第2話 出会い
ティナのもとで修行を初めて半年が経過した。
魔法の腕も上達したし、魔眼もだいぶ使いこなせるようになってきた。
そんなある日、俺たちはティナからある課題が出された。
「君たちはこの半年でだいぶ成長した。そこで、君たちにおつかいを頼みたい。」
「…は?」
「聞こえなかった? お・つ・か・い・!」
「うるさいなっ 聞こえてるって!」
すっかり打ち解けた二人の会話は、母親と子そのもののように見える。
「おつかいと言っても一日や二日で終わるものじゃない。この国の王都まで行ってこの手紙を王に出してほしいんだ。」
「そんなの自分で行きゃいいじゃねえか!」
「無理だから頼んでんだろ!」
「いいじゃん青。私、王都行ってみたい!」
「ほら青、初は行きたいって。お前もあきらめておつかい行ってこい。」
もう行かなくてはならない空気になっていた。
すべてをあきらめた声で青が言う。
「ここから王都までどのくらいかかるんだ?」
「往復でだいたい二週間くらいかな。」
「二、二週間……」
「馬車とかないんですか?」
「あいにく私は馬を持っていない!」
「魔聖なんだから馬の二、三匹持っとけよな。」
「しゃーないだろが!持ってないんだから! 」
ー-------------------------------------
さっそくその日の夜に荷物の準備を済ませ、朝のうちに家を出ることにした。
「王都… どんな場所なんだろ?」
「確かにな… アニメとかゲームでは見たことあるけど実物を見るのは初めてだ。」
「やっぱあれかな?西洋のお城みたいなのあるのかな?」
「期待するのは自由だけど、この会話するの少し早くない?着くの一週間後とかだぜ。」
「まあそうなんだけどね… 楽しみすぎてさ(笑)」
「気持ちは分からなくもないけどな。」
そんなたわいもない話をしているうちに二人はいつの間にか眠っていた。
――朝 8:00
「zzzzz。」
「zzz。」
「二人とも早く起きな!」
バサッ!
一人の女が二人にかかっている毛布を勢いよくはぎとる。
カーテンを開けると気持ちのいい朝日の光が部屋いっぱいに広がる。
「んんんんんんん。。。」
「ティナさん、カーテン閉めて。。。」
「朝のうちに出発するんじゃないの?」
「・・・そんなこと言ったっけ?」
前の世界では学校を中退し、昼夜が逆転することも多々あった彼らが朝早く起きるのというのは難しい話だ。
「ハァァァー 心配になってきた……」
深いため息とともに女は部屋から出て行った。
――――10:00
「おはよーう。」
「起きるのちょっと遅くなっちゃいました。」
二人があくびをしながらゆっくり階段を下りてくる。
「私は起こしたからね。」
「…え? 起こしに来た?」
「お前なぁ……。 まあいい、早くご飯たべちゃってくれ。」
「う~~~~~い。」
その光景は平和そのもの、あたかも本当の家族のような三人だ。
「いつごろ出るんだい?」
「十二時前には出たいと思ってる。」
「オッケー。じゃあこれを渡しておくよ。」
ティナは、金貨が詰め込まれた袋を手渡した。
「これはこの世界の貨幣だ。それを使って宿に泊まったり、食料を買ったりしな。」
「…あの~~~」
「ん?どうした?」
「俺たちこの世界の貨幣制度知らないんだけど…」
「ありゃ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―――二十分後。
「だいたい分かったかな?」
「おう!」
「わかりました。」
「それじゃあそろそろ出発したまえ。」
昨晩準備していた荷物の中に預かった手紙とお金を入れて、約二時間遅れで二人の旅が始まる。
その日の天気は快晴。気持ちのいい風が二人の間を通り過ぎる。
二人の旅は最高の形でスタートを切った。
「いいね~。こんな気持ちは前の世界では絶対に味わえなかった。」
「そうだね~。ほんとこの世界に来れてよかった。」
「そういえば俺たちこの世界の字とか大丈夫かな?」
「まあどうにかなるでしょ。」
「そうだな。」
何とかなるわけない。
だが、二人はそんなことも考えられないくらいにこの世界を堪能していた。
それからしばらく歩き続けた。
「もう一時間は歩いたよな?」
「多分そのくらいは歩いたんじゃない。」
「村とか全然見つからないんだが。」
「まじそれな。」
「あの女どんだけ田舎に住んでんだよ。」
「とりあえずここらで休憩する?」
「そうだな。」
大きな木の下で昼食をとることにした二人。
吹いてくる風が持ちよさすぎて、眠りたくなる。
「お~~~~い。」
「ん?」
「なんだろ?」
大きな牛?のような動物に荷台を引かせているおじいさんが話しかけてきた。
「お前らみたいな若いもんがこんな何もない田舎で何してんだ?」
「旅の途中で疲れて休憩していただけですよ。」
「お~~ そうかい。いろんな奴らを見てきたが、君たちくらいの年の子が旅をしてるのはあんまりみねぇな。」
「そうなんですか。私たちくらいの子たちは何をしてるんですかね?」
「そりゃあ、学校行ったりとがだな。」
初が学校という単語を聞いた瞬間ムッとなった。
学校という場所にトラウマがある彼女が学校という単語にイライラするのは無理もない。
