【読書感想文】(修正前)

   「別れの泣き面」を読んで

                    加藤 音駒

 みなさんは、愛するペットや家族・大切な人やものを失って、笑ったことはありますか? また、笑った人を、見たことはありますか? 満面の笑みを浮かべた人物がいると言ったら、どう思いますか?

 今回感想を述べるのは、「別れの泣き面」だ。とある少年とその愛猫にスポットライトを当てた物語である。この物語は、ペットショップから始まる。これが、主人公と愛猫の出会いである。

 私自身、二匹の猫を飼っているのだが、この物語の主人公であるチェルドの心情はいまいち理解しがたい。なんといっても、この物語のラストシーンでは、チェルドの愛猫であるガルは死んでしまうというのに、この物語は「そんなガルを見てからしばらくして、チェルドは満面の笑みを浮かべたのであった。」という一文で締めくくられている。私ならば、愛する猫が死んでしまっては、泣くしかないだろう。日が昇り、また沈むまで、あるいはそれを何回も繰り返すまで、ずっとずっと泣いていてしまうと思う。まだ大切なペットや家族を失った経験はないが、笑顔にならないことは想像に容易い。ではなぜ、チェルドは笑顔を浮かべたのだろう? 私はまず、そこを考察してみた。

 チェルドはもうガルを5年以上も飼っているのだ。ペットショップで一目惚れをした結果の衝動買いであったとしても、愛の深さは認めざるを得ない。では、なぜ私とチェルドとでは、愛猫が亡くなった時の心情がこんなにも違うのだろう。満面の笑みを浮かべたチェルド、狂ったように泣くかもしれない私。大違いにも程がある。

 それに、この作品にはもう一つ大きな謎がある。それはタイトル「別れの泣き面」と内容が全く噛み合っていないことである。別れのシーンは確かにあるが、泣き面は一度も登場しない。

 そこで、物語中盤にも焦点を当てようと思う。中盤に、ラストシーンの深く深く切ない理由のヒントがあるのかもしれない。そしてそれは、物語の中で海中のタコのようにひっそりと、隠れているのかもしれない。あるいは、急な山のような心情の変化があった可能性もゼロではない。そう考えた。しかし、結果は思う通りにはならなかった。どちらの線も、文中から解釈するのは困難が過ぎるのだ。何度読んでも、「ガルぅ~、今日が何の日か分かるか? ガルが僕と初めて一緒に寝た──、ガルが僕に心を許してくれた記念日だ。」というセリフには感動した。心の中の地平線でシャボン玉が割れたような、不思議な感覚になった。私は心を許してくれた日どころか、迎え入れた日さえも正確には覚えていない。しかし、やはりこの物語の素晴らしさに驚かされるだけで、結論には辿り着かない。だけれど、もう少し中盤について語ろうと思う。この物語は他視点で描かれ、時には客観的に、時にはチェルド目線で主観的に、ごく稀にガル視点で主観的に。このセリフの直前は、ガル目線で主観的に描かれていた。その心情は普段は客観視している者や、チェルドの予測として描写されるが、この時に限ってはガルの心情として一〇〇%正しく表現される。私は、この表現方法もとても興味深く、面白いと感じた。やはり、本の世界は海のように奥が深く、空のように広いとだと改めて実感した。話を戻そう。この表情方法だからこそ、私は知っている。ガルは不安に思っていたのだ。空が紅く染まりきった頃になっても、チェルドがガルが初めて夜を共にした日を祝ってくれず、自分との大切な思い出を忘れているのではないか?自分を昔ほど大切に思っていないのではないかと。私はこのガルの心情を理解した上で、例のチェルドのセリフを目にしたのだ。目が潤った。このシーンで何よりいいのは、ガルは自分は愛さえている事を理解した上で、その度合いが下がりつつあるのではないかと不安に思っているさなか、実はチェルドの愛はどんどん深まり、一年が過ぎたということである。愛されて、愛す。互いが互いを愛している。読者目線だからこそ、神の目でのみわかる世界を堪能できて、読み応えが強かった。私達読者だからこそわかる2人の関係は、理想的で魅力的だ。しかし、物語終盤まで読み進めると、チェルドは死体となったガルを見て笑うのだ。死体へと、ガルはなり果てた。それなのに満面の笑みを、チェルドは浮かべたのだ。不気味というか、不思議というか、なんと言うべきか。適切な言葉が見当たらない。なんとも言えないが、とにかく謎が残った結末だ。なぜ彼は笑ったのだろう、亡くなった愛猫を見て。「別れの泣き面」とは、なんのことだろう。夏休みが始まってから、この本を読んだ回数が二桁になっている。この本の海のような深さと、無限に見つかる新たな発見の虜になっていた。しかし、何度読んでも、この二つの疑問ばかりは晴れなかった。今日までは。

