第1部最終話

「テメェは必ず俺様以外に使い物にならねぇ様にしてやらぁ、覚えていやが……!!!」


 と、言われたところであたしは腕組みをし、右足を軽く上げて履いているローファーを馬鹿野郎の後方に飛ばして睨みつける。


 あたしのローファーを目だけで追った馬鹿野郎があたしに視線を戻し、「何のつもりだぁ」と言って来たからあたしは答えた。ただ、その時にちょっとだけおばぁちゃんの事を思い出す。


 あたしのおばぁちゃんは武術家で『真・神之原流体式術』の総師範なんだけど、その昔に体式術の稽古を妹と付けてもらっている時に言われていた事がある。


「いいかい、神之原家は他の武闘家や魔法使いよりも『気』のコントロールの仕方に長けているんだよ。そのおかげで神之原家は世界でも常にトップクラスの実力を保ててると言っても過言じゃないんだ。そしてこれから教える『気』は、『悪魔』以外の相手に飛ばすのは禁止だ。魔力の弱い人や体力が弱っている人に向けるのは絶対にやってはいけないよ、下手をすれば命を落としかねないからね。ただし、本当に聞き分けの無い相手や、言っても無駄な人間ならば、かなり手加減をして一度くらいならいいかもしれないね」


 と、最後には甘やかしてくれるおばぁちゃんが、あたしも妹の由乃も大好きだ。



「何をボーッとしてんだよ、ポチ。さっさと拾って持ってきな」



 あたしの言葉に馬鹿野郎は目を見開き、徐々に目尻が吊り上がって眉間に深く皺を刻む。


 鼻の穴を開きながら口を広げて声を出そうとした瞬間に、あたしはおばぁちゃんに禁じられて……


 1度だけ放っていいと言われた『気』を……


 あの時に教えてもらったを、かなり手加減をしてポチにぶち込んだ。


 !!!!!!!!!!!!!!


