9.ありがとう

 そこまで順調だったのに、僕と珠里亜はバッカーズと喧嘩した。

 喧嘩したけど、それは僕に良いものを与えてくれた。

 珠里亜と生活してるのは楽しかったけど、それがどんなものなのかよくわかってなかった。

 珠里亜がいなくなって一人になって、やっとわかった。

 それをどう表現したら良いのか僕はわからない。

 叶依が高校を卒業してから海輝と住んでた頃の伸尋の気持ちと一緒かな。

 それがズーンって重くなって、耐えられなかった。

 だから叶依、伸尋によーく謝れよ!

 あっ、叶依が伸尋と一緒になってからの海輝の気持ちとも一緒かも。

 まぁ叶依はいろんな人に辛い想いをさせてたわけだね。

 それで、耐えられなくなって、叶依に頼んで珠里亜を探しに行った。

 珠里亜が観覧車好きってのは知ってたのに、なんで横浜が思いつかなかったのかな。

 やっぱ僕はまだ海輝のことが……?

 いや、違う、海輝じゃない、珠里亜なんだ。

 海輝は僕を支えてくれて、珠里亜は傷を埋めてくれた。

 なんでかな。

 初めて珠里亜に会った時は『まさかこの子が』って感じだったのに。

 海輝は叶依っていう惑星人と関わったからいろんなことがあった。

 でも僕が関わった珠里亜は普通の人間だった。

 叶依に言わせれば変わってるらしいけど、僕にとっては普通だ。

 いや、普通より“上”だ!

 だから何でも出来るはずなんだから電子レンジで怖がらないでくれ。

 傷を埋めてくれたって言うより気にならなくしてくれたのか。

 とにかく珠里亜、君はいつも僕の薬箱さぁ~♪

 ってこの歌どっかで聴いたことあるけど僕らのじゃないね。

「あー冬樹っちゃーん! 亜瑠子と冬彦手洗わしてー!」

「はいはい……あるちゃーん冬彦ー、こっちおいでー」

「ぱぱぁ、あるおなかすいたぁ」

「あるちゃんお腹空いたの? じゃお手手洗おうねー洗ったらご飯食べて良いよー……はい、冬彦、こっちおいで」

「ぱぱぁ、きょうのごはんなぁに?」

「何かなぁ。ママに聞いておいで。今日の晩ご飯なぁに? って」

「はぁい……ままぁ、ぱぱがきょうのごはんはこげてない? っていってるよぉ」

「こらっ冬彦っそんなこと言ってないよ」

「冬彦、そんなんどこで覚えたんよ? 最近全然焦げてないのに!」

「ははは。子供って怖いね。それで今日は何なの?」

「珠里亜特製ブラックマウンテーン !」

「え? また……焦げちゃったの?」

「ううん。チョコレートケーキ作ってみた♪ 今日は冬樹っちゃんの誕生日やから」

「え……ほんとに? ちゃんと出来たの?」

「出来たよ!」

「あーっぱぱぁーけーきあるよー!」

「けーきけーきー♪」

「……ホントなんだ……ありがとう」

「どういたしまして。……って、あー亜瑠子それ食べたらあかーん! 先パパにあげんのー! こらーっ!」

「いいよいいよ珠里亜そんな怒らなくても……」

 僕はこんな日常を探していたのかもしれない。

 だって、今まで生きてきた中で一番幸せだから。

 そういえば叶依と伸尋って子供出来たのかな。

 まいっか、出来てたらそのうち海輝が教えてくれるか。

 叶依もたまに戻ってくるって言ってたし……。

 僕を支えてくれた大好きな海輝、それからその両親。

 あと僕に素晴らしい任務を与えてくれた叶依、本当にありがとう!

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夢幻の扉~field of dream~ ─番外編─ 玲莱(れら) @seikarella

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