第1話 newbie
―――昔々この世界は3つに分かれていた。
神族、魔族、人間。
種族はもっと多くいたが、王道はこの3種だった。
人間族は武力的にほかの2種よりも劣っていたため神族と協力し魔族と戦っていた。
魔族は当時、3種の中で一番数が多く「魔王」を中心に急速に領土を拡大していた。
海は魚が生きられないほどひどく濁り、空には悲鳴が響き、大地は血が染み込み赤く染まっていた。
緑が絶えなかった大地は、争いにより砂漠になり果てた。
互いが互いを恨み、憎み合っていた。
そんな血塗られた時代。
永久に終わることのないと言われた争いの終わりは不意に訪れた。
終戦のきっかけになったのは神族と人間が協力して呼び出した「勇者」の存在だった。
長年人間が研究していた”勇者召喚の儀”は神族の莫大な魔力のおかげで成功したのである。
そのひと振りは海や大地を癒し、魔族を別の次元に追いやることができたという。
その大戦から約1000年たった世界が今のこの世界だ。
魔族は存在するが、他の種族と比べればごく少数。
神族は争いが終わってから数年間はともに協力して暮らしていたらしいが、今は距離を取られている。
これがこの世界のざっくりとした歴史だそうだ。
前にいた世界と比べたら浅い歴史だ。
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この世界に来てからどれほど歩いただろうか。
村どころか人がいる気配すらしない。
腹も減ったし、のども乾いた。
召喚するならもっと街とか村が近いところにしてほしいものだ。
そんな愚痴を心の中でひっそりとつぶやいている時だった。
「青、あれなんだろ?」
「ん?どれ?」
目を凝らさなくても分かる、大きな砂埃を立ててこちらに近づいてくる生物。
あれが何かなどどうだっていい、
問題はその生物がデカいことだ。
クマなんて比にならない。
そんなデカい生き物が猛スピードでこちらに近づいてくるのだ。
「これはちょっと… いや、だいぶまずいかもな」
「うん、私もそう思ってた。」
2人がこの場でとるべき行動はただ1つのみ。
そう 逃げることだ。
2人は振り返り、来た道を全速力で戻る。
だが動物に走りで勝てるわけがない。
距離はじょじょに縮まり、のこり数十メートルというところまで追い込まれた。
「もうだめかもしれん…」
「あきらめんな初!」
体力の限界が来ていた俺たちは、もうダメなんじゃないかと本気で思っていた。
「ほいっと」
その声が聞こえると同時に追ってきていた生き物が炎に包まれていた。
きょとんとしていた俺たちに1人の女が話しかける。
「君たちこんなところで何してるの?それに嵐グマなんかから逃げてさ。あんなの初級の魔法使えれば誰でも倒せるでしょ。」
どうやらあの生き物は嵐グマというらしい。
「いやー ありがとうございます。」
「すみませんね。私たち魔法が使えないんですよ。」
「魔法が使えない?珍しいな… まあいったんあたしの家来なよ。ここから街まで遠いから。」
良かった、いい人だ!
彼女の後を歩き20分ほどたった時、大きめの家がぽつんと建っていた。
「あれが私の家、結構デカいだろ?」
「ああ これは思ってたより立派な家だな。」
中に入ると彼女は冷たい飲み物と軽い食べ物をくれた。
本当にいいやつだ。
「自己紹介がまだだったね、私の名前はティナ、君たち名前は?どこから来たの?魔法も使えないみたいだし…」
まずいことになった、正直に話したところで信じてもらえないだろうし、異世界の人間だからと解剖なんてされたらたまったもんじゃない。
とりあえず自己紹介をした。
それから事情を話す。
「どこから来たかはわからないんです、気が付いたらあの場所に2人で立ってました。」
「魔法が使えないのはなぜ?」
「……それは ですねぇ~」
「記憶もあいまいで、魔法の使い方が分からなくなっちゃって。」
初、ナイスフォローだ。
記憶喪失で使い方を忘れたなら使えなくても何の不思議もない。
「なるほどね魔力切れか。急に知らない土地にいたのは魔力災害の一種だろうな、さいなんだったね。」
よしっ!何とかなった。
「魔法の使い方、教えてもらえないですか?使えないと不便だし。」
少し強引かもしれないが今ここで魔法を学んでおきたい。
さっきみたいに追いかけられるのは二度とゴメンだ。
「そうだね、不便だもんね。いいよ 魔法の使い方教えてあげる。」
「ありがとうございます!」
何とか魔法の使い方を教えてもらえることになった。
「まずはこの石を持って」
彼女は奥の部屋から透明な石を持ってきて俺たちに渡す。
「この石は魔力の属性を調べる物なんだ、魔力を込めれば石が光始める。その色によって属性が分かるってわけ。」
「なるほど、けっこうシンプルなんだな。」
だがここで重大な問題が発生した。
魔力ってどうやって込めるんだ?