 その瞬間、あたしの真横にいる真中や、ポチの傍に立つ仮屋島君も有坂君もバッと一歩下がって驚愕……と言うより、恐怖の面持ちで身構える。


 そして目の前のポチは、恐怖の表情で口をあんぐり開けたまま腰からヘナヘナっと地面に崩れ落ちた。


 だらしなくヨダレを垂らしながらガタガタと震えだして、あたしを見上げている。


 よく見れば有坂君の後に隠れていた男子生徒が気を失ったのか、その場に崩れ落ちていた。


 あたしはポチを見下したまま目尻をギンッと吊り上げて低く声を出す。


「早く持ってこい……ポチ」


 あたしの声を聞いたポチが腰を崩したまま、「は……はひっ!」と言って四つん這いのままローファーを取りに行く。


 そして震える右手で拾い上げるも立ち上がれず、そのままの状態で戻って来てあたしの目の前にローファーを置く。そしてズルズルと後ずさっていった。


 置かれたローファーに右足を通し、そして下がり行くポチに一歩詰め寄って言い放った。


「今度また女子を馬鹿にした時は……二度と立てないようにしてやる……分かった? ポチ……」


 そう凄んでやると、後ずさっていたポチがいよいよ大講堂の入口の扉に背をつけ「は……は……はひぃ……はひぃ」と言いながら、何度もカクカクと頷く。


 その様子を見てあたしは姿勢を戻し、一瞥して短く言い放ってやる。


「早く行けっ!」


 その言葉を聞いてポチは再びカクカクと頷きながらも立ち上がれない。そんなポチの傍にふたりの男子生徒が移動して立ち上がらせ、左側から支える仮屋島君が言ってくる。


「神之原さん……やっぱり君も『神之原』なんだね。僕は少し……いや、かなり君を甘く見ていたようだ。次に会う時は……負けないよ」


 と言う顔には、今朝方初めて会ってから今まで崩さなかった笑顔は無い。


 右側で支える有坂君はもとより無口だったけど額に汗をかいてあたしを見つめていて、よく見るとポチを支える反対側に気を失った男子生徒を小脇に抱えていた。


 ふたりはそのままポチを引きずるように歩き出し、あたしの横を通り抜ける時のポチの顔は完全に怯えているようだ。


 左側でポチを支える仮屋島君も緊張の面持ちを崩さずにバスへ向かって行った。


 あたしはバスに向かう男子達を眺めている。と、「ふぅ……」と言うため息が聞こえそちらに顔を向ける。すると、真中が右手の甲で汗を拭いながら言ってくる。


「全く……お前という奴は本当に末恐ろしいな。まさかこれ程の『気』を浴びせられるとは思わなかったぞ。無論、剛堂に向けてのものだったのだろうが、巻き添えを食らうこちらの身にもなってくれ。幸い志乃の後ろの生徒達には影響がなかったみたいだが、正直心臓の鼓動が止まるのではないかと思う程、身の危険を感じてしまったではないか。何だったのだ、今のは?」


 いやぁ、ちょっとムカついて周りが見えなかった……


 と言うより真中なら耐えられるだろうと思ってたけど、それでも悪いことしちゃったかなって思い、あたしはネタばらしをした。


「『殺気』だよ。まぁすご〜〜〜く手加減はしたんだけどね」


 その言葉を聞き、真中は目を丸くしながら言ってきた。


「あれが『殺気』だと……しかも手加減した……? 私もそれ程場数を踏んだ訳では無いが、これ程の『殺気』を放つ者を見たことも無ければ聞いたことも無い。なのにあれでも手加減していたとは……」


 そう言って真中は言葉を止め、目を瞑って気持ちを落ち着かせてから言ってくる。


「どうやら、私はとんでもない所に来て、とんでもない化け物と対峙しなければならないようだな」


 と言って軽く脱力し、そして直ぐに胸を張って声を出した。


「この学園の入学者名簿に『神之原』の名前を見つけた時からトップに経つのは困難だろうと覚悟はしていたが、どうやらその認識も間違っていたようだ。この乃木真中、命をかけて必ずお前を超えてみせる。覚悟をしておけよ、神之原志乃」


 そんな真中の決意をこもった眼差しに、「上等」と言ってあたし達は微笑みつつも闘志を高めていった。


 そのあたし達の後ろでハヅキチを筆頭に、男子生徒専用のバスの方に遠のいていくポチ達に罵声を浴びせている。


「2度とその面ぁ見せんなやボケェ!!! 龍ぅっ! そいつにしっかり首輪つけときやぁ!!!」


 ついでに横のふたりにも首輪付けとけば? っと呟くと、真中が呆れたように言ってきた。


「志乃、仮屋島と有坂を剛堂と一緒くたにしてやるな。あのふたりは正確にお前を超えなければならない強敵と認識したのだ。それ相応の態度を示してやらねば失礼だぞ」


 へいへい了解分かりました善処しまぁす!


 あんま興味の無いことは覚えるのが大変なんだけどねぇと呟き、ようやくバスの列に消えていった男連中から視線を戻す。


 残ってた女子生徒達と一緒に移動を再開し、程なくあたし達は女子生徒専用のバスにたどり着く。


 割り振られたバスにあたしが乗り込もうとすると、バスの車体に背中を預けていた響希に呼び止められる。


「ふんっ! どうやら化けの皮を剥いだようだな。しかしまだ本気ではなかったのだろう? いつか私がお前の本性を晒してやる! 楽しみにしているんだな」


 すると、あたしと同じバスに乗る真中が横に来て言った。


「そうはさせないぞ響希、志乃の本性を露わにするのは私の役目だ。これだけはお前であろうと譲る気はサラサラない」


「ならば貴様から潰すまでだ」と言い放って響希はあたし達と違うバスに向かって行き、あたし達もバスに乗り込んだ。


 こうして本年度『私立アリシア魔法学園』の入学者の女子生徒を乗せた6台のバスはゆっくりと車体を動かし、これより10分先の女子本校舎と寮のある場所に移動して行くのであった。



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アルテミットGeweL〜究極を目指す最強少女の成長期!〜 葉月いつ日 @maoh29

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