日常

スロ男

———

 どろどろに溶かした紙を再生してダンボールを作るように、いままで殺した男を煮詰めて理想の相手を作れば幸せになれるかと思ってた。

 ……というのは勿論、単なるあたしの想像で、いままで男を殺したこともなければ、これから男を殺したいと思うことも、たぶんないだろう。

 あたしが殺したいと思ったことがある相手はただひとり、継父のあいつだけだ。

 ……とはいえ、まだ幼いあたしにあいつが手を出してきたとか、それを実の母親が見て見ぬふりをしてたとか、そんなこともない。おそらく、傍から見たら若くて理想的な父親だったし、いいなあという級友すらいた。

 例えていうなら、あいつは仕事帰りにふらっと祭囃子に誘われて勢いで金魚を買って持ち帰るような、そんな男だった。

 あたしは、そういうのに素直に喜ぶ子供ではなかったし、さりとて子供じみた振る舞いに可愛いと思うような大人びた子供でもなかった。

 なぜか?

 それはあたしのママがそういう女だったからで、そういう女になりたくないというのがあたしという女だったからだ。

 だから。

 あたしは女の涙が武器だとかいう男も嫌いだし、男の涙こそ卑怯だという女も嫌いだ。

 残念ながら、そうなりたくなくて、そうならないために生きてきた自分自身も決して好きでないのだけれど。

 そんなことをふとした夜に考えたりしながら、あたしは非正規の地味で面白くない奴で、白馬の王子様なんてものも信じないくせ、近寄ってくる男なんて「このぐらいなら簡単に落とせるだろ」と思ってるだけだと決めつけて距離を置き、寂しさに涙をこぼすこともあるけれど、誰からも愛されない女の涙なんて、当人の頬を冷たくする以外の効用しかないのだとわかっている。

 そうしてあたしは睡眠不足でぼんやりとした頭を、冷たい水や熱いシャワーでしゃっきりさせて、今日も満員電車に乗る。

 せめて、いつか。

 殺したいと思う相手のひとりぐらい、現れないものか、と思いながら。

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日常 スロ男 @SSSS_Slotman

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