最終話 ようやく、見つけた。


「ううっ……」


 呻くような声を出しながら、俺の最愛の人は再び目を開けた。

 どうにか一か八かの賭けは成功したようだ。



「兎羽……良かった」

「マコト……ッ!? あれ、ここはどこ??」


 信じられないと言わんばかりの表情をした兎羽は、俺の腕の中にいることを理解してさらに混乱している様子だ。


 まぁ、記憶がないのも無理はない。

 今の彼女にとっては何が起きたのかさえ分からないだろうからな。



「兎羽は玄間に銃で撃たれたんだ。咄嗟に俺がアイテムを使って、撃たれた傷を癒したんだよ」

「じゅ、銃に撃たれた? 私が?? ……ってなにこれ!?」

「ははは、ビックリさせてゴメン。実は――」


 そこで兎羽は自分の体にラップがグルグル巻きになっていたことに気が付いた。

 余計に慌てふためく彼女に俺はアイテムのことも含め、何が起きたのか説明してあげた。



「つまり、私はあの男に撃たれる前の姿に戻ったってこと?」

「そう。だから記憶も一緒に、一時間くらい戻っちゃっているんだ。……兎羽が体を張ってくれたおかげで、助かったよ。ありがとう」

「そっか……あはは、案外私もしぶといんだね」

「笑い事じゃない! このバカ……ッ」

「ふぇ……ッ?」


 俺は思わず、兎羽のことを強く抱き締めてしまった。


 兎羽は驚いている様子だったが、特に抵抗することはなかった。



「……もう二度とあんな真似はしないでくれ。心臓が止まると思ったんだぞ」

「ごめんなさい。マコトに迷惑かけちゃったよね……」

「いいや、そんなことはないさ。トワりんがいなくなったら、俺は生きている意味がないんだから」

「それは言い過ぎだよぉ……」

「本当だよ。だから、もう無茶なことはするんじゃない」


 俺は兎羽の頭を撫でた。

 彼女は抵抗することなく、素直に受け入れてくれた。



「(あぁ。本当に良かった。ちゃんと……生きてる)」


 それだけで俺は嬉しかった。

 こうして彼女の体温を感じられる幸せを取り戻すことができた。


 だけど、まだやるべきことがある。俺は兎羽の身体を離すと、彼女の瞳を見つめた。



「兎羽、よく聞いてくれ。今から話すことは嘘偽りのない真実だ」

「……うん」

「俺たちは玄間というサイコパス男の作ったゲームの中にいる。だけどそんなことは関係ない。どこにいようと、俺とお前は恋人同士だ。俺たちを邪魔する者はもういない。安心してくれ」


 現実世界での俺も、いずれは警察が見つけ出してくれるだろう。

 それがいつになるかは分からないが、少なくともまだ一緒にいられる時間はあるはずだ。



「ほ、ほんとに?」

「あぁ、全て終わったんだ。もう何も心配する必要はない。これからは二人で生きていこう」


 俺の言葉を聞いた兎羽は大きく目を見開き、やがて目に涙を浮かべ始めた。



「私……マコトと一緒にいてもいいんだね?」

「当たり前だろ」

「……マコトぉ」

「おっと」


 俺の名前を呼ぶなり、兎羽は勢い良く飛びついてきた。そのまま俺の胸に顔を埋めて嗚咽し始めた。


 そんな彼女を俺は強く抱きしめてあげる。俺は何度も「もう大丈夫」と言いながら、兎羽の頭を撫で続けた。


 ようやく兎羽が落ち着くと、俺は理事長室の隅に顔を向けた。



「で、お前らはいつまでそこで盗み聞きしてるつもりなんだ?」


 俺がそう声を掛けると、誰もいない空間からスゥ……と数人の男女が現れた。 一人は黒髪の少年で、あとの二人は茶髪と金髪の女子だった。



「あはは、よく分かったねマコっちゃん。あっさりバレちゃった」

「だからせつはやめようっていったのにゃ」

「あらあら。お猿さんの割に、嗅覚は良いみたいですわね?」


 三者三様というべきか。タカヒロ、莉子、宇志川はそれぞれの反応を示していた。



「はぁ。お前ら、見ていたんなら助けろよ。こっちは死ぬところだったんだぞ……」

「えっ、えっ……? な、なんであなたたちがここに!?」


 兎羽は三人を見て驚いた様子を見せた。


 コイツらのことだ。潜入任務の時に俺が莉子に渡しておいたアイテム、マジックミラースプレーで姿を消してこちらの様子を窺っていたんだろう。キッと睨みつけると、三人は慌てたように弁明し始めた。



