8.ささえる
叶依のドラマを珠里亜が見るから、僕もいつも一緒に見た。
自分が出てるからある意味嫌だったけど、あいつらの演技をみるのも面白かった。
「ははははは。なにあれ~。叶依めっちゃ顔引きつってる~!」
海輝が叶依にオルゴールを贈る場面を見て、珠里亜は爆笑していた。
あの撮影は僕も見てたけど、二人ともNG連発だった。
良かった、僕が海輝じゃなくて……。
ここに珠里亜が来た頃はどうなるかと思ったけど、意外と楽しかった。
それまでずっと海輝と一緒じゃないと嫌だったのに、離れていても平気だった。
切れるのは嫌だけど、少し会えないくらいなら何ともなかった。
それもこれも全部叶依のおかげだ。
僕と珠里亜は段々仲良くなっていった。
それに合わせて珠里亜も料理を覚えるのが早くなった。
多分あの頃から僕の生き方が変わったんだと思う。
両親がいないからって臆病になっていた時もあった。
海輝と一緒だったから楽しかったけど、僕は弱かった。
デビューしてからもそれは変わらず、リーダーは海輝に任せた。
叶依と出会ってからもそうだった。
何か始めるのはいつも海輝で、──僕は出遅れた。
でも、今は違う。
いつも誰かに着いていたのに、気付けば前に立っていた。
海輝もそれなりに僕と正反対だったけど、それ以上なのが珠里亜だった。
あいつには負けたけど珠里亜には負けたくない。
そう思っているうちに、僕は自分から前に出るようになった。
前に出て、リードして、いつの間にか珠里亜を支えていた。
海輝に遊んでもらってた頃とは違うけど、僕は寂しくなかった。
母親なんかどうでも良かった。
父親なんかいなくて良かった。
僕がこれからなってやるから──。
僕と海輝のOCEAN TREE、それから叶依もツアーに出て行く頃、珠里亜は友達の家に行った。
そこで何をしていたのかはちゃんと聞いてないけど、料理をしていたらしかった。
新しい料理を始めるんじゃなくて、僕が教えたことを復習してたって後で聞いた。
ツアーから帰ってから、僕は珠里亜にケーキを作らせようとした。
「ケーキ? それって電子レンジちゃうん?」
珠里亜はやっぱり電子レンジを使いたくないって叫んだ。
でも僕は何としてでも電子レンジを使わせたかった。
違う、ケーキを作らせたかった。
電子レンジは温めすぎて焦げるだけじゃないって、教えてあげたかった。
予想通りかなりの時間がかかったけど、珠里亜はケーキ作りに成功した。
どうだバッカーズ、僕と珠里亜はここまでやったんだ!
あいつらに見せたくて、僕は四人でのパーティーを企画した。
もちろん料理は珠里亜が担当で。
「え~~~でも四人分も無理や~~~しかも海輝ょん来る~~~ナゾリアンや~~~」
珠里亜はずっと喚いていたけど、何とか話を聞いてくれた。
当日、僕らは朝から集まって、PASTUREは仕事の話をしていた。
可哀想だけど珠里亜には一人で料理をさせた。
バッカーズに珠里亜の上達を認めさせるにはそれが一番だった。
もちろん前もって作って隠してなかったし、僕はたまにしか手伝わなかった。
確かに時間はかかってたけど、珠里亜はパーティーメニューを全て食卓に運んだ。
「うそーっ? 珠里亜が作ったん?」
「マジで? すげー美味そうなんだけど」
「信じられへん……あんな焦げてたのに……」
僕も結構びっくりしたけど、あいつらもそれ以上にびっくりしてた。
珠里亜もかなりご機嫌で、ジュリダンスなんか披露してくれた。
僕が珠里亜に結婚の話を持ちかけたのはその日の夜だった。
良いならそれで良いし、嫌ならそれでも良い。
ちゃんと返事をもらったのはバカバカボンにPin*lueを呼ぶ日の朝。
良い返事だったから発表しようと思ったら、叶依も同じようなことを言った。
まさか海輝とだとか言わないよな? 言うなよ?
考えていたことは珠里亜も同じだったと思う。
でもあいつじゃなくて伸尋で、ちょっと安心した。
僕はまだ珠里亜より海輝の方が好きだったから。
僕と叶依は“結婚する”とは言ったけど、相手が誰なのかは公表しなかった。
叶依はクリスマスコンサートで言っていたし、そのうち僕と珠里亜のこともバレた。
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