 雨があがるように、この笑顔に説明がつき、納得できたものだから、私は涙を振り切ってスッキリした。しかしまた、私は夜まで、今の今まで、いや今も、泣いている。私の心に虹が架かるのは、まだ先のようだ。でも、疑問が晴れた喜びで、少しは心の雲も退いた。

 この読書感想文は、四日に渡り書く計画であった。今日は四日目、あらかじめ作っておいたメモの通りにペンを運べば完成する。現在深夜一一時。私がこんな遅くになるまでペンを持たなかったのには、理由がある。二匹いる愛猫の内、片方が旅立った。その時、私は思った通り泣いた。突如姿を消し、もう一方の愛猫に導かれるがままにソファーの下を除けば、そこに横たわり、もう体の冷えた愛猫がいた。その時、私はどんな顔をしただろう。どんな声をあげただろう。とにかく、必死で、急いで獣医に行った。そして、「手遅れだ。もう息を引き取っている。」そう告げられた。私はその瞬間から、泣くことしかできなかった。そんな中、一つ、天にいる愛猫に問いかけるように考えたことがあった。

「みみ、加藤家で過ごした四年間は幸せだったかな。一緒に生きた四年間は、楽しかったかな。加藤家が好きかな。みみにとって、いい飼い主……家族であれたかな?」

私はこの時ハッとした。チェルドも、同じではないのかと。この三日間、動く愛猫を見て、愛猫の死んだチェルドやその心情について考えてきた。しかし、四日目・今日、初めてチェルドの立場に最大限近づいた。そして、今、この時が一番書くべきだと、心から思い、紙を涙で濡らしながらペンを進めている。湿った紙は少々書きにくいが、今が最も彼の心情を理解できる時なのだ。チェルドも、きっと、ガルが死んだ時同じことを考えただろう。「五年間、幸せだったであろうか、楽しかったであろうか、自分たちはいい飼い主であれただろうか。」チェルドの心の中にはきっと、その返答がしっかりと、ガルから届いていたのではないだろうか。

 私はこの本を読んで、タイトルと内容の相違に頭を悩ませていた。しかし、新たな実体験と、チェルドの心情や満面の笑みの意味を考察する事で、それも解決した。闇に沈んだような表情をしてしまうよりも、ガルの死を悲しみ涙を流すよりも、涙を堪えて笑みを浮かべたチェルドは、最高の飼い主であったと、心から思う。これは悪魔で考察だが、天に眠るガルから、チェルドの中にはどんな返答が舞い降りてきたのか。私にはわかる気がする。ガルはきっと感謝を伝えた。幸せで堪らない五年間を作ってくれた、最高の飼い主のチェルドに。

 凡俗な締めくくりになるが、私はこの物語の奥深さと、考察のしがい、そして細かい描写や物語の内容に、強く強く心を打たれた。ありきたりで最もシンプルで、今この気持ちに一番良く似合う一語を述べるとするなら、それは“感動”だろう。色々な意味で、感動した。序盤の出会いから、中盤の二人の関わり、そして終盤の切なく一見不思議な主人公の行動まで、本当に感動の一言に尽きる。また、タイトル「別れの泣き面」。作中では一切登場しない要素がタイトルとなっている。しかし、このタイトル、私は秀逸だと感じる。ガルとの別れの時語られたチェルドの表情についての情報は、「満面の笑みを浮かべた」一言だけだったというのに、泣き面があるとこのタイトルは主張する。私は、この作中には存在しなかった“泣き面”のありかとを、チェルドの心中だと考えた。私は思う。水バケツを逆さにしたように泣きたい気持ちを抑え、別れの泣き面を見せず、ガルからの返答に満面の笑みを見せたチェルドは、やはり最高の飼い主であり家族であったであろうと。この物語の偉大さと、この物語を描いた作者金原氏への尊敬の気持ちは、言葉では表せない。随分と締めくくりが長くなったが、私の言える、最大のこの物語への感想を最後に記そう。ただ1つ、言えることがあるとすれば、“感動した”。それまでだ。




 加藤かとう音駒ねこま14歳。新中学二年生である。以上の読書感想文は音駒が中学一年生の夏休みに書いたものである。受賞こそしなかったが、この作品を読み、愛猫を一匹失い、そして読書感想文という形で文章として残した経験は、今の音駒も大きく変化させられている。