「怒らないでほしいのにゃ。せつたちが来たときにはもう、磯崎先生がグルグル巻きになっているところだったのにゃ」

「わたくしたちはただ、空気を読んで空気になっていただけですわ」

「ごめんね。僕も助けようとは思ったんだけど……」


 唯一、タカヒロだけは申し訳なさそうに頭を下げた。


 まぁ、別に責める気はないけどな。

 俺だって、もし立場が逆なら同じようにしていただろうから。



「ともかく、これですべては終わったよ。ありがとう、マコっちゃん。これでこの鬼畜エロゲを終わらせることができる」


 タカヒロは少しだけ寂しそうに笑った。


 確かに玄間の死によって、このゲームも終わるだろう。



「タカヒロ、本当にいいのか? ゲームオーバーになったら、現実世界のお前は……」


 彼は俺よりも先にこの世界へと来ていた。玄間はタカヒロを苦しませるつもりで呼んだと言っていたが、おそらくは学生時代の兎羽に関するデータを彼から抽出する理由もあったんだろう。


 奴の性格からして、用済みとなったタカヒロは……。



「……うん。向こうの世界の僕はきっと、もう生きてはいないだろうね」

「タカヒロ……」


 俺は拳を強く握り締めた。そして、自分の無力さを嘆いた。


 だが、そんな俺を慰めるように、タカヒロは穏やかな口調で言った。



「でもいいんだ。悪夢のような世界を繰り返すことはもうないんだし。それに今回のルートでは、マコっちゃんという友達もできた。もう、悔いは無いんだよ」


 彼の笑顔には一片の曇りもなかった。


 そこには後悔なんて微塵もないように見えた。


「玄間君がいなくなった今、どのタイミングでエンディングになるかは僕にも分からない。だけど心配しないで。ここでの一生は、現実世界における一瞬だから」


 たしかに俺がこの世界へ来るまでに、タカヒロはいろんなルートを何周もさせられていたという事実がある。だから言ってることはたしかだろう。


 俺も兎羽も何も言わず、ただ黙って耳を傾けていた。


 すると、タカヒロは再び口を開いた。



「だから、さ。マコっちゃんが元の世界に戻るまで、ここで一緒に暮らそうよ」

「……え?」

「トワちゃんや莉子ちゃんも。宇志川さんも、みーんなで楽しく学校生活を送るんだ。ね、いいでしょ?」


 その表情からは、どこか吹っ切れた感じがあった。

 さっきまでの弱々しい姿はどこにもなく、いつもの明るい調子に戻っていた。

 いや、あるいはこれが本来の彼なのか。



「そいつは名案なのにゃ!」

「ふん。雄は余計ですが……ま、悪くはないですわ」

「私もさんせーい! ね、マコトも良いでしょ?」


 兎羽の言葉に俺は小さく息を吐き、首を縦に振った。


 もちろん、俺にも断る理由はなかった。



「だけど俺は兎羽一筋だからな? お前ら、俺たちの邪魔をするんじゃないぞ!!」


 俺の言葉に、全員が笑い声を上げた。


 こうして俺たちは、新たなスタートラインに立ったのだった。






『柳嶋 莉子の好感度が上がりました。(好感度:140%)実績解除:性行為が可能になりました』


『宇志川 シャーロットの好感度が上がりました。(好感度:140%)実績解除:性行為が可能になりました』


『タカヒロの好感度が上がりました。(好感度:140%)実績解除:性行為が可能になりました』



『すべてのキャラクターの好感度が最大値となりました。隠し実績解除:ハッピーエンドのルートへと入りました』





「だから俺は兎羽一筋だっつってんだろ!!」


 ~Happy(?)End~






――――――――

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!!

これにてエロゲ転生は完結となります。


たくさんの方にお手に取っていただけて、本当に嬉しかったです!


今後も皆様が面白いと思っていただけるような作品を作れるよう努力してまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。


それでは、次回作でまたお会いしましょう!


⇒新作投稿しました!!(早漏ムーブですみません)

§アカシックワールドオンライン§ 強制敗北バトル中に『握ったモノを支配できるユニークスキル』でラスボスの装備を奪ったら、俺だけ別のシナリオが始まったんですけど!?

https://kakuyomu.jp/works/16817330651955625695/episodes/16817330651955967307


よろしくお願いいたします!!

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鬼畜なエロゲ世界にモブ転生!?ヒロインは暗殺者らしいので、全員寝取って生き残ろうと思います。 ぽんぽこ@書籍発売中!! @tanuki_no_hara

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