「いろいろあってずっと魔術の勉強をしていましてね。」
「なるほどな。いろいろ事情があるんだの~」
「そうなんですよ。おじさんこそこんなところで何してるんですか?」
「わしはこれから王都にいろいろ買いに行くんだよ。お前さんたちは?」
「私たちも王都に用事があるんです。」
「そうかそうか。ならここで会ったのも何かの縁、乗ってくかい?」
旅の途中で出会った心優しい老人のおかげで二人の旅は順調に再スタートした。
ゆっくり引かれる荷台に寝転がり空を見るのもいいものだ。
だんだんと日が落ちあたりが暗くなってきたころ、ようやく初めての街が見えた。
それなりに大きく、活気にあふれた街だ。
「こんなじじいが若者二人と同じ宿に泊まるのはいやだろ?わしは自分で宿を探すから君たちも自分たちで宿を探しなさい。」
そう言うとおじさんはどこかえ行ってしまった。
「いいじいさんだな。」
「そうだね。」
「とりあえず宿探すか。」
街を歩き始める二人。
街には常にケルト音楽のようなものが流れていた。
他にも、建築物、食べ物、服装。
前の世界では絶対に見ることのできなかったであろうものであふれていた。
しばらく歩いているとどこからかいい匂いがする。
「ヤバい、腹減った。」
「私も~~」
「でもどこに入ればいいんだ?字が全く読めん。」
「ふっふっふ。」
「どうした?」
「実は私、この世界の字が読めます!」
初が得意げに言った。
「マジでか!?」
「この半年間この世界の字を練習してたんだ。いや~大変だったよ。教科書とかがあるわけじゃないからさ。」
「マジかっ!お前すごいな!」
二人は飲食店が立ち並ぶ通りを歩きどこに入るかを決める。
入ったのは酒場のような店だった。
中はいろいろな客でにぎわっている。
「何でこの店にしたんだ?」
「そりゃ、異世界感あっていいなと思ったからに決まってるじゃん。」
「やっぱお前分かってるなぁ。」
そんな話をしていると元気のいいおばさんが注文を聞きに来た。
「お前さんたち何食うんだい?」
メニュー表に書いてある料理の名前を見ても全く想像がつかない。
「この店で一番うまい料理をくれ。」
「わかったよ。私のこの店一押しを持ってきてやる。」
「期待してるぜ。」
しばらくして料理が来た。
「はいよ、これがあたし一押し”嵐熊のサイコロステーキ”だ。」
「嵐熊って食えるんだな。」
そう言いつつも二人は肉を口に運ぶ。
「う、うまい!」
「うん、すごくおいしい。」
「そうだろ。チップをくれればその料理に私のお話もついてくるよ。」
「面白そうだな。俺は払うぜ。」
そう言って青は銀貨一枚を女に渡した。
「それじゃあ一つ」
店の女は勇者の話を語り始めた。
どこ情報化は知らないが、魔王を追い払った勇者は今もどこかで眠っている。
勇者の右腕だった男が千年たった今でも魔王の呪いにより生きている。
女の話は全て面白い話だった。
「これであたしの話は終わりだよ。」
「ありがとう。面白い話を聞かせてもらったよ。」
「あいよっ」
それからしばらく食事を楽しみ、話の話題は今日の宿の話になった。
「今日の宿どうするよ?」
「料理がおいしすぎてすっかり忘れてたよ~」
「腹いっぱいで歩けねえよぉぉ」
「ん~~~~」
そんな話を聞きつけてきたのか、ただ皿を下げに来たのかは知らないが、先ほど話をしてくれた女が二人の席に来て言った。
「お二人さん今日の宿にお困りかい?」
「ん?そうなんだよ。」
「そんじゃこの店に泊まってくかい?」
「この店泊まれるのか?」
「この店は一階が酒場で二階が宿になってるんだよ。どうだい?」
「じゃあここにしようかな。」
街の中を歩き回る気分ではなかった二人はこの店の二階に泊まることにした。
部屋はまあまあ広い。十六畳くらいはあるその部屋にはベッドが二つとソファー
一つ、大きめのテーブルに椅子が四つ。
その部屋で暮らしていけるのではないかと思えるくらいにいい部屋だ。
「思ってたよりいい部屋だな。」
「ティナさん家の部屋といい勝負かも。」
「ああ、酒場の二階だからってあんまり期待してなかったけど予想以上だ。」
「あ~ 部屋に入ったら急に眠くなってきたな。」
「それな~」
「俺もう寝る。」
「おっけー お休み」
「なにもすんなよ。」
「それ私のセリフね。」
「………」
「え?早くない?」
青はすでに眠っていた。
「私も寝よ。」
この部屋のカギは魔力を込めることにより、込めた人以外は開けられないという高いセキュリティーになっていた。
――――――朝。
鳥の鳴き声とともに青が目を覚ます。
今日も今日とて快晴。
朝だというのに街はにぎわっていた。
「東京かよ……なんだ?」
ガチャガチャ
ガチャガチャガチャ
ドアの取っ手を右に回し左に回し。
「ドアが…開かない。」
青はこの部屋の鍵の仕組みを知らなかった。
僕たちを召喚したのはこの世界のラスボスでした ノリ餅 @Norimoti
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。僕たちを召喚したのはこの世界のラスボスでしたの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます