確認

「・・・・助かった・・・か」

気配が途切れたのと同時に、緊張の糸が解け、自然と安堵の声が漏れてしまった。

我ながら聞かれたら不味いと吐いた後に気が付いたが、如何やら本当に居なくなった様で、

息を吐きつつ、体を弛緩させる。

「ふぅううう・・・・いきなりハード過ぎる」

正直、現実世界での接触としては濃厚過ぎた。

想像とはかけ離れたこの世界の常識に、田中一郎として生きて来た人生が悲鳴を上げるが、

カオスにとっては日常か。

『街や村以外では今の様な略奪行為は普通の事ですので悪しからず』

「・・・・あっちとこっちの人間数億分のデータがそう言うと説得力が違うね」

『恐縮です』

「皮肉も効いてるよ」

自然と悪態が口から漏れるが、それも仕方ない。

闇の中という対処事態できてしまえば安全な繭から放り出されればこうなるのは必然。

此れから先は精神と精神の戦いでは無く、肉体と肉体との戦いがメインになる事は先の事例で明らか、苦手な分野に気も重くなるが。

『サポート体制は万全です。24時間周囲への警戒、オートガードによる迎撃、言語の自動変換、対象の戦力及び能力判別など多種多様。充実のリアルライフを提供致します』

闇に居た頃とは違うやる気に満ちた返答に、それだけ暇だったのかと思わずにも居られなかったが、改めて振り返っても暇は暇だったかと納得してみる。

「それだけ手厚ければ何とかなるか」

『暇つぶ・・・否、マスターの生活向上の為にも励む所存』

「・・・隠しきれてないぞ」

俺も皮肉を率直な意見として述べるが、そんなものはどこ吹く風。

『では、先程の山賊を追いかけると致しましょう』

カオスにとって日常であれば、この答えも日常、平然としたもの。

奪おうとした者にはそれ相応の対応が必要であり、依然として脅威であるならば、潰すのが確実であると判断しただけの事。

「まぁ、そうなる訳ね」

なんとなく納得もできるが、苛烈な反応に些か首肯しかねる。

『一時的に引いただけと思われますが、それでも戦闘を回避しますか?』

カオスの言い方は問い掛けにもとれるが、それは間違いであり、確実に寝込みを襲われる事は

規定の範疇だと言っている訳で、俺としても折れるしか無いかと頷き返す。

「奴等にとって脅威だと認定されればやっぱりそうなるか」

『力を見せすぎました』

「想定の範囲のくせに」

『・・・否定と肯定どちらがお好みでしょうか?』

「・・・どっちも好きじゃないから曖昧でいいよ」

『ではその様に』

手の中で転がされているんだろうが、知識量で敵う筈も無いので、反論は飲み込み森の奥へと足を進めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

残酷な世界 紅龍 @kouryuu0319

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