第5話 カナートの街

カナートの街は公爵領の辺境の街で街の半分はスラム(貧民街)で占められ街を統治する執政官よりギャングが幅を利かせている。

シティウォッチ(衛兵)よりギャングやならず者の数の方が圧倒的に多く力もあるため大半の犯罪は見て見ぬふりをする無法地帯だ。

厄介ごとに巻き込まれないよう比較的治安の良い大通りを歩き冒険者ギルドを探す。

このような小さな街にはポーションを販売する専門店は無く冒険者ギルドが装備品からポーションまで一手に扱っているからだ。

冒険者ギルドに入ると中は酒場になっており、屈強な男達が酒を飲んでいる。


「おい坊主!ここは子供の遊び場じゃねぇぞ!」


一人の男が絡んできた。

僕は相手にしない。


「おいガキ無視すんなよ!」


男と男の仲間らしい奴らが5人ほど寄ってくる。


「なかなか可愛い顔してるじゃねえか。男娼館に売っ払えば高く売れそうだぜ」


男たちは下卑た笑いを浮かべている。


「売っ払う前に俺に味見させろよ。おれはそっちの方もイケる口なんだ」


リーダー格の男はそう言って僕を押し倒そうとしてきた。


《高速詠唱・集団麻痺》


僕は詠唱を一瞬で終わらせると、男達の動きを封じる。


「な!?何しやがったクソガキ!!」


リーダーは動こうとしたが身体が痺れて動かないようだ。


「くっ……テメェ……」


僕は短剣を鞘から抜き放ち、男の首筋に突き付ける。


「騒ぐな。次は殺す……」


首に当てた短剣に力を込める。


「ひぃ!」


男は恐怖に顔を歪めズボンの前を濡らしている。


「魔法を解くからバカな真似をするんじゃないぞ?」


僕は男達にかけた拘束を解除した。


「ひぃ!!覚えてろよ!クソガキがぁ!!!」


男達は這々の体で逃げていった。

パチパチと拍手の音がする。


「いやぁ凄いな少年。あんなチンピラを瞬殺とは大したもんだ。どうだい?うちのパーティーに入らないか?」


声を掛けてきたのは燃えるような真っ赤な髪の男だった。


「お誘いはありがたいですが僕はヘルボンに向かうところなので失礼します。」


僕はそう言うとその男の脇をすり抜けようとした。


「おっと待ちなって。ヘルボンって言ったかい?それなら丁度いい。俺達も向かう所だ。一緒に行こうじゃないか。」


冒険者がヘルボンへ?


「ヘルボンは危険な魔獣やモンスターが多い割りにお宝があるようなダンジョンも無いから冒険者は近づかないと聞いていましたが何故ヘルボンへ?」


僕は少し彼に興味が出て質問してみた。


「君はまだ知らないのかな?ヘルボンに古代の遺跡が発見されたんだよ。まだ調査は進んでいないが古代魔法文明の遺跡の可能性が高いとされていてね。俺達はそこに眠る秘宝を求めてやってきたというわけさ。」


トレジャーハントか……。

確かに財宝目当てなら危険を冒しても行く価値はあるかもしれない。

それに彼の装備を見る限りかなり強い冒険者のはずだ。

冒険者に少し興味があったので同行する事にした。


「ではヘルボンまでよろしくお願いします。」


赤髪の男は人好きのするような笑顔で手を差し出してくる。


「俺はルーク・A・ヴォルドだ。君は?」


「僕はパウルスと言います。よろしくお願いします。」


僕は差し出された手を握り返した。


「仲間を紹介するからついてきてくれ。」


僕たちは酒盛りをしている男達の横を通り過ぎ奥の部屋に入った。


「紹介するよ。こいつらはパーティー『炎の刃』のメンバーだ。」


部屋の中には2人の男女がいた。


「ヒュー!坊や、ならず者どもをやっつけたのを見てたよ。中々の腕じゃないの!」


口を閉じていれば貴族の令嬢と言われても納得してしまいそうな端正な顔立ちの銀髪の女性が話しかけてくる。

慈愛の女神マリスの紋章が刺繍された法衣を身につけている事から聖職者だろう。

年齢は20代前半くらいだろうか。


「あたしは神官のエマ。よろしくね。坊や」


もう一人は革製の軽鎧に身を包んだ黒髪の男だ。

顔立ちは中性的で耳の先端はピンと尖りエルフだとわかる。

見た目は17~8歳位に見えるがおそらく100歳は越えているだろう。


「私は弓使いのカルスです。探知系の魔法も多少使えます。よろしく。」


僕も挨拶をして握手をする。

赤髪の男ルークさんは僕の背中を叩きながら笑う。


「ハッハァ!短い間だかよろしくな!出発は明日の朝にしよう!今夜はこの宿に泊まるからな。」


こうして僕はヘルボンまでだが初めて冒険者パーティーに参加した。

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