最終話 今度こそ
1ヶ月半後、彼――シーボ・イオナを筆頭に、既に清掃され、傷1つ残らない円卓を、国王と神傑剣士たちが囲んでいた。第1座から第12座、そしてイオナとカグヤ。合計15名の人間により、精霊種による襲撃に関する、最後の会議が行われていた。
「――それで、イオナとカグヤの宿命は達成された。今後、君たちはどう生きることを選択するのかな?」
シュビラルト・ナーフェリア国王の優しい声音による問いに、イオナは僅かに口端を上げ、カグヤは視線を逸らす。未だ嫌悪感の拭えないカグヤに、正直人間と同じ部屋は酷である。現に、唯一席に座ることなく、イオナの後ろ、列柱の1本に背を預けて腕を組んでいる。
「俺は、この退屈になった世界で、ただ幸せに、平凡に生きるだけですよ。宿命は消えても、この世界から完全なる安寧は訪れないので、それをたまに処理します。暇潰しにでも、ここに座る弱虫泣き虫たちの背中を斬るのもありですし」
背に冷水を垂らされたかのように、ビクッと全員が動く。圧倒的な威圧感、でも殺意を込めずに言った言霊に、それでも神傑剣士は驚く。
イオナの返事に、シュビラルト国王は頷いて視線でカグヤに問う。しかし、どこ吹く風で、欠伸すら連発するカグヤは見ていない。けれど、気配を察知して「チッ」と舌打ちする。
「私は好きに生きる。そこに座る最強を超えるために、努力することも、御影に行って、さらなる進化を遂げるのもありだ。何にせよ、お前たちには関係ないことだ」
「そうか。だが、君には無限の命はないのだろう?聞けば、イオナは魔人の血を引く存在であるが故に、その最強なる力も相まって、実質不老不死だ。しかし、君は人間。ただ、御影の地にて時を止めていただけにすぎない。ならば、その目的も果たせないのでは?いいや、実はもう、死ぬ寸前なのではないか?」
カグヤは時にして3桁の年数を優に超える時を生きている。それは全て、御影の地で融合した自分の気派との時間操作によって行われていた、いわば、理に背いた行為。
その、理を逸脱するために、得られた無限の寿命は、今はもうないのではないかと、シュビラルト国王は問うた。しかし、カグヤは呆れたようにため息をつく。
「耄碌してんのかよ。考えれば分かることだろ。私とイオナは昔からの付き合いで、御影で育てた親と子の関係のようなものだ。つまり既に契約を交わしてる存在ってことだ。本当なら、お前の言うように、私は宿命とともに、神に命を
嘲弄するように、今度は目を見て蔑んで言った。それを見て、つくづく嫌いなんだと思うイオナ以外、こいつと関わるのは避けるべきだと身に沁みて理解した。過去、鍛えられたルミウは人一倍強く。
「なるほど、それは失礼を言ったな」
カグヤは返すことはなく、無を貫いて答えた。
静寂に包まれた会議室も、最近の使用頻度が高すぎるため、特別感もなく、女子会に使われたこともあったのだというほど、身近な存在になっていた。
そんな場での久しぶりの緊張感の走る会議。もう呆気なくも無慈悲に殺し合いは終わり、人間の圧勝、いや、イオナによる蹂躪による1人勝ちとなった今、誰もが実力不足に直面しているため、気落ちは当たり前だった。
だから、珍しくシュビラルト国王が指揮を執る。
「何にせよ、これで全ては解決というわけだ。これ以降、何かしらの勢力が襲おうとも、我が王国には最強が存在する。故に安心というわけだ」
「どうでしょうか。まだこの世界は半分以上が未知です。俺たちは精霊種を限定に、この力を使用して勝利をつかみました。ですがもし、俺を殺すために、最強の力を手に入れる者が居るとしたらどうでしょう。まだ安心は出来ません」
足を組み直し、もう好青年として振る舞うことの面倒を嫌ったイオナの、王たる威厳を感じさせるほどの圧。最強の威圧だ。それらを全面に出している。
それに屈するから、ほとんどの者が口を開けない。気圧されて、話しだしても力不足を問われることに怯えるから。絶対にそんなことをするイオナではないけれど、魔人の血が、背から顕現するように神傑剣士を睨む。
しかし、それに屈することのない者は口を開く。
「それなら、そもそもこの世界の力が崩れることになる。ただでさえ、君のようなバカげた存在が居るのに、その上なんて、居るとは思えないよ」
瀕死の体を、イオナの契約で治癒してもらった1人――ルミウ・ワン。その言葉を発するために、逡巡することはなかった。
「かもな」