 春休みの課題の中に「二年生になって」という作文があった。音駒は、その作文にも「別れの泣き面」で学んだ、外観的な表情と心に秘められた表情の存在を生かした。




   二年生になって

                     加藤 音駒

 書籍研究・作文・執筆部(以降書研部と略称)の部長は、私たち新二年生部員にとって唯一の部活動の先輩であり、憧れの存在 だ。新三年生の代は部員が現部長一人なのである。したがって、最上級生としての仕事、部長としての務めを全て一人で担ってくれた。普段はシャレを言って、心から笑う陽気な部長だが、私は彼の別の一面を知っている。部長は書研部の私たち後輩のため、顧問の先生と積極的に相談し、活動の幅を広げてくれた。たった四人から成る部だが、その中に心で繋がる絆をつくってくれた。私は、そんな部長が先輩としての憧れだ。

 部長は、なにも私の理想の先輩像ピッタリという訳ではない。しかし、目を引かれる一面を持っているのだ。後輩のために努力する部長は、本当にかっこいい。虹のような特別な存在ではないけれど、空のような身近な感覚で広い心を持った人だ。私も、虹のような特別な存在にはなれなくていい。しかし、部長のような、まるで空のような先輩になりたいと強く思う。

 書研部に入ったのだから、これからも色々の本を読みたいと思う。そして作文する力を、年齢関係なく部員という仲間と共に成長しながら高めていきたいと考えている。心から温かくて、そして笑顔な先輩になること。そして、語彙を増やしたり表現を学んだりして、仲間と共に作文する力を高めること。理想に近づくことと、協力すること。これが、今年度の目標だ。



 部長の心の表情は、きっといつでも明るい笑顔だ。何事にも前向きで、私たちを引っ張ってくれた先輩だからこそ、私は部長を尊敬している。


 そして、二〇‪‪✕‬‪‪✕‬年──春。新中学二年生として、この作文を提出した。桜の門をくぐり、花のアーチの下を通る新入生に拍手を送りながら、音駒は新入部員は何人かと考えていた。

 音駒の代は三人。今までの名簿をみる限り、二~五人が相場である。一人というのは、少し異例だった。──筈だった。

 時は、仮入部期間。部の雰囲気を見にきてくれた新入生は──、いなかった。ただの一人も。新入部員は、一人だった。

 音駒は後輩に、部長のような人になって欲しいと思った。そして、「別れの泣き面」を読んで見てほしいとも思った。

 初日は自己紹介があったので、おすすめの本ということで勧めてみた。すると、後輩はその本を読んでみてくれたらしい。感想を伝えてくれた。今まで、部長や同級生へ勧めたことはあったが、感想まで伝えてくれたのは初めてだ。かわいいと思った。そして、心の底から明るい子なのだろうとも感じた。

「とってもほんわかしました。感動ものですね……。あれは反則ですよ! 泣いちゃいます」

 そう言ってきた。そして、私は、聞いてみたいと思った。

「……。気に入ってくれたなら良かったなぁ。でもさ、どうして最後チェルドは笑ったと思う?」

「……う~ん。そこは謎です。頭イっちゃっのかな~とか」

 後輩はけろっと笑った。

「『別れの泣き面』の意味はなんだと思った?」

「えぇと……。たぶん、満面の笑みっていうのは泣きながらしたんだと思ってます! 笑うしかなかった……みたいな……。だって、チェルドが笑ったとは書いてありますけど、泣いてないとは書いてませんもん。だからといってなんで笑ったんだって話ですけど」

 後輩は気まずそうに笑った。

「個人的な解釈なんだけどね」

 音駒は言った。

「チェルドは、ガルが死んだ時に、まず思ったの思う。『ガルは自分と過ごした数年間、幸せだったかな』って。そしたらさっ、ガルは天国から返事、くれたんじゃないかな。『大好きだよチェルド。本当に楽しい一生だった。ありがとう。だから、泣かないで』って」

 後輩の意見を聞いて、音駒の解釈は少し変わった。きっと、描かれていないだけで、チェルドは心の中だけじゃなく、しっかりと泣いていたんだ。すぐに満面の笑みを浮かべただなんて書いていないし、それまでの間泣いていないとも書いていない。でも、それをガルからのメッセージを聞いて食いとどめて、笑顔で見送ったんだ。

