経験ある者には、この物語は乾いた感傷を疼かせる何かがあるだろう

本当に、ありふれた何気ない日常を描いているのに
この物語の描写には深さと厚みが備わっている

それは
人によっては景色の美しさであり
ある人にとっては、懐かしき旅情であり
また別な人には、あっという間に過ぎ去った輝かしい日々でもあり──

そして或いは、
こんな恋に胸を焦がした、
遠い記憶の中の自分との再会かもしれない

もう忘れているかもしれないが
かつて自分も、こんな風に一瞬、一時を
全力で生きていたのだろう

きっと思い出すだろう

たとえそれが道ならぬ想いであろうとも
そこに確かに自分と誰かが同じ刻を生きていたのだと──

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