元々思っていない。イオナは、精霊種が俺を除いて最強だと、確信している。御影の地の全てを統括した存在だと、自分たちで言っていて、それに偽りがないことを知ったからだ。
つまりは、驚かせたかったという、子供のような発想の一端から、呟いただけの欺瞞だ。
「なんであれ、遅かれ早かれ調査は必要だろう」
「ですが、可能なのですか?」
テンランは問うた。
「現在ヒュースウィット王国は、かつての、リベニア王国、サントゥアル王国、ナファナサム王国の3つの王国を統べる現状にあります。その国土は前ヒュースウィット王国の、約2.6倍。それに我が王国の、この甚大な被害も加わると、ヴァーガン王国の助けも望めない今、調査などは……」
増えた王国の国民たちが、何よりも問題だった。金銭面も、住宅的問題も、人間関係も精神状態も、1から王国を築くよりも、更に多くの時間と労力が必要だった。
ヴァーガン王国――助け舟を出した唯一の王国は、狭い国土を侵略され、半分をこちらに割いていたことが影響し、王都崩壊の危機に陥っている。
復興が地獄のようなのだ。
「もし、精霊種を除く敵を捕まえれてたなら、今頃楽は出来たんだろうと思いますね」
チラッと、カグヤを見てフィティーは言う。鼻で笑うこともなく、無視を続ける気持ちの中に、面倒だと言葉が漏れていた。
実は、精霊種を殲滅し終えて、ルミウとフィティーを治癒しに行った時、カグヤの蹂躪が始まった。その時に全て殺さずに捕まえればよかったものを、憂さ晴らしと言わんばかりに、次から次に
今になってそのことが悔やまれると言われて、嬉しそうにカグヤはニヤついた。
「その問題については、気にすることはない。我が王国には、神傑剣士でも神託剣士でも守護剣士でもない、最強の剣士が存在するのだから。彼らに任せることで、復興と統制に問題はあるまい」
「俺たちを便利屋か何かと勘違いをされているのでは?」
「やはり人間はゴミのような性分だな」
その対象となるだろう2人は、当然不満を募らせる。1人は幸せに、楽に、生きることを、1人は最強を超えるための修行に出ようとしていたタイミングでのこと。至極当然であった。
「実力不足のガキ共に行かせろ。そこで先程から無言を貫く惰弱たちに、これからの己の強化を、国王としての命として課せ。それで十分だろ」
殺気を飛ばすから、余計に縮こまる。射竦められてるわけでもないのに、ただの威圧に屈する。神傑剣士としての矜持は、今や皆無も同然だった。
「それは出来ない。今は既に名の知れた神傑剣士が、先立って行動することで、国民に影響を及ぼす。だから、今はその離れに居る君たちにしか頼めない」
「だってよ。どうする?頑固者」
「お前な……」
どっちでもいいし、どうなってもいい。故にイオナは何も考えていなかった。どうせこの世界に飽きることはないから、と。
「イオナ、お前が決めろ。私はどうでもいい。どうせ御影には行くつもりだからな」
「優柔不断かよ。まぁ、別に文句言われないならいいけど」
この場で唯一カグヤと対等に話せる存在。見る13名が羨ましいと、微かにでも思う中で、それよりもカグヤに対して、イオナと対等な力を持つことに、全員は嫉妬していた。
「俺は良いと思うぞ。その合間に、お前の鍛錬に付き合えるし、飽きとは離れられる。夭折したあいつらにも会いに行かないとだしな」
最強の名を共に背負い、【2】と【3】を与えられた仲間。未だに両手を合わせることが出来てないことを、イオナは心の中でずっと気にしていた。
「そうか。ならば従うまでだ」
「親とか言ってるくせに、そういう時は、俺の付き人なんだな」
「黙れ」
普通なら、剣呑が漂い、戦慄が走る言葉遣いと睨みなのに、イオナは心底笑った。だから、それにより周囲も感化される。カグヤの殺気よりも、イオナの笑顔が勝った瞬間だった。
「まぁ、そういうことで」
「ああ。助かる」
微笑ましかったか、シュビラルト国王は僅かに緩ませた頬を元に戻す。
「必要なことは全て話したか。これ以上話していては、国民に不満を与えてしまうだろう。これにて
「「「はっ!」」」
カグヤとイオナ以外、12名の神傑剣士たちが刀を胸の前に掲げる。いつ見ても揃っていた姿を、客観的に見ると、更に美しさを増して見える。
「はぁぁ、結局多忙かよ」
「別に、命令でもないだろ。私たちは私たちで、適当に調査という名目で遊びに出かければいい」
「お前も悪いよな」
「お互いさまだ」
昔からの阿吽の呼吸は、未だ健在。考えることも分かるから、すること全てが一致する。会議室に残された14名。気まずい雰囲気が漂う中で、イオナは口を開く。
