後日譚222.事なかれ主義者は様子を見に行く

 年が明けて一週間ほどは忙しい日々だったけど、それ以降はいつも通りの日常に戻った。

 魔力の多さがなせる業なのか、それともこれも異世界転移者が神様と直接会って加護を授かった恩恵かは分からないけど、そこそこの期間の間の天候を祈る事ができるからまだ何とかなっているけど、次に『天気祈願』を授かる人は大変だろうな、と思った。

 昔のこの世界の住人だった人たちは加護を授かった時にどうしてたんだろう? と思っていたらチャム様の声が突然頭の中に響いて『数人で祈りを捧げて天気を操ってたんだよ』と教えてくれた。しばらくの間は僕が頑張るしかなさそうだ。

 一先ず、天候が荒れやすく必要度が高い地域や国々から回って対応していたおかげでチャム様の信仰は着実に広まっている。ただそれでも、邪神の爪痕が残るような場所だと、未だに邪神の恐ろしさと共にその姿が伝わっているからかチャム様の姿が変わったという話は来ていない。

 そういうわけで、邪神が悪さをした大陸へと赴く事になった。本格的に向こうの大陸に介入するのは千与が大きくなって転移門や転移陣などの魔道具を作れるようになってからと思っていたけど、神様から教えてもらったホープという花がちゃんと土地を浄化しているのかも見たいし、向こうでちゃんと復興作業が進んでいるのかの確認もこの目でしておきたい。

 ……単純に知らない所に行ってみたいという気持ちもあるのは否定しない。


「そろそろ行くのか?」

「ラオさんたちも本当について来るの?」

「ったりめぇだ」

「心配しなくても大丈夫よ、シズトくん。もう体は何ともないんだから」


 ぶっきらぼうに返事をしたのがラオさんで、僕の頭を優しく撫でてくるのがルウさんだ。

 元々Bランク冒険者だった彼女たちは、同じ魔物から手に入れたであろう素材を使って織揃いの防具を作っていた。多少身に着けている者が違うのは、ラオさんが拳を使って戦うのに対して、ルウさんは脚を使って戦うからだろう。

 大柄で筋肉質な彼女たちが武装すると威圧感が増すけれど、冒険者ギルドにいた人たちの方が怖く感じるのは見慣れているからだろうか?


「それに、身体を動かさねぇといい加減鈍っちまうからな」

「都合のいい依頼はどこに行ってもなかったからしょうがないわよね。これも転移門の影響ね」

「んー、これは良い影響、なのかな?」

「良い事だとお姉ちゃんは思うわ! だって、大変な依頼があったら各地から応援が今までよりもすごく早く駆け付けてくれるのよ? 魔物に怯えていた人たちも減っているんじゃないかしら?」

「確かに減ってはいるだろうけど、そういうのは報酬が良いやつかギルドが直接依頼を出したものくらいだろ。割に合わないような塩漬け依頼は相変わらず塩漬け状態だから競争が激化しているだけな気もするな」

「へー…………塩漬け依頼? を優先的に町の子たちに受けるように指示を出すのもありかな?」

「あー、どうだろうな。塩漬けになっている理由次第じゃねぇか? 場所が悪い、金払いが悪いとか受けても問題ねぇんじゃねぇか? ああ、でも期間が経ちすぎてたら事前に状況が変わっていないかを確認してもらった方が良いだろうけどよ」

「変異種が出ていないかとか?」

「そういうこった。っと、レヴィも来た見てぇだな」


 屋敷の扉が開いて外に出てきたのはラオさんの言う通りレヴィさんだった。

 今日は公的な訪問という事で胸元が大きく開いたドレスを着ていて、首元には紐が通された『加護無しの指輪』が提げられていた。金色のツインドリルは健在で、こちらに駆けてくる時に胸と一緒に揺れている。

 その後ろを追いかけるのはセシリアさんだ。水色の髪とメイド服を靡かせながら結構な速さで追いかけている。出産からまだ二ヵ月しか経っていないけど全快したからとついてくるつもりらしい。

 できれば残ってのんびりしていて欲しかったけど、知らない土地でレヴィさんに何かあったらと思うとストレスになるとの事だったので許可した。万が一の時の事を考えてエリクサーやら上級ポーションやらを用意しているけど、レヴィさんが気を遣わずに走っているのを見るといらないかもしれない。


「あれ、ドーラさんは?」

「もうすぐ来るわ」


 ルウさんが言った通り、レヴィさんたちから少し遅れて屋敷からドーラさんが出てきた。開け放たれた扉から侵入しようとしていたドライアドたちを追い払って玄関を閉めるとガチャガチャと音を立てながら駆けてくる。久しぶりの全身鎧姿だった。


「ん、お待たせ」

「それじゃ行こうか」

「モン!」

「いってらっしゃーい」

「レモン!」

「いってきまーす」

「ばいば~い」


 肩の上に当然のように乗ったレモンちゃんと、真っ白な服に張り付いている数人のドライアドたちが見送りの子たちに返事をした。三人くらいならまだ何とかなるけど大量に引っ付くと歩き辛いので、周りの子たちが見送る気分の間にさっさと行ってしまおう。

 畑を抜けて町に向かい、町の子たちにチラチラと見られつつも特に何事もなく仮で設置している転移陣の所に着いた。

 町の子たちを復興のためのお手伝いとして派遣しているので町中に設置しているけど、エルフが警備している事もあって向こうからこっちにやってくる人は今の所いないようだ。


「それでは、先に私が参ります」

「うん、お願い」


 当然のようにいつの間にかすぐ近くにいた世界樹の番人のリーダー格であるジュリウスが転移陣を使って向こう側に行った。その後にラオさんとセシリアさんが続く。


「……何ともないみたいだね」

「一緒にいくのですわ! ドーラは後から来るのですわ~」

「ん」

「お姉ちゃんもすぐにそっちに行くわ!」


 ドーラさんとルウさんは念のために最後に転移する予定なので、僕たちは二人で転移陣の上に乗り、魔道具を起動させるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~ みやま たつむ @miyama_tatumu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画