第6話 いざヘルボンへ

翌朝、僕は慣れない硬いマットで身体が痛くなり目を覚ました。

昨夜はルークさんの部屋に集まり雑談した後、それぞれの部屋に戻って寝たのだ。

今日は朝一番にカナートの街を出てヘルボンを目指す予定になっている。

僕は支度を整えて食堂に行く。

朝食は黒パンに豆のスープ、干し肉の薄切りが付いてきた。

僕はそれを黙々と食べる。

食事を終え、ロビーで待っているとルークさん達がやって来た。


「待たせたなパウルス。早速出発するぞ。」


「はい。」


僕は短く答え荷物を持って外に出る。

エマさんは寝癖の付いた髪をポリポリ掻きながらアクビをしていた。

綺麗な顔なのに行動と言動が残念な人だな。

カルスさんは艶やかな黒髪を綺麗に整えて黙々と歩いている。

何か隙の無い人って感じがするなぁ。


「ここから15時間くらい歩いたところに所に小さな村がある。今日はその村を目指し日が沈む前にそこに着くように歩こう。」


ルークさんが今後の予定を説明する。


「はい。」


僕は返事をすると先頭を歩くルークさんについて歩き出した。


「ねえ、坊や。ずっと気になってたんだけど坊やの顔どこかで見覚えある気がするのよね。どこで会ったかしら?」


後ろを歩いていたエマさんに突然声を掛けられた。


「えっと……初めて会うと思うんですけど……」


僕は困った表情で答える。


「そう?うーん……なんか見たこと有るのよねぇ……」


僕は何度も父上と兄上と並んで凱旋パレードに出ていて、その時にでも見かけたんだろうか……。


「まあ良いわ。ねえねえ坊やってまだ童○?」


「はい?!」


いきなり何を言い出すんだこの人?!


「その反応じゃまだみたいね。お姉さんがやさし~く教えてあげようか?」


「結構です!!」


僕は顔を真っ赤にして断った。


「あら?恥ずかしがっちゃって可愛いじゃない。ウフッ」


「エマ、あまりからかうんじゃないよ。」


「だってぇ~」


ルークさんに注意されてもまだニヤけている。


「シッ!静かに…あの茂みから複数の気配を感じます……。モンスターかもしれません。警戒して下さい。」


カルスさんが注意を促す。

僕は慌てて腰に差した剣の柄に手をかけた。

次の瞬間茂みの陰から大きな狼型の魔獣が現れた。


『ガアァ!!』


狼型魔獣は鋭い牙を見せながら飛び掛かってくる。

僕は咄嵯に鞘から抜き放ち迎撃態勢に入る。

カルスさんが素早く短剣を投擲し狼型魔獣の眉間に突き刺す。

『ギャン!』と悲鳴を上げ倒れる。


「メドウウルフだ!こいつらは群れで行動している!まだいるぞ!」


ルークさんの声に周囲を見回す。

確かに他の方向からも現れた。

全部で2匹!


「雷よ、敵を滅せよ」


《雷撃・ライトニングボルト》


僕が呪文を唱えると指先から稲妻が走り、向かってくる2匹の内1匹を感電させた。

『キャイン』と叫び地面に転がる。

もう一匹がエマさんに飛び掛かる。

エマさんを庇うようにルークさんが立ち塞がり盾で受け流す。

そして流れるような動きでロングソードを振り下ろした。

鈍い音と共に魔獣の身体が二つに裂けた。


「ナイスアシストだったぜ!」


「ありがとうございます。」


ルークさんが笑顔でサムズアップしてきたので僕も同じ仕草をした。


「坊や、やるじゃん!御褒美にお姉さんがキスをしてあげる。」


エマさんが僕に抱きついて来た。

エマさんの大きな胸で僕の顔が埋もれる。


「ちょっ!エマさ…むぐっ」


柔らかい感触と甘い香りに包まれて僕は頭がボーっとしてしまう。


「エマ!離れなさい。」


カルスさんが引き剥がしてくれた。


「ちょっとぉ~いいところなんだから邪魔しないでよ。」


「油断大敵です。それに、こんなところで発情してる場合ですか。」


「はつじょ……?なにそれ?」


僕は公爵家では耳にすることのない単語に戸惑う。


「……なんでもありません。」


「?」


カルスさんが呆れたようにため息をつく。


「ほら、行くぞ!」


ルークさんが促すと、皆が歩き出したので僕は慌てて後を追った。

◆◆◆◆

それからは特に問題も無く進み、日も傾きかけた頃、ようやく小さな村が見えてきた。

村の入り口には村の自警団の青年が立っていた。


「こんにちは。冒険者パーティーの方々ですね?お疲れ様です。」


ルークさん達が挨拶をする。


「この村に宿屋はあるかい?それと風呂があれば嬉しいんだが……」


村の青年は申し訳なさそうに言った。


「すみません。あいにくと小さな村なので宿は無いんですよ。」


「そうか……なら仕方ないな。」


ルークさんは残念そうな顔をしながら言う。


「ならば村の空いてる土地で野宿させて貰っても構わないかな?」


村の青年は少し考えたあと答えた。


「それは構いませんが、この季節は夜になると冷え込みますので、防寒具を用意される方が良いですよ。この先に村の寄合に使う広場があるのでそこをお使い下さい。」


「分かった。助かるよ。」


僕たち一行は青年に言われた場所まで移動する。

ルークさん達が手際よくテントを張っていく。

僕はその手伝いをしていた。

エマさんは薪を集めて火を起こしていた。

火を起こすと簡単な食事を作り始めた。

僕達は見張りを交代しながら仮眠を取る事にした。


「じゃあ、坊や。お姉さんの寝袋に入って一緒に暖まりましょうか?」


「いえ、結構です!!」


僕は全力で断った。


「遠慮しなくて良いのよ?ほら、おいで……」


「本当に大丈夫なんで……」


エマさんが両手を広げて近づいてきたので必死に逃げ回った。

結局エマさんは諦めてくれたようでホッとした。


「もう……照れ屋さんなんだから」


とか言っていたけど無視しておいた。

翌朝、僕たちは朝ご飯を食べた後、すぐに出発した。

順調にいけばヘルボンまであと9日…それまで僕の純潔は守れるだろうか……。

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ギフト《アカシックレコード》持ちの公爵家次男は忌み子と嫌われ辺境へ追放され無双する イチコ @ichiko123

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