「っさ、俺たちは行こうかな。残された12名の神傑剣士さんたちは、鍛錬と国務頑張ってな」
カグヤと共に、会議室を出る。次々と息を吹き返す神傑剣士たち。実力不足に落ち込むのも無理はない。リュンヌの剣士ですら、それは同じなのだから。
けれど、いずれこれが力となる。絶対にイオナとカグヤには追いつけないが、それでも高みは目指せる。リュンヌの剣士を超えることだって可能なのだ。そのために、我流剣術士が存在するのだから。
――翌日、イオナは自宅にて遠出の準備を始めていた。隣にはカグヤ、そしてリビングにはテンラン。見慣れた光景も、いつから飽きなくなったか。簡単に身支度を整えて、この世界の更に奥へと進むために、2人は微笑んだ。
「んじゃ、テンラン、また行ってくる」
「ババア、世話になったな」
「ババアはそっち。気をつけて、なんて必要ないことは言わないけど、早く帰って、少しでも王国のために尽力してくれたら助かるよ」
「ああ。善処する」
長旅になる。1年以上は余裕で。
イオナは扉に手を掛ける。寂しさなんてものは、感情のないイオナには知り得ない。だから、何事もなく家を後に出来る。
しかし。
「おはよう」
そう簡単に出発は叶わず、目の前に美少女を4人並ばせて、まるで求婚されてる雰囲気にまとわりつかれるのは、予想通りと言うべきか。
「気持ち悪っ」
思わず溢したカグヤの一言。しかし4人の耳には届いていない。
「ルミウ、フィティー、ニア、シルヴィア……嘘だろ」
「私は仕事を放棄、フィティーも同じでニアとシルヴィアは、暇だからって、お供するらしいよ」
「私は先輩の専属ですし」
「私はルミーが行くなら、当然専属として付いていくよん」
「こんなに女の子に囲まれて、イオナも隅に置けないね」
「偽りで言うなら、今の状況に動揺してる」
本音ではこの関係に大変さが加わることを危惧して、安心出来ていない。
感情が存在しないが故に、この状況を喜べるわけもなく、イオナは苦笑するしかなかった。良いか悪いか、その判断すらも今は出来ないらしい。
「こんなバカ共を連れて行くのか?」
「拒否出来ると思うか?」
「まぁ……面倒だな」
そうなのだ。
いつだって、1人で乗り越えることは出来なかった。させてくれなかったと言うのが正しいか。イオナの側には必ず人が居て、大きな存在へと変化した。
その代表的な4人が、今目の前に集結している。
「そういえば先輩、ルミウとフィティーに契約をしたって聞きました。それって今も可能なんですか?」
「あっ!それ私も気になってた!」
1つ下と上の歳でも、本当は何倍も離れた歳。だからなのか、イオナは幼さを激しく感じた。我儘をごねる幼子に、カグヤはどこか記憶の片隅に置いたものを、刺激される。
「……出来るけど、そんな軽い感じで良いのかよ」
「良いですよ。皆、先輩のことは好きなので」
「うんうん!」
「そうかよ」
もう、呆れることすら無意味だと、ため息すらつかずに刀を抜いた。合計5人の、不老不死を生み出してしまったが、次の世界に生まれ変わったら、きっとイオナは平凡な人間だろう。
「うわぁ、なんか温かい」
感想を簡素に述べると、その時点で契約は完了した。
「これで、6人全員、仲良くまた調査だね」
「仲良くない。一緒にするな」
「ツンツンしてるの、女王様って感じで、あぁー嫌だね」
カグヤにも臆さないのが、シルヴィア。いつも通りの性格に、少しだけイオナは胸の鼓動を感じた。強く、それが何を意味するかを知る由もないが。
「はいはい。行くぞ。どうせ長旅なんだし、今から喧嘩されると、聞く側が疲れる」
「だね」
きっとこの一歩は、本当ならば1人で、だった。誰とも触れ合わず、捨てられて死ぬ運命にあったイオナはそう思った。しかし、今を見ると、そんなことはやはり妄想の範囲内でしかなかった。
今では、5人もの心強い味方を側に、また新たな地へと踏み出した。それはイオナが積み上げたこれまでの言動の集大成。深く感じる、自分のこれまでの過程に、思わず微笑む。
試練はないだろう。しかし、未だ知れないことはまだ多い。それらに希望を抱き、飽きずにこの人生を全うするため、6人の第2とも言える――
学園でイジメられてる俺は実は序列隠しの最強剣士 〜【固有能力・レベリングオーバー】で恨み晴らして調査と言う名の冒険に出掛けよう〜 XIS @XIS
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