよ。それがトイレです。」


「ありがとう。」


「いえいえー。」


朝起きて尿意を催した俺は、一目散にトイレに駆け込む。そして、トイレで用を足す。


「「ふぅー。」」


同時に隣の男が息を吐いた。


びっくりして男の方を見ると、相手もびっくりしたのか俺を見ていた。金色の髪をしている、随分ガタイのいい男だった。












トイレから出ると、2人で顔を洗いに隣にある井戸へ向かう。


「ハルヤって言うのか。俺はライネル・ウォーリア、ここの街のギルドマスター。気軽にライネルって呼んでくれ。」


「この街に住んでる?ここって宿屋じゃないのか?」


「あー、そうだな。……実はな、メリッサ……俺の妻なんだが……喧嘩しちまってな。頭冷やすために一旦ここに来たってわけだ。」


どうやら、ギルドの方ばかり構ってないで私も構えということを適当にあしらった結果の出来事らしい。そんなこと考えるような暇は向こうじゃなかったので、


「ははっ。俺には分からないけど、大変なんだな。」


としか返せない。


「他人事だからって笑うなよ……。こっちはめちゃくちゃ困ってんだぜ?てか、なんで俺の話ばっかなんだよ。お前のことも話せよ。」


「ああ。俺は昨日、ここの街に来たばっかりなんだけどな。道中の森で、ドラゴンに襲われちまって。」


「森?あの森か?あの森、最近魔物が活発だから危ねえって聞いたが……。」


あんにゃろう。適当な場所に転移しやがって。なんか「私はうんたらかんたらの神」とか言ってたが、もう俺からしたら「適当神イイカゲン」だ。センス?そんなもん俺には微塵もない。


「ああ。そのずっと先にある国から来たんだけどな。」


世界を跨いで、その先から。


「そうか。北大陸から抜けてきたんだな。よく頑張った。」


この世界の地図を知らぬ俺は、頑張ったなんて言われても何もわからない。だが、それっぽい顔をしていればバレないだろう。


「ああ……。」


それっぽい顔、出来てるかな……?


「1人で来たのか?」


「いや。もう1人いる。先に飯食ってるって聞いたぞ。」


適当な女神だし、昨日ドラゴンに食われた奴だけどな!


「じゃあ、早く行ってやれよ。」


「ああ。お前も来るか?」


「いんや。いいよ。俺はもう帰る。しっかりメリッサに謝ってくる。」


「そうか。じゃあまあ、許してもらえるように祈っとくよ。」


そう笑ってやると、


「じゃあまあ、この街楽しめよ。北よりもいいところだからな。」


一体、『北』とは。……聞けないけど、知りたい。










「おい……。お前、名前なんて言うんだっけ。」


「ふぁふぃ?私?地球じゃアケディアって言われてたわね。」


アケディアか。なるほど。こいつが帰ったらすっぱり忘れよう。興味ない。


「アケディア、お前、いつ帰るんだ?」


「それなのよね。私、いつになったら帰れるのかしら。これ、やっぱり美味しいわね。」


帰らないとか嫌だぞ?マジで。こいつを見ていたら確かにここでの生活は面白いし、飽きないだろうけど。


「早く帰れとしか言えんが、お前まだ俺にここの世界の説明してねえだろ。」


「もぐもぐ」


「話ぐらいしろや。」


「……分かったわよ。後で説明してあげるから、今はご飯に集中させて。」


昨日説明できなかったのは、お前がドラゴンに食われて泣いて寝たからだ。








「さて。金貨の名前から教えるわね。1枚の金貨は、えっと……オーロ。1オーロ……2オーロって数えてくの。」


「へー。相場はどんぐらいだ?円換算するなら幾らくらいになる?」


「そうねえ。今だと……いち、にい、さん、し、ご、ろく……。1枚10万円くらいになってるみたい。」


聞いてたのの20倍じゃねえか。そりゃ、驚かれるわな。金貨しか持ってないんだけど、なんて旅人から聞いたらびっくりするのも当然だ。


「で、銀貨は?」


「プラータだったかしら。円に換算すると1万円くらい。で、10プラータで1オーロみたいね。銅貨は100コーブレで1プラータ。1000コーブレで1オーロってことね。相場は1000円くらい。鉄銭っていうのがあって、これが1エイズル100円。これ以上下の単位はなし。」


一度に言われてもわからないが、これから覚えていけば大丈夫だろう。どうせ戦うことはない。どこか適当なところに就職して、適当に金を稼いで、それで死ねばいい。


「一応、説明は終わったはずなのだけど。」


「おまえ、帰れる気配ねえな。もしかしてここで反省してろって放り出されたか?」


「怖いじゃない!そんな話しないで!本当になったらどうするの?」


「まあ、その時はよろしくってことだな。」


「私のために働いてくれるってこと?」


「馬鹿か?お前も働くんだよバーカバーカバーカ。」


「馬鹿って4回も言った!」


「バカにバカって言って何か悪いかよ。」


軽口を叩き合いながら、街を回る俺とアケディア。周りの視線が、主に俺のスーツに集まっているのが、なんだか不思議だった。

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