《アカシックワールドオンライン》 ユニークスキルで最強ボスの装備を奪ったら、チート級の美少女キャラが仲間になりました。
ぽんぽこ
Chapter1 強制敗北イベント編
Chapter1-1 希望を掴むために
仮想空間でも死んだら走馬燈って見れるんだろうか。
夜空を真っ赤に染めて燃えていく村を眺めながら、俺はそんなことをぼんやりと考えていた。
「これじゃあ、もう助からないか……」
視線を
そこに映っていたのは、千切れて地面に転がる自分の両脚だった。
つまりこうして喋っているのは、ほぼ上半身だけになった俺ということなのだが……。
「はぁ、どうしてこんなことに……」
痛みも、息苦しさもない。俺に残された時間はもう僅かだろう。
あぁ、だけど。死ぬことへの恐怖は、不思議となかった。
死ぬ運命なのは俺だけじゃないから、かな……?
すでに物言わぬ骸へと成り果てた人たちが、村のあちこちに転がっている。そしてその数は今もなお、増え続けているところだ。
「ははっ、聞いていた以上にヤッベェなこの
村中から耳をつんざくほどの爆発音と悲鳴が聞こえてくる。彼らがゲーム世界の住人だと分かっていても、世話になった人たちの断末魔というのはどうしても心にクる。
「そんでもって敵の親玉さんは、このまま見逃してはくれないみたいだし……」
この悲劇の元凶である、真っ黒い翼の生えた男がふわふわと浮きながらこちらへやってきた。アイツは魔王の配下。この世界では魔族と呼ばれる種族らしい。
俺の姿が視界に入ったのか、その男は目をスっと見開き、そして
――あぁ、俺はコイツに殺されるのか。
逃れ得ぬ死の予感と共に、このゲームのキャッチコピーが俺の脳裏をよぎる。
『死んだら、もう取り戻せない』
『すべては“死”から物語は始まる』
「はは、何が『他の死にゲーとは一線を画すゲーム』だよ。ふざけやがって……」
しかしそれが紛れもない事実だったということを、俺は今まさに実感していた。
◇
のちにその名を世に轟かせることになったゲーム、アカシックワールドオンライン。
通称AWOが開発されることになったのは、SNS上に呟かれた何気ない一言が発端だった。
「どうせゲームなんてすぐに
それはチラシの裏に走り書いた程度の、ちょっとした誰かの愚痴だった。
だがネット上の海に流されたその発言は、意図せずして世界中のゲーム会社までもを巻き込む大炎上の火種となってしまった。
「それな過ぎる」
「死にゲーなんて、何回かやって覚えりゃクリアできるしな」
プロアマ問わず、『死にゲーはもはやヌルゲー』という
それがひとりの発言をキッカケとして、一気に爆発してしまったのである。
これに対し、ゲーム会社が反論した。
『いや、それがゲームなんだから仕方なくない?(笑)(笑)』
当然というべきか。ただの炎上発言が大きな火災旋風にまで発展し、ゲーム界隈は荒れに荒れた。お互いの主張合戦が始まり、ゲーム会社とプレイヤーがSNS上で罵り合う事態へとなってしまった。
これはゲーム界隈にとって、かなり良くない傾向だった。こんな危ない状況で下手な新規ゲームを売りだせば、間違いなく総叩きにされる。
事実、尻込みしたゲーム会社が過去作のリメイクを売るだけの、虚無な期間が生まれてしまっていた。
このままではゲーム界隈自体が衰退してしまうのでは……そんな危惧もされ始めた頃。とあるVRゲーム会社がひとつの声明を出した。
「じゃ、簡単には
国内のゲーマーたちは当然、この声明に対して冷ややかな反応を示した。
「いや、死ねないってなに(笑)」
「どうせ、セーブ機能の制限でも掛けたとかでしょ?」
当然のごとく、再びSNSは荒れた。
どんなシステムを積んだにせよ、最終的にはワンパターンな死に覚えゲーになるに違いない。皆が口を揃えてそう言った。
そうしてゲーム氷河期と揶揄される中で発表されたソフトこそが、『アカシックワールドオンライン』。近年開発されたばかりのフルダイブ型バーチャルリアリティーを使った最新ゲームだった。
ゲームのストーリーは、魔王の支配から世界を救うという王道のファンタジー。
戦闘は多くのゲーマーが慣れ親しんでいたスキル性のシステムとし、加えて半自動アシストで快適なアクションが楽しめる仕様となっていた。
しかしこれだけの事前情報では、いったい何が他のゲームと違うのかが分からなかった。ゲーム会社の意図が読めずに困惑する人もいれば、期待外れだと憤慨する者もいた。
だが続報が流れると、彼らはあっさりと手のひらを返した。
