第171話 サードの目的

「で? なんだ? そのフォースを生かして連れてきたってわけか? あ? よし、いいだろう。アタシが腹にパンチしてやる」



 と、キカは言った。


 暴力を振るわないと生きていけない人種らしい。


 俺が彼女のヘッドロックで気を失い、マヌエラのところに送られたのがもう随分昔のことのように思える。


 つい最近のことだけど。


 その日、俺はデルヴィン――魔法学園がある街に戻ってきていた。


 もちろんサードについて伝えるためにだが、キカはフォースの方が気に入ったらしい。


 フォースは椅子に縛られたまま怯えているけれど。



「ふええ! 怖いです怖いです! この人怖いです! 助けてくださいぃ! 何でも話すので殴らないでください!」

「いつアタシがお前を拷問するって言った? あ? アタシがお前を殴るのは、殴りたいから殴るんだ」

「ひええええ! いじめっ子の思考!」



 いいコンビだった。

 需要と供給が成り立っている。


 ……成り立ってないか。


 キカは新しいおもちゃを手に入れてウハウハだったけれど、俺はさすがに一度止めた。



「キカ、ちょっと待て」

「さすがあたしの夫! 助けて!」

「殴るなら拷問しろ」

「なんてこと言うんですか!!」

「ああ、間違った。夫とか言うからつい。話すって言ってるんだから話聞いたら?」

「よし解った。話を聞いてやろう。それから爪を剥ぐ」

「もっと酷くなったぁ!」



 キカはケタケタと笑って「コイツおもしれえな」とご満悦だった。


 腐っても『七賢人』だぞ。

 俺もいままで忘れてたけど。


 キカはフォースのほっぺたをツンツンつつきながら、



「で、サードはファーストとセカンドを殺して、スライムみたいに分裂したって話だけどよ、アイツは何がしてぇんだ? 『七賢人』は世界からサーバントを消して、生まれながらに魔法使える俺たちスゲーって集団じゃなかったのかよ」

「『七賢人』はそうでしたぁ。でもサードがそれを乗っ取って自分でやりたい放題やってるんですぅ。というか、ツンツンしないでくださいぃ!」

「じゃあ、もう『七賢人』じゃねえってことか。サーバントが消える心配もねえってことだな」

「うううう。それは違います」

「あ? 反論すんのかお前。殴るぞ」

「ひええぇ!」



 そんなことで殴るな。

 話できなくなるだろうが。


 俺はキカを止めて、フォースに先を促した。

 何で俺がこんな役目を……。



「サ、サードは永遠の命を手に入れようとしてるんですぅ。だから身体を七つに分割したんですぅ。でも、まだ完成してなくて、それには莫大な魔力量が必要なんですぅ」

「その『ですぅ』っての止めろ。いい歳したババアが」

「ババアって言わないでください! こんなに可愛いのに!」

「引きちぎるぞ」

「どこを!?」



 話が進まなくて俺は呆れて言う。



「で、それがどうしてサーバントを消すのに繋がるんだ? 魔力量が必要なのはわかったけど、なら、ノルデアみたいに島ごと空を浮かべられるくらいの魔石とか用意すればいいだろ? サーバントは関係ない」

「そ、そそそ、それじゃ足りないです。サードは全人類から魔力を奪おうとしてるんです。『箱』を使えばそれも可能です。その魔力を使って自分の身体を保とうとしてるので、サーバントで魔力を使われるのは困るんですぅ」

「つまりなんだ、サードは『俺がお前らの魔力を使うんだから、お前ら魔力を使うな』って理屈でサーバントを消そうとしてるってことか?」

「そ……そういうことですぅ」

「横暴だな」

「横暴ですよ! しかも、あの人マザコンなんです! 『一生ルベドを愛するために永遠の命を手に入れる』って言ってました。気持ち悪いです!」



 俺はルベド――母さんと念話をした時に追いかけてきた少年姿のサードを思い出した。


 あれは母親を奪われるのを恐れたから走ってきたのかな。


 何というか、マザコンというと、ライリーを思い出してしまう。そのライリーも居場所は今をもってわからない――カタリナがポンコツだから。


 ボルドリーから一度デルヴィンにやってきたのも捜索範囲を広げる目的があったからだった。


 まったく。アイツもどこにいるんだか。


 俺がそう思っていると、キカはフォースのほっぺたを引っ張って、



「ほんとかなぁ。お前の言うこと信じらんねぇよなぁ」

「信じてくださいぃ! ほんとですぅ!」

「じゃあよお、お前は何でサードのそばにいたんだ? てか、お前、ほんとにサードが裏切るのを解ってなかったのか? それにしてはアイツの計画について随分詳しいじゃねえか」

「うううう! 脅されたんですぅ! あたしは可哀想な子なんですぅ! もし協力したらお前の分の魔力はとらないって言われて、サーバントも好きに使っていいって言われて、仕方なく『七賢人』をやってたんですぅ。仕方なくですよ! 仕方なく!」

「サーバントに釣られただけじゃねえか」

「…………」



 フォースは黙った。

 図星らしかった。



「で、ででで、でも、もうあたしは『七賢人』じゃありません! もうあんなマザコンうんざりです! あたしに仕事させようとするんですよ! 『箱』をもっとたくさん埋めてこいって言うんですよ!? あんなに頑張ったのに――痛い、痛い! ほっぺたつねらないでくださいぃ!」



 キカが思い切りほっぺたをつねっているけれど俺はもう止めない。


 仕事嫌がる上に俺たちに情報を流すとかマジでどうなってんだこの女。


 とは言えそのおかげで大体話は聞けたのも事実。


 そろそろいいかなと、俺はまたカタリナを使ってライリーを探すために立ち上がると、キカが、



「そういえばヴィネットの奴がお前が来たら呼べって言ってたな。アタシに指図するとは良い度胸だよな」

「まだ言ってんのかお前は」



 この横暴さで、トモアキからの指示をかなり先延ばしにした前科があるからなこの人。



「今回は先延ばしにしなかったんだな」

「ああ、重要なことだからな」

「まるでトモアキの言うことは重要じゃないみたいに言うな」

「いいから行ってこい。マジで重要なことが解ったって話だからな。アタシはその間コイツで遊ぶから」



 キカはフォースを指さして言った。

 


「いやあああああ! 助けてえええええ! あたしの夫おおおおおおおおお!」



 俺はフォースを無視してその場を後にした。

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武器に契約破棄されたら健康になったので、幸福を目指して生きることにした【web版】 嵐山 紙切 @arashiyama456

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