09 - 火曜日は校舎で目覚め

「――クロさん……?」


 その時の私は恐らく加速装置だかクロックアップだかアクセルモードだかが起動していたに違いない。

 後に千降さんが語ったところによると「どたばたと足音がしたと思ったら神隠しのように二人とも姿が消えていた」そうだ。一陣の風、とはいかないのが人の身の限界であろうか。

 それはともかく。

 私は何か考える前に無意識に彼を引っ張って市役所の外に走り出していたのだった。真理子、怖い娘………(( ;゚Д゚))) 


 ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ † ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ †


 何処をどう走ったかも判らず、取り敢えず人気ひとけの無い所に辿り着くや、私はへたり込んでぜーぜーと肩を揺らす。

 隣でこれは息切れと言うよりは突然のことに困惑して座り込んでいる彼が口を開く。


「クロさん、急にどうし――」

「シャーラーップ!!」

「――はぃ?」

「私はクロさんに非ず、マイ・ネーム・イズ・菱美ひしみ真理子まりこ。本日よりK-市の地域おこし協力隊員として赴任致しました、OK?」

「いや、だってさっき自分の著者ページ……」

「誰しも他人ひとに明かしたくない秘密の一つや二つはあるのdeath!! してやお年頃のレディに於いてをや!!」

「それって知られてマズいようなものなんか? むしろ発信手段が増える分、有利なんじゃ――」

「あなた、あれで即、私のことが判ったってことは、他の小説も読んだことあるんでしょう!?」

「あぁ、まぁ、ざっと一通りは……」

 最後、ちょっと言葉を濁す。んん? それはどういう意味かなぁ~?

「なら、『W×R』は兎も角、『L×R』の方もご存じですよ、ね!?」


 ちょっと脅迫気味になってしまったが、これはさっきの尋問で確信があったからだ。

 ちなみに『L×R』は『W×R』の姉妹サイトで、但しこちらは一般向け縛りのある『W×R』とは違い全年齢OKのBLと百合系メインの女性ユーザーが多いサイト。もっとガチな方面だと運営母体が異なる『セレナード』なんてもあるが、そっちは流石にガチ過ぎて私は手を出していない。


 話が逸れた。改めて彼に向き直り、

「なら解るでしょう!! 『W×R』はまだしも、『L×R』の方がバレちゃったら、それ公務員としてどうよ、っていうか、流石に顔見知りにそっちの性癖がバレるのは流石に……ちょっと……」

 言いかけて語尾がトーンダウンする。そ、そういや、この人には顔バレしてるんだわ……アカン、手遅れだー!!

 またしても独りわちゃわちゃする破目に陥った私を余所に、笑いを堪える様子の彼。ニャロメ、人の気も知らんと……(*`Д´*)=З


「――ちょっと、話、聞いてました!? そういう訳で――(;゚〇゚)Σ」

 まさか……!!

 とっても嫌な予感に苛まれる。

 これってもしや「それじゃぁ黙っててやる代償に……グフフフフ(ゲスい笑い)」的な要求が――!? 真理子ちゃん、貞操のピーンチ!!……まぁ、幸か不幸か操を立てる相手なんて居やしませんけどねっ!!(開き直り)

 相変わらず肩を震わせている彼。やだ、ちょっと……!!


「ぶわーっはっはっは!!」


 あ、噴いた。


「その独り言の癖は相変わらずやなぁ。あーっはっは!! そんなに信用無いか、俺!?」

「――あ、あのー……また、出てました? ……独り言」

「そりゃもぅはっきりとw」

「うぅ……重ね重ね失礼を……」

「とは言え流石にここまで信用無いっちゅうのも傷付くなぁ(´・ω・`)」

「あぁー!! だからそこは御免なさいって!!」

本当にほんのこて反省しとるんかね?」

「してますしてます!! もうホントーに心の底から!!」

「信用してええんかなぁ?」

「お願いだから信じてー!!」


 ……あれ!? なんか立場逆転してない!?


「ま、ええか。んじゃここはこれでお手打ち、恨みっこ無ぁしぃよ、っと♪」


 私の両手で「せっせっせ~」とやってから彼は慌てて手を離し、含羞はにかむように眼を逸らすと、言った。


「そもそも、自分の推し書き手さんを泣かすような真似が出来るもんかい。それこそ他の読者諸賢に恨まれちまうわな」

「へぇ~、えへへ、なんか面と向かって言われると……うぇへへ……」

 しまった、最後変な声出たー!!

 あ、そういや肝心なことを忘れてた。


「あのー、ところで、昨日はお世話になりました……で、お名前、聴けてなかったなーって」

「――あ、じゃった。こりゃ失礼。さっき昭次さ――霧山課長が言っとったけど、俺は地域おこし隊の非公式の外部協力員、要はあの人に個人的に扱き使われとるだけなんやけど――」

「個人的に?」

 一瞬脳内カプを作りかけたのを慌てて振り払う。

「あの人が親父の古い知り合いで、俺も子供の頃から以下同文」

「あー……親戚とか近所のおじちゃんみたいな感じですね……」

「それな。ま、そういう訳で実は昨日のアレもその関係の資料集め」

「やっぱりそうですか。重ね重ね……」

「ま、逆に考えりゃ、直接見せられたからむしろ手間が省けたかも知れんな」

「そう言って頂けると助かります……(´・ω・`)」

「そんな訳で、今後ともお見知りおきを、クロさん?」

「だから庁舎内じゃそれ禁止ー!!」


 一瞬の睨めっこの後、同時に吹き出した私たちは暫く笑いが止まらなかった。


 ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ † ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ †


 その後、携帯のアドレスを交換して、結局は彼の車でオリエンテーリング兼用の宿泊施設まで送って貰った。

 その宿泊記施設だが……なんと廃校になった小学校跡をそっくり再利用リユースしており、外観はまんまレトロな小学校である。

 すげー、オラ、ワクワクすっぞ!! しかも校庭じゃテント張ってる家族とかも何組かあって、日常と非日常のカオス感パネェ。……なんか興奮の余り言葉が変だな私w

 逸る心を宥めつつ、管理者の蔵田さんから説明を受け、ロケハンの計画をざっくり立てる。

 その日はそれで日が暮れ、眠りに就いた。


 ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ † ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ †


 翌朝。

 日の出と共にぱっちりと目が覚める。

 流石に多少の疲れがあったのか、枕が変わっても爆睡できたらしい。

 窓から見える朝日が海に映えて眩しい。おっと、早速写真写真っと。


 今日から本格的に私の"地域おこし協力隊員"としての仕事が始まる。

 これがドラマとかなら海に向かって叫びたいシーンだが、初手から痛い人認定されるのもアカンので自重しておく。

 ――ここ、動画だけ撮ってあとでアフレコするかw

 

 スマホのアドレスをスクロールして、昨日追加したばかりの名前の所で指が止まる。

 『大隅おおすみ弾次郎だんじろう

 えらく時代掛かった感じの名前に、あの人を食ったような顔が重なり、取り落としそうになったスマホを慌てて握り締めた。


 ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ † ¶ ♂ ☆ § ◇ ♀ †


『黒騎士さんの近況報告:20**年12月15日(16日修正)


 ドタバタだったけど、無事引っ越し完了なう。

 新天地で心機一転、頑張りますっ!!

 とーっても良い所なので、いずれ作中でもネタにしようと画策中(ΦωΦ)フフフ…』

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Sentimental Quest - 傷心聖女の地域興しクェスト - ひとえあきら @HitoeAkira

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