「魔力ってどうやって込めるんですか?」
こういう時になんの抵抗もなく質問できるのがこの女のいいとこだ。
「んー そうだなぁ 体をオーラ的なのがまとってるイメージをすればいいかな。」
言ってることがあまり理解できなかったので、とりあえず初のほうを見ておこう。
かなり集中している。
かすかだが初の体の周りに紫がかったモヤモヤが見える。
「紫色のモヤモヤ見えるな。」
そう俺が口に出した瞬間、石が紫色に光りだした。
ティナが俺のほうを見る。
「な、なんでしょうか?」
「君、多分だけど魔眼持ちだね。」
中二病をこじらせている俺は”魔眼”を持っているといわれて興奮しないわかがない。
が、その場は叫びたい気持ちを何とか我慢する。
「ういちゃんのほうは雷属性だね。高火力で防御も硬いのが特徴。」
「ティナさん、こいつのモヤモヤ紫だけじゃないですよ。赤とか青とかいろいろな色が見えます。」
「まじっ!?」
魔力を込め続けていると初の持っている石が様々な色に発光し始めた。
「こりゃ珍しい。多属性か。」
多属性とは、文字通り様々な属性の魔法を扱うことができる。
使える属性が多い分1つの属性の力を100パーセント出せるわけではない。
だが使える属性が多いとどんな相手とでもどんな場所でも安定して戦うことができる。
「多属性使いは結構いたりするけど、こんなにたくさんの属性を使える人は見たことないな。」
石はそれからも様々な色に発光した。
どうやら初はこの世界に存在する属性すべてを使えるらしい。
「次はじょう君だね。君はどうかな?」
初がやっていたように石に魔力を込める。
俺の光は赤、つまり炎だ。
「炎属性だけだけど君は魔力がかなり多い。簡単な魔法でもかなりの威力が出るだろうね。」
「魔力量ってどうすれば分かるんですか?」
「ここにはないけど魔力量を測る石があるんだ。基本的にはそれを使う。」
「じゃあティナさんはどうやって俺の魔力量を調べた?」
「実は私も魔眼を持っていてね。」
なるほど、だからか。
「じゃあ次は外に出て実際に魔法を使ってみよ~う」
そう言うとティナはそそくさと外に出て行った。
俺たちも後を追う。
「まずじょう君、炎魔法の中でも初歩の初歩”火球”を教えよう!」
「はい!」
「じょうガンバ~」
「火球は超絶簡単、まずはさっき石に魔力を込めたときと同じイメージをします。次に頭の中に炎をイメージする。それを手から放つイメージ。」
「なるほど、やってみます!」
まずは体をまとっている魔力をイメージ、次に炎、最後に放つ!
バゴォォォォォン!!!!!!!!
