第二百五十七話 蘇生

 気派を操作して、冥界まで一歩の2人を現世に連れてくる。死にたいと、その時強く思えば俺の気派は無効となるが――そんなことはなかった。


 ヒューヒューと呼吸を始める。安定まで注ぎ込み、普通の誰もが使える気派を凌駕した、唯一無二の蘇生術。最強だから出来ること。


 「すげぇ……息が」


 「おっさんも、まだまだ神傑剣士になり続ける価値はあるだろ?」


 確認してからメンデは目を擦っては、現実なのかと確かめる。俺でも、こんな力を使えてることが驚きだ。全て蘇った記憶の中で、脱兎のように駆け巡った結果、見つけた方法。


 「そろそろ時間だ。起きろ、ルミウ・ワン、フィティー・ドルドベルク」


 声が聞こえ、つらさを感じなくなった2人は、それでもゆっくりと瞼を開いた。久しぶりの陽光に、顔を顰めるのは当然のことで、明順応する時間を待った。


 その瞬間、体にバチッと一閃走った。間違いなく、猛者の剣技が近くで披露されているのだと、即座に理解した。


 「おいおい……まだ居るのか?」


 満身創痍のメンデには、この気配は苦痛でしかない。たった今助かったと思ったのに、それを無下にされる感覚なのだから。しかし。


 「なわけあるか。敵の最強を殺して、まだ敵が出てくるとでも?この気配はカグヤだ。慣れないお前たちには、敵だと思っても不思議じゃないけどな」


 創世を背負った最強集団の一角。カグヤの創世剣術。おそらく聖域シェレアではなく、もう1つ――死域ヴェロシェだろう。


 領域内に侵入した敵と認識された者は、誰であろうと悉く我流剣術を受ける。カグヤならば、無尽万象やいつわりなどだろう。他にも、蓋世心技の威力が倍になったりと、戦闘狂にもってこいの領域である。


 「そうなのか?」


 「まぁ、違ったとして、どうせ俺より弱いからなんとかなる」


 今なら、ルミウとフィティーの関係上、戦闘は難しいが。


 「……ゴホッゴホッ…………あぁ……」


 「おっ、おはよう。やっと脳も覚醒したか」


 目覚めるのは、先にルミウ、続いてフィティーだった。咳き込んで、半ば生き返った2人に、血は巡っていた。


 「助かったのか?」


 「いいや、これからそれは決まる」


 実はいいヤツ。それがメンデである。


 「……イオナ?……なんで」


 「それは、そこに寝てるお前の大好きなエイルが呼んだからだ。フィティーに関しては、このジジイだけど」


 「そう。ここは?」


 「冥界だと思ってるのか?ここはお前たちが精霊種を相手にして、息絶えそうになった世界だ」


 「……これも、君の力?」


 「もちろん」


 骨は最低でも20は折れている。開きづらい右目は、おそらく限界突破の影響で見えなくなったか。四肢を動かせないほど体を壊したルミウは、ニコッと微笑んだ。


 「相変わらず、最強だね」


 「フィティー、お前は心臓外れてるとはいえ、すぐ横を貫通してるんだ。無理に体を動かすな」


 起きたフィティーは、匍匐前進のように瓦礫に寄り、背を預けた。


 「でも、どうせ私は助からないでしょ?即死は免れたとしても、この出血と傷なら……」


 口からも腹部からも血は未だ、流れ続ける。痛みは最大限抑えているが、それでも完璧に痛覚が刺激されなくなるわけじゃない。自分のことは、自分で分かるように、フィティーは決然していた。


 「いいや、そこでだ。瀕死の2人に聞きたいことがある。今もう覚悟をしてるとこ悪いけど、一応な」


 「聞きたいこと?」


 ルミウの怪訝な表情に、いつ見ても変わらない思いが確認出来た。


 「ああ。今の状態は分かるように、ただ俺が気派で延命しているだけだ。止めてしまえば死ぬし、2度とこの世界で呼吸は出来なくなる。そのことを理解してる途中に悪いが、2人とも、まだ生きたいと思うか?後悔なく、今死ねるか?」


 問うことの意味を、理解した2人。もう俺と行動を共にしすぎて、簡単も簡単だったらしい。驚くこともなく、クスッと笑って答える。


 「私は、死ねないかな。やり残したことがあるから」


 「私も。せっかくこの王国の神傑剣士になったんだもん。歴代最速の死を迎えた神傑剣士なんて不名誉、欲しくないよ」


 「そうか」


 でも、それは時に、自分を苦しめることにもなる可能性がある。この話が、全ていいことだとは限らないのだから。俺は唯一の懸念点として、踏まえて再び聞いた。


 「だったらよく聞いてくれ。2人とも、生きるためには俺と契約する必要がある。それはつまり――」


 「人間よりも長い寿命を得ても、私は嬉しいよ。君と一緒なら、別に何年も何十年も何百年も、あっという間だから」


 「お前……」


 「うん。成長したよ」


 カグヤですら読み取れない俺の気持ちを、考えを、見抜いてみせた。それは確実に俺の思っていることだと、一言一句全く同じ言葉で。ここに来て、驚かされるとは。


 無粋、か。


 「ふふっ。私も同じかな」


 「だから、契約しよう。私は君とこれからも共にすることは、もう決めてたから」


 「私は違うけど、楽しそうだから良いよ」


 「そうか」


 覚悟は、既に決まっていた。2人の死を書き換えることは、正直好ましくなかった。けれど……押されては断れもしない。


 「分かった。契約しよう」


 2人は微笑み、メンデは気絶させた。メンデに関しては、気力だけで立っていたようで、やはり第2座は伊達ではないと、本人には伝えないとこで思う。


 刀を取り出して、自分の心臓から溢れる気派――発を操作する。刀に流し込むと、まずはルミウ、続いてフィティーの心臓に刀を突き刺し、生涯の契約を交わした。

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