〜栗田ちゃんエンディング〜

 五年前の栗田ちゃんはまだ小学三年生で、五年生の俺から見てもちっちゃくて、お人形みたいだなと思っていた。


 いつもお母さんの背中に隠れていて、俺が近くに寄るとすぐにびくびくと怯えてしまう。


 ある日、そんな彼女と仲良くなろうとして、駄菓子屋に誘ってみたことがあった。


 近所の駄菓子屋に子供たちの飲食できるスペースがあって、そこでブタメンなんかを食べられた。


 お店の人に頼んで、カップにお湯を注いでもらって、テーブルでずるずると食べた。


 でも、やっぱり栗田ちゃんは目を合わせてくれなくて、俺はちょこっとさみしくなって聞いてしまった。


「ねっ、もしかして俺って嫌われてる?」


 こんなパパみたいなこと質問してどうすんだって思った。


 けれど、それくらいこの子は心を開いてくれなかったのだ。


 栗田ちゃんはハッと目を見開いた。


 マロン色のおっきい瞳をうるうるとさせて、ぶんぶん首を左右に振る。


「ち、ちがうっ! あたし、その、学校でもお友達少なくて……だから、すごくうれしいのに、とっても恥ずかしくて……っ」


 口下手だったけど、この子の言いたいことは痛いほど伝わってきた。


 俺が構ってあげるのは嫌じゃなかったんだ。


 だから、その日からもっともっと栗田ちゃんのことを大切にしてあげた。


 どんな時でも見かけたら話しかけて、頭をなでて、手を繋いで、もう寂しいなんて思わせないようにした。


 俺が一番の友達になってあげた。


 いつからだろう?


 栗田ちゃんはどんどん自分のことを話すようになってくれた。


 目一杯、おしゃれして町を歩くようになり、お友達もたくさん増えた。


 そうして、みるみるうちに美少女になっていった。


 だから、今度はこっちが恥ずかしくなってきた。


 ある時、聞いたことがある。


「まだ、俺と一緒にいて楽しい……?」


 そしたら、栗田ちゃんはキョトンとした。


 海辺のベンチに二人は座っていた。


 アーティストのLIVEを観たあとなのだ。


 このLIVEだって、他の子と一緒に来た方が絶対楽しかったんじゃないかな、なんて思っていた。


 すると、栗田ちゃんは黙って瞳を閉じた。


 JCになった栗田ちゃんは、直視するのがためらわれるくらいかわいくなっていた。


 甘いチョコパフェみたいな香りがふわっと漂ってきた。


 そういえば、栗田ちゃん、さっきデザート食べてたっけ?


 かわいい子犬にも似た女の子は、そっと俺の肩にこてっと頭をのせてきた。


 ぱさぱさっ。


 耳元で揺れる、彼女の髪の毛がくすぐったい。


 正直、恋するなという方が無理だった。


 俺はつり革から手を離して、栗田ちゃんの隣に座った。


 栗田ちゃんは嬉しくなったのか、おっきい目をますますうるうると光らせて、俺の横顔を見上げてくる。


 正面の真白ちゃんはワンピースのスカートの上に手を重ねて、じっと嫉妬の涙目をしていた。


 俺はあの時の質問をしてみた。


「その、俺と一緒にいてもまだ楽しい、かな……?」


 栗田ちゃんはやっぱり回答してくれなかった。


 その代わりに、ほんのりウェーブした髪の毛でこてっと。


 海辺のあの日のように俺の肩に甘えて、チョコパフェみたいな香りでラブラブとこの心を誘惑したのだ。


「ねえ、橋本くん」

「ん?」


 ギュっと、栗田ちゃんは手を握ってくる。

 彼女の愛らしい顔が近づいてきて、びっくりした。


 え、ここで……⁉︎


 チュっ。


 俺と彼女の唇が重なった。


 真白ちゃんはシャー⁉︎ ヒョウのように麦わら帽子をガジガジしている。


 そっと、栗田ちゃんは唇を離して、ほっぺを赤くして、告白してくれた。


「き、今日から……、に、にぃにって呼んでいい……?」


  FIN 〜栗田ちゃんエンディング〜

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電車で女の子が隣に座ってくると、人として扱われているようでホッとするけど、今回座るのは俺。選ぶ側ではあるのだが、車内の両側の席に座っている女の子はどちらも幼馴染。どちらかを選んだ瞬間終わる りんごかげき @ringokageki

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