ものすごい威力の火の球が十数メートルはあろう大きな石を粉々にした。
「わお まさかここまでとは。」
さすがにティナも少し引いていた。
「君は私が考えている以上にすごいね!でもさっきみたいな威力の魔法バンバン使ってるとすぐ魔力切れるから、君は魔力を抑える練習だね。」
「は、はい」
自分で打った魔法なのに一瞬引いてしまった。
さすがに考えよう。
「気を取り直して、次はういちゃん。あなたはまず全属性使いこなせるように練習しましょう。さっきじょう君に言ったみたいに頭の中で使う魔法の属性を想像するんだよ。」
「わかりました。やってみます!」
「ういガンバ~」
初が最初に使ったのは雷属性の魔法、広い範囲に雷の矢を降らせた。
無意識にはなったその魔法は地面に小さなクレーターをいくつか作り出した。
どうやら初には魔法の才能があるらしい。
「どっちもすごかったよ。想像以上だ。君たちの魔法、並の人間が出せる威力じゃない。君たちなら”魔聖”になれるかもしれない。」
「魔聖?」
ティナが言うに、この世界には魔法を極めたものに「魔聖」、剣を極めたものには「剣聖」という称号が与えられる。
剣と魔法を一緒に使うという概念はあまり浸透してないらしい。
剣聖、魔聖になった者は召喚された勇者とともに魔王を討伐するため旅に出る。
どこぞの王道RPGと似てるな。
「君たちに見せてもらったんだ、私も魔法見せないとね。」
そう言うと手を開き上に向ける。
途端に風が吹き始め辺りの木々は揺る。
みるみるうちに風でできた巨大なやりのようなものがティナの上に形成されていく。
「ふっ!」
その槍を力いっぱい投げ飛ばす。
槍は地面に当たったと同時にはじけた。
槍が当たった地面には隕石でも落ちてきたのではないかと思うほどの大きな穴があいていた 。
それからのことだった、ティナにだけは逆らわないようにしようと思ったのは。
「すごいな、俺らの魔法よりよっぽっどすごい。」
「うん、すごかった。私たちよりティナのほうがよっぽど魔聖になれそうじゃない?」
「いや、だって今の魔聖私だもん」
「…え?」
驚いた。
まさか旅の序盤で魔法界の頂点と出会えるなんて思ってもみなかった。
魔聖なら俺たちの本当の素性を話しても分ってくれるかもしれない。
それにヤツの正体も知っているかも。
勇気を出して俺たちについて話すことにした。
「なるほど、別の世界から来たか… まあ、ない話じゃない。過去には君たちのように別の世界から来たという人もいたらしい。」
「俺たちが初めてじゃないのか。なんか安心したぜ。」
「まあそうなんだけど… 過去に来た人たちは、君たちが言うヤツと出会ってはいないらしい。少なくともこの本に書いてある限りではね。」
「ヤツは俺たちに”ここは僕の世界”と言っていました。」
「”僕に挑んで来い”ともいってたよね。」
「この世界を作ったのは全知全能の神 ロゼ と言われている。もしかしたら君たちをこの世界に呼び込んだのもロゼかもしれないね。」
つまり俺たちはこの世界で神ロゼを倒すことが目的ってわけか。
だが、”神殺し”それはこの世界で最も重い罪だ。
試みるだけでも罪人扱いで最悪死刑。
ティナは神を信じるタイプの人間ではなかったため、このことは黙っていてくれるそうだ。
助かった。
だがどうする?
相手が神だとするならこのままでは絶対に勝てない。
もっと魔法を極めなければ。
だがどうやって?
………いるじゃないか!この世界で”最強”の魔法使いが目の前に。
「ティナ、頼みたいことがある。」
「私にできることなら。」
「俺たちに魔法を教えてくれ!」
「いいよん」
「え?……いいの?」
意外だった。
神殺しの為に力を貸してくれるなんて思っていなかった。
「神を殺すんだぞ?」
「神なんて強敵と戦うなんてメッチャ楽しそうなことを手伝わないわけがない!」
世界最強が仲間になってくれるというのだからこれほど心強いことはない。
次の日から魔法を扱うための修行が始まった。
率直な感想は「キツイ!」だ。
毎日毎日ティナと戦った。
ここ最近の俺は言うなればティナのサンドバックだな。
実戦的な修行だったからか、魔法は不自由なく使えるようになった。
が、いくら打ってもティナには当たらない。
数うちゃ当たるとか言ったやつをぶん殴ってやりたい気分だ。
まあ、当たらないのも無理はない。
後から聞いた話だが、ティナの魔眼は相手の残りの魔力量が分かる以外に数秒先の未来が見えるらしい。
相手の次の動き分かるとかチートすぎるだろ!
