初戦闘

「ぶっぼぉあ!? はひぃいいい・・・はぁ・・・はぁはぁ」

肺が空気を取り込むという異常事態。

久々に感じる空気と呼吸するという行為。

闇の中では必要のなかったそうした行為に俺の体は忘れていた機能を思い出し、

周囲の酸素を貪り喰らう。

「ひぅぅぅ・・・・」

何時ぶりだろうか、肉体という枷と重力という重さ。

久しぶりの倦怠感に、精神もつられて疲労を感じていると。

『感覚鈍化、意識高揚』

などという感じで優秀なカオス君が意識する前に事を完遂させていく。

「・・・・ありがとう」

『問題無し』

皮肉混じりに言葉を吐いたが、カオスには意味も無い様で、淡々とした返答のみ。

俺としても非現実的な現実への回帰に、夢なんじゃないかと思い確認をするが。

「・・・・あれ? もしかして夢じゃないってことなのか?」

『・・・・馬鹿ですか?』

「酷くない?」

この始末。

さすがに酷いと思ったが、客観的に見ればカオスがそう話すのも無理は無い。

俺からしてみれば一縷の望みという感じで、

闇が晴れれば日常が戻るんじゃないかと考えていた訳で。

遠大な現実逃避にしか見えないんだろうが、そうでもしなければ理解も納得もできはしない。

そもそも反逆の意思を持った時点で殺害対象とか酷すぎる。

そもそも奴等が行ったのは現在犯罪者では無い者を未来に犯罪を犯すから殺すという恐ろしい行為であり、それを正義の行いだと妄信している点も非現実的な話で。

「これが現実とか納得したくないからなぁ」

まだまだ可愛い獣でしかなかった獣シリーズも半数はやられていたし、憤慨するのも当然だ。

「・・・・あいつら元気でやってるかな」

なんて事を考えていると。

『離脱を推奨、敵意を持った個体が接近』

「はい?」

意味不明な警告に今更周囲を確認し、情報から森の中だと理解する。

当然、逃げる場所は多いだろうと行動に移そうとするが。

相手の方が何枚も上手か、行動に移す前に木々がざわめきだした。

「・・・何だ何だ、汚えおっさんだな」

一人目の如何にもな厳つい顔をした小汚い男がそう吐き捨てるのと同時に。

「大したものは持って無さそうだな」

「若くもねえし、奴隷にするにも金にならねえかもな」

などと悪態を吐き捨て現れたのは一人目と変わらぬ危ない輩。

関わり合いになってはいけない種類の人間だろうと明確に分かる人種であり、

勿論、俺としも逃げ出したいところだが。

「おいおい、逃げれるわけないだろ」

先を読んでいたのか、背後から聞こえてくる絶望的な声に、包囲されていた事を理解する。

「そ、その・・・・言葉は通じていますでしょうか?」

「あぁ! 何の冗談だ!」

「どうやら死んでから身ぐるみ剝がされるのが好きなようだな」

過去の経験から言葉が通じているかどうかの確認をしたのが不味かった。

逆に通じていない方がましなほど、俺だって言葉分かるかなんて事を言われれば怒る訳で、

最悪な選択をしたことだけは理解できた。

「い、いえいえいえいえ、そ、そんな事、滅相も無いですよ・・・へへ」

必死な思い出満面の笑みをつくってみるが、これも挑発の類か。

「冗談は嫌いなんだわ」

冷たい声と共に巨大な斧が迫ってくるのが見えたので避けようとするが、体は動こうとせず、出来た事といえば迫る痛みに耐える事だけ。

「・・・・・ぐっ」

恐怖心から目を閉じて息を止めるが・・・・。

「・・・痛くない?」

何時までも痛みを感じない事に疑問を感じて目を開いてみると、

そこには重い水の中を動くかの如く鈍重に斧を振り下ろす男の姿が見えた。

「まさか」

『思考加速継続中、対象の情報を表示』

などとカオスが発言するのと同時に意味不明な情報が目の前に現れた。


《山賊A レベル35 近距離戦闘術B、遠距離戦闘術D、畏怖C、統率C》

《山賊B レベル24 近距離戦闘術C、遠距離戦闘術C》

《山賊C レベル19 近距離戦闘術C》

などなど、意味不明な情報が表示され、木々の奥にも、それらの表示が浮かんで見えた。

「まだ居るってことか」

『肯定、伏兵4』

最悪な状況がさらに悪くなったのだが、身構える事ができるだけ幾分か余裕も生まれる。

依然として敵の動きは鈍重で、俺の動きものっそりとした重さを感じるが、

避けるだけならば可能だろうと思えた。

まずは避ける!

そう決意するのと同時に、カオスが脳内で言葉を放つ。

『魔力による身体能力ブースト開始』

するとどうした訳か、体の重さは嘘の様に消え去り、迫りくる斧を横滑りに置き去りにし、

山賊Aの背後で剣を抜こうとしていたBの前へと回りこんでいた。

「軽い」

『Fより魔力反応、警戒度更新』

異常な状況に呆けていると、木々の奥、こちらを見渡せる高台にFという情報が記され、

危険な兆候を表すように赤字が明滅する。

《魔法による広範囲爆撃準備、殺傷能力危険域》

「ぬっわ」

空に舞い上がる火の粉と風の渦。

過剰に供給された酸素を燃やして、大きく成長していく火の玉に、綺麗だと感嘆してしまうが、そんな余裕がある筈も無く、茫然とした間に火の玉は膨大な熱量を伴い近づいてきた。

「馬鹿か」

貴重な時間を浪費するという愚かな行為に悪態を漏らすが、そんな事で状況は変わらない。

事態を好転させるべく周囲を探すが、見えるのは逃げ遅れた山賊達だけ。

奴等も焦った様子で逃げようとするが、状況的に間に合わない事は確実。

リーダーと思われたAが死ぬ事を前提とした作戦に疑問も浮かぶが、そんな事は今更。

己自身がそもそも逃げる事が出来るのか不明な状況に、

焦りもつのるが、カオスだけは違ったようで。

『魔力投射物に対しオートガード開始。水蒸気爆発を考慮し、同程度の炎投射物にて即応』

などと言い残すと同時に眼前の火の玉と同等の火の玉が出現し、双方貪り食うように周囲の空気を燃焼し、数瞬後には熱波となって周囲を薙ぎ払った。

「・・・・化け物」

「魔法使いか」

「糞っ! 身なりで騙された!」

勝手にAからCと名付けた者達がCから順に口々に感想を述べた。

俺からしてもただ突っ立っていただけであり、異口同音、化け物って言いたくなったが、

力の源泉はカオスな訳で、何とも微妙な感覚のまま苦笑いを浮かべるに留めた。

「・・・さぁ、如何する?」

自分で言っておいて何が如何するなんだか訳が分からないが、彼等にしてみれば旨味の無い相手、弱者と見くびっていた相手が、脅威となれば話は別。

一方的に安全に狩る事が出来ないとなれば引く事も想定の範囲内。

「覚えてやがれ!」

「次は殺す!」

「・・・魔法が使えるなら少しは身なりに気を遣うんだな」

などなど、追撃の意思は無い事を口々に表現し、森の奥へと消えていった。

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