第二百五十六話 決着後

 同時に剣技も解除。時は戻された。


 俺からすれば、結局そこに転がる元精霊種だったものも、不肖でしかなかった。最強を与えられた俺に、肩を並べる存在はこれまで皆無だった。剣呑を感じることもなくて、猛者の圧に桎梏されることも、隘路すらもなかった。


 圧勝に安堵は覚えても、不完全燃焼は否めない。


 ぞろぞろと、息を吹き返すかのように動き出す仲間たち。この王都を包み込んだ剣技に、気づくはずもなく、焦りは表情から消えていない。1人を除いて。


 「使ったのか?」


 その1人――カグヤは、不満げにも聞いてくる。


 「そんな仏頂面するなよ。剣技なら使ったぞ。そこに転がる死体が語るようにな」


 「疲れは?」


 「今のところはないな」


 「そうか。相変わらず、時を操作したとて些細なこと、か。強すぎて恍惚としてしまうよ」


 そんなこともないだろう。自分が殺したかったと願いは強かったからこそ、表情に隠しきれない負の感情が生まれている。仲間の敵討ちならば、譲れば良かったと、少しだけ悔恨を胸に抱く。


 「その力、圧倒的だったようだな。やはりイレギュラーなのは変わらないか?」


 「ああ。誰も寄せ付けない、最強に相応しい神の力。それはこれからも、きっと変わらない」


 望んで手に入れたのではない。選ばれたのだ。数多の歴史が刻む中で、偶然の稀有の確率で生まれた、イレギュラーとしての存在。これこそが、この世界を平和として創世する、俺の運命だったのだろう。


 「よし、その他の処理に向かうか。俺はルミウとフィティーのとこに向かうから、お前は残りの処理を任せる」


 「分かった」


 この場に見える仲間のことは後回しで良い。死体の確認で、自分たちなりに行動をしてくれるだろうから。言って即座に消えたカグヤ。スッキリとした面持ちに見えたのは、取り敢えず良かったと思える。


 そんな気持ちを抱いて、俺はまずルミウの倒れる先へ向かった。


 瓦礫の山に、瀕死に近いノーベとファイス、そしてエイルが、立とうと必死に足を震わせている。神傑剣士の情けなくも、戦い終えて生きてる勇姿。良く生き残れたと、心底安堵した。


 その中の1人、エイルは俺を見ると、血眼になるよう俺を求めてるのか、全力で走って来る。千鳥足でおぼつかない、けれど初めて見る狼狽は、胡乱な様子を浮かばせた。息は荒くて、落ち着くこともなく言う。


 「イオナ……急いで来てくれ!」


 「ルミウ、だろ?」


 落ち着かせるため、俺が狼狽を見せることはない。それに、可能性を見出したのか、エイルは目を見開きながらも黙って俺を見つめた。


 「知ってるから、お前は今はゆっくり休んでろ。ルミウは死なせない」


 「いいや……私はルミウと約束した。イオナと戻るって」


 「そうか。なら、自己責任だぞ?」


 「こんなの、痛くも痒くもないね」


 「だったら、行こう」


 「もちろん」


 サポートは一切しない。エイルが行くと決めたのなら、最後まで自分の足だけで、ルミウの倒れる場所へ向かうのが当然だ。


 足を引きずり、でも約束は絶対なのだと、止まりはしない。流石だと、今にも倒れておかしくない気力なのに、持ち堪えているのは正直驚かされる。


 そしてすぐ、瓦礫の側に倒れる、白髪の美人が目に映る。


 「ルミウ!」


 普段から高圧的な態度なのに、仲間思いであるエイルは、時々、このようにツンデレな一面を見せる。誰よりも先に駆け寄り、安否を確かめようと、自分のことなんて二の次で。


 「ルミウ!大丈夫なのか!」


 「お前、瀕死のやつにそんな大声で寄るなよ」


 「気絶してたらどうする!」


 「意識はないし、体はボロボロ。骨も二桁は折れてるし、今生きてるのが不思議なくらい。そんな相手に、更に負荷をかけるな」


 「……そうか。悪い」


 シュンとすると、口から血を吐き咳き込む。


 「お前も万全じゃないんだ。無理せずもう寝てろ」


 「だが私は――」


 体中の気派を抜き、強制的に意識を奪う。脱力して体を横に倒すと、エイルは黙った。


 「さてと、蘇生開始だな」


 その時、1つの影が背にかかった。気派で察知はしていたが、こんなに早くとは思わなかった。ルミウのことを前にすると、集中してしまっていたから。


 「さっきぶり、メンデ。生きてたんだな」


 「お前こそな。それよりも、フィティーだ。相討ちに見えたが、上手く心臓を避けてる。瀕死なのは瀕死だが、まだ助からねーか?」


 珍しく仕事を果たしたメンデの、珍しい頼みだ。他人のことはどうでもいい主義のメンデが、出会って3週間程度の剣士を気にかけるのは。


 「心臓を避けてるんじゃなくて、相手がわざと外したんだよ。遠くからでも、死に際の精霊種の優しさが感じれた。多分だが、フィティーが琴線に触れたんだろうな」


 「そうなのか?っていやいや、助かるのかを知りたいんだ」


 「なんでそんな必死なんだよ」


 「ここまで来たなら、死人は0にしたいだろ。今からルミウも助けるなら、フィティーだって助けてくれよ」


 「はいはい。大丈夫だって。ルミウたちが生きることを求めて選ぶなら、何も問題なく解決するから」


 「ホントか?」


 「ホントだ」


 望むのなら、それは叶えてあげるのが俺の役目。これから先、苦難を乗り越える必要はないだろうが、それなりに人生を楽しんで、俺と同じ景色を見たいと思うのなら、これからも共に、という意味を込めて――。

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