「おかしいなぁ。じょうみたいな莫大な魔力がある人間が相手の属性が分かるなんてちんけな能力しかない魔眼なはずない。次はもっと追い込むか。」
さりげなくヤバい言葉が聞こえたが空耳ってことにしておこう。
木の陰で休みながらティナとういの戦いを見る。
すごいことに初が押している。
いつの間にか複数の属性魔法を同時に使えるようになっていた初は、動きを読めても意味がないほどの勢いで魔法を放つ。
360度あらゆる方向からくる魔法にさすがのティナも苦戦していたが、さすがは世界最強、ほんの数分で初の魔法に対応してくる。
これが経験の差ってやつか。
その日の夜。
俺はティナに魔眼について聞いてみた。
「俺の魔眼の能力はどうすれば使えるようになる?」
「それが難しくてね、そもそもこれ以上の能力がないかもしれない。まあ可能性は低いけどね。」
「魔眼にはティナの以外にどんなのがあるんだ?」
「いろいろあるよ。例えば君たちにはまだ教えてないけど、けっこうやり手の魔法使いには”固有魔法”っていういわば必殺技みたいなのがあるんだよ、それを見ただけでコピーできたりとか。」
「私、魔眼より固有魔法のほうが気になります!」
「固有魔法は属性魔法とは異なり、使い手によって形を変える。高位の魔物を呼び出し戦わせる者もいれば、相手の攻撃を倍の威力にして返す者もいる。」
その後も俺たちの質問をすらすらと答えていくティナだったがある質問をしたとき彼女の口が閉じる。
「ティナの師匠はどんな人だったんだ?」
「……いい人だったよ。優しくて謙虚で強くて、でも…… もういない」
「す、すみません…」
場の空気が一気に重くなってしまったので、その日は質問をするのをやめた。
それから1週間後、いつも通りサンドバックにされる俺。
突如として目に激痛が走り、目を抑えながらうずくまる。
「うっ……!」
「どうした!?」
「目、目がぁぁぁぁぁぁぁ!」
こんな時なのに多少ふざけることはできた。
痛みはどんどん増していく。
とうとう俺は気を失ってしまった。
それから数時間後。
目を覚ますと外は暗くなっていた。
あくびをしながらゆっくりと階段を降りリビングに向かう。
「大丈夫だった?大佐…」
笑いながら初が声をかける。
「いやっ、マジシャレにならんくらい痛かったから。あれは自然に出ちゃっただけだし。」
「おお、起きたか!」
ティナは本気で心配してくれているようだ。
初にも見習ってほしい。
「痛みはなさそうだが念のためだ。目を見せてくれ。」
「いいすっよ。」
「うんっ。何ともない。もしかしたら魔眼がなんかあると思たけど、何ともないらしい。」
少し残念だった。
そのまま夕食を済ませ風呂に入りベッドに入る。
さっきまで寝ていたせいか全く寝れない。
少し夜風にあたろう
そう思い外に出た。
空には前の世界で住んでいた都会では見ることのできない星空が広がっていた。
たとえるなら花火のような星空だった。
異世界にきてよかったな…
本当にそう思った、前のゴミみたいな世界にいたら今頃そうなってたことやら。
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次の日、俺はなぜかティナといい勝負をしていた。
俺が打った魔法はティナめがけて正確に飛んでいく。
体が自然とティナの動きに適応していくのが分かる。
相手が次にどんな攻撃をしてくるのか、何の魔法を打ってくるのか。
それらが自然と理解できたのだ。
まあ結局負けたけどね。
「いやー 今回はいい勝負だったねぇ」
「なぜだか分からないんだけど、ティナの動きが自然と理解できたんだ。」
それを聞いたティナは何かを考えている様子だった。
2,3分考えた後ようやく答えが出たらしい。
ティナは俺に言う。
「私は固有魔法がどんなものだか分かる?」
俺はティナと目を合わせるとふと頭の中にある魔法のビジョンが浮かんだ。
「魔法を…」
「はいっ!もう言わなくていいよ、多分合ってる。」
「うそぉ…分かったの!? じょうの魔眼の能力って?」
「おそらく相手を見ることにより相手を完封する能力。見ただけで相手がどんな魔法を使うのか、どんな戦闘スタイルなのかを理解できるって感じ。」
その場にいる全員驚愕している。
それはそうだ、相手を見るだけで勝ったも同然なのだから。
「私もそんな魔眼聞いたことないけど、そうとしか言いようがない。」
とてつもない能力を引き当ててしまった…
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