転生少女は夢うつつ

アカアオ

第1話 死が二人を分つまで

 この世界の8割は一人の幼女に私物化されていた。

 その幼女の名前はルナ、白いワンピースを着て虚ろな目で黒色の巨大な斧を振り回している、今私と殺し合いをしている少女だ。


 「派手な爆発に肌で感じる躍動感と疾走感、何より少しでも気を引いたら死んでしまいそうな緊迫感‥‥フフフ楽しい、楽しいわ。ミーナちゃんもっと私を楽しませて」

 「くっ」


 彼女は私の名前を呼びながら禍々しい魔力をまとった斧を振り下げる。

 私は間一髪でその攻撃を交わす。

 先程まで私が立っていた地面には大きなクレーターができている。

 そんな地面を虚ろな目で見つめながら愉快そうに笑っていた。


 「正気にもどれ!お前はルナなんて女じゃない。お前の名前はやつー」


 私がそこまで言いかけた瞬間、彼女は一気に間合いを詰めて斧を振りかざした。

 私はそれを手に持っていた剣で受け止め、ルナの顔をにらみながら鍔迫り合いつばぜりあいに持ち込んだ。


 「ミーナちゃん?もうこの世界に小林夜月こばやしやつきなんて男は存在しないんだよ」

 

 虚ろな目をした笑顔のまま、ひどく冷たく沈んだ声でルナはそう言った。

 その声のトーンは夜月がルナに変貌してしまうあの日に放った言葉のトーンによく似ていた。


 『どうして異世界に来てまでこんな惨めな思いを』

 『そうだ全部夢なんだ、そもそも異世界に転生なんて現実的じゃない。きっと飛び降り自殺に失敗して俺は今病院のベッドの中で寝ているんだ』

 『せっかく夢を見ているのならもっといい夢にしないと、俺に優しい人々に俺の好きな風景』

 『せっかくの夢ならこんな太った体とも汚い声ともおさらばだ、体も声もロリの萌キャラ風にして‥‥‥‥ー$#*名前はルナなんてどうかしら。きっと楽しい夢になるわ!』


 全てが狂ってしまったあの日、夜月の口から彼のものとは思えない子供の女性のような高い声が聞こえたあと‥‥彼から発せられた暴走する魔力にこの世界は飲み込まれていった。


 魔力に飲まれた風景はこれまでの歴史を消し去り彼の芸術作品に書き換えられた。

 魔力に飲まれた人々はこれまでの記憶を消し去り彼の操り人形へ成り下がった。

 魔力に飲まれた夜月自身は今までの自分を消し去りこの世界の最大の脅威となった幼女ルナへ変貌した。


 彼女の魔力に唯一耐性があり、夜月と面識のあった私は彼女を止めるためにこの世界に残ったすべての力を無理やり取り込んで世界の脅威となったルナと戦っている。

 その代償だろうか、ルナとつばぜり合いをしている間にも私の身体からは魔力の固まりの石やモンスターの羽ようなものが身を引き裂いて這い出てくる。


 「ミーナちゃん、これで終わりなんてつまらないこと言わないよね。あなたと戦うのが今すっごく楽しいんだから簡単にくたばってもらっちゃ困るよ」

 「私は……夜月をルナに変えてしまうほど追い詰めてしまった責任と、この世界で生き残っている人間の希望になるためにこの地に立っている」


 私は剣に魔力を込めて思いっきりルナを振り払った。


 「たとえ私の身体が詰め込んだ魔力に耐えられなくなっても、たとえこの身が化け物になり果ててしまっても……おまえの目を覚まし、この世界に明るい未来をもたらすまでは決してあきらめずにこの剣を振るい続ける」

 「いいね!いいね!ゲームのボス戦やってるみたいですっごく楽しいよ」


 ルナはそう言うと空に片手を掲げる。

 彼女の頭上には白色の槍が何千本と生成されていた。


 「それじゃあ死が二人を分つまで、この素晴らしい夢の時間を続けましょう?」


 彼女はそう言って何千の槍を地上に落とした。

 彼女にとってここは夢の世界。

 きっと目が覚めるその時まで自分の欲と快楽のために世界を壊し続け、私と戦い続けるのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生少女は夢うつつ アカアオ @siinsen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