「プレイヤーが一度死ぬと『セーブポイントに戻る』のではなく、『28年後の世界に飛ばされる』というシステムを搭載しました」
これこそが運営の『簡単には死ねないゲーム』に対する答えだった。
死んだキャラには二度と会えない。まさに一期一会。
しかし運営の発表は、これだけにはとどまらなかった。
ゲーム内で用意したマルチ要素、『バベルの塔』ダンジョン。
これを最初に踏破したプレイヤーに、クリア報酬として賞金10億円を用意したのだ。さらには豪華な副賞つき。
結果、2000本という僅かな初版の枠に大量の予約希望者が殺到することとなった。
厳正な抽選が行われ、他のVRゲームソフトの倍の価格である20万円にもかかわらず即日完売。同日に第二陣の予約も開始された。
結局俺がAWOを手に入れることができたのは、第三陣の発売になってからのことだった。
◇
――そして冒頭に至る。
賞金をゲットしてやるぜと意気込み、プレイを初めて僅か1時間でこの有り様である。
『魔王を討伐するため、神はプレイヤーを勇者候補としてこの世界に遣わせた』
そんな使命を預かったばかりの俺が、最初の村で準備を整えていたところでの襲撃だった。
「たっ、たのむ!! やめてくれ……」
今、武器屋の物陰に隠れていた男の村人が魔族の一人に見つかってしまった。
あの人はいわゆるチュートリアルとして、冒険者ギルドでスキルと探索のイロハを俺に教えてくれた、この村一番のベテラン冒険者だ。
俺に披露してくれた鋭い剣戟は繰り出すことすら叶わず、彼は猪頭の巨漢が持つハンマーで頭から容赦なく叩き潰されてしまった。
「…………」
別の場所では、少女がカバほどの大きさもある犬のモンスターに組み敷かれている。彼女は道具屋の店員で、俺に回復薬のポーションをオマケしてくれた優しい子だった。そんな彼女は口を半開きにしたまま、生気のない濁った瞳をこちらへ向けていた。
田舎の平和だった村が、あっという間に地獄へ変わっちまった。
いくらR-18G、エログロありの
そんなことを心の中で吐いているうちに、この惨状を作り出したモンスターたちの親玉が目の前へやってきていた。
「……貴様が神が送り込んだとかいう、勇者候補か」
角の生えた青白い大男は、燃え盛る炎のように深紅色に輝く大剣を俺に向けた。
――クソが。悪魔みたいな顔しているくせに、武器だけは立派なモン持ってんなコイツ。
「どうだ、死ぬ前に魔王様の配下として生まれ変わる気はないか?」
「はは、なんだそれ。さすがにベタ過ぎんだろうが……」
いくらゲームだからといって、ここで敵に寝返る選択肢はない。絶対にお断りだという意思を込めて、俺は魔王の部下らしき悪魔を睨みつけた。
――と、そこで視界の端にとある人物が見えた。
「あれは定食屋のおばちゃん……頼む、逃げてくれ!!」
だがおばちゃんの耳には俺の声は届かず、火に包まれた店の前でペタンとへたり込んでしまっている。あの定食屋は『VRでの味覚ってどんなもん?』と思った俺が、この世界で一番最初に入った店だった。
若者から年寄りまで、多くの客の笑い声に包まれている繁盛店。そこで食べた生姜焼き定食は何故か母さんの味がして、不覚にも俺は泣きそうになった。
そんな素敵な店が今、轟々と音を立てて燃えている。
「アタシの店が……」
不味い。おばちゃんのすぐそばまで、ハンマーを持った猪頭が近付いてきている。だけどおばちゃんは奴に気が付いていない。
気を付けていってらっしゃいと笑顔で俺を送り出してくれた、あの優しいおばちゃんがこのままでは――。
「ふっ、情けない勇者サマだな。まるで生まれたての小鹿のように震えているではないか。勇猛だった先代の勇者とは似ても似つかぬ」
「……だまれ」
「ハハハ! 自分の身さえ守れぬ雑魚勇者が粋がるなよ!!」
うるせぇ。てめぇに言われなくたって、そんなことは百も承知なんだよ。
「ん、腕だけで起き上がる気か? だがそんな身体でいったい何ができる」
「生憎と、俺は死ぬほど負けず嫌いなんでな……」
たとえこれがゲームであろうと、目の前で人が殺されるのなんてもう見たくない。自分の中の何かが、このままタダで殺されてたまるかと
それに今の俺には、ゲームのチュートリアルで手に入れた
「お望みとあらばなってやるよ、その偉大な勇者とやらに。たとえ今が死ぬ運命だとしても、俺は最後の瞬間まであきらめねぇぞ!!」
――ユニークスキル、“ひとつかみの栄光”発動!!
▷NEXT Chapter1-2 強制敗北イベント
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