「なんだか……素敵な解釈ですね」

 音駒より身長がはるかに低い後輩は、上目遣いでそういった。かわいい。そして、スッキリしたように笑った。

「でも、天国から返事は来てないと思います。だって、もし会話できるのなら、チェルドはずっっーーと会話しそうだもん。きっと、ガルならそう言ってくれるって、確信できたんです!」

 後輩がとにかくかわいい。指を口の下にあてて、考察しだす。

 この作品は、永遠に考察できて、色々な解釈ができて、人と交流することでそれらが深まる。本当に、良作だと思った。後輩はメガネをかけ直す。そして、自分自身の脚に足を絡め、転ぶ。

「キャッ!」

 そして、本棚を倒してしまった。

「あっ、すみません…」

「大丈夫…? 心配しないで。この棚、軽いからよく倒れちゃうの。今の二年生にも倒したことある人が何人かいるよ。二人で片付けよっか」

「ありがとうございます」

 きっと、部長や他の部員は掃除当番か何かなのだろう。図書室へまだ来ていない。

「先輩、優しいし、身近な感じして、安心しました」

「一年生って、不安山盛りだもんね」

 髪を耳にかける後輩の仕草に見とれ、手が止まるところだった。身近に感じる……そのセリフは、音駒にとって特別だ。音駒は本が片付け終わろうとした時、言った。

「部長以外は前にもあったと思うけど、ウチは怖い人いないからさ、安心してね」

「は、はい!」

 部長は、受験に向けて勉強しているため、週二回の部活動の内一回しか来ないらしい。今年からは、月曜日と金曜日の二回の内の金曜日にしか、憧れの部長には会えない。でも、今度は自分が憧れの先輩になる番だと、音駒は思い直した。

「品川……であってるよね」

「あっ! はい、加藤先輩?」

 品川しなかわ佳純かすみ。いい名前だ。

「仲良くしよーね! 少人数部活だし!」

「はい!」

「あと、君の代は一人だから、部長の座は任せたぞぉ~?」

「ひ、ひえぇ」

 後輩品川は大袈裟にジェスチャーして見せた。尊い。


「やっほ~」

 音駒の同級生部員が集まってきた。

「おっ! おはよー。すでに後輩は来てるのに、先輩が遅れとは……情けない」

「もぉー、体育館掃除だったんだからしょーがないじゃーん! ここ三階で体育館一階だし」

 品川に手を振っている。

「しかしこちらはお主が二階で三年の彼ピッピのおしゃべりしてたのを知っている…!!」

「えっ!? 見てたの!?」

「えっ!? 当たってたの!? マジかよリア充め」

「うわぁハメられた~」

「てかミッシーたちは~?」

 ミッシーというのはあだ名だ。同級生部員の。

「今日ミッシーお休みよ~」

「うわぁマジか、もったいない」

「部長来てないの? 金曜だよね、くるの」

「うん、来るはずだけど。補習的なアレ受けてるんじゃない?」

 品川も口を開く。

「アフタースクール…?」

「あっ、それそれ! 流石頭よさそうな我が後輩!」

「おいおい、凄いのは後輩だぞ~。先輩がイキるなって~。てか先輩が問題あるだけ」

「後輩困らせる先輩もどうかと思うぞぉ~。見ろこの尊すぎる困り顔!」

「うをっ、彼女にしたい…」

「GLやめてぇ~、Love story始めたら本格的に困っちゃうよぉ」

 品川は顔が真っ赤だ。

 そして、部長が走ってきた。

「遅れたーー! もう始めてる!? っっと、後輩! 俺が言うとセクハラだから言えないけどめっちゃ可愛いー!!」

「言ってんじゃないすかw」

 音駒と品川はツッコミをいれられた部長の笑顔を見ていた。

「楽しそうな部活で……よかったです♪」

 品川はきっと心からの笑顔で、そういった。


「そういや私のペット、犬なんですけど名前ガルですよ。めっちゃ感動移入しました」

「おお、チェルドこんにちは」

「I am Cheld. Hello,senpaiセンパイ!」

「なぜに英語?w」

「言っておいてあれですが、自分でもわかんないですw」


 たった一冊の本が、誰かの甘酸っぱい春を創る手助けをする事もあるかもしれない──。本で得た数多の経験が、知識が、心持ちが、考え方や世界の見方が、貴方を救う日が来るかもしれない。時には、本が原因で何か悲劇に巻き込まれるかもしれない。だけれど、きっとその本で得たものは、その教訓は貴方の心で美しい一輪の花となり、咲き誇ったままの姿で残り続けるだろう。そして、この花は、貴方の一生をより華やかなものに、変えてくれることだろう──。


【終】

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