殺されたと認識した頃からどれぐらい経っただろうか。

そもそも俺が、俺であると認識したのは何時ごろか?

何とも曖昧だが、それにしても此処は何処?

見渡す限り闇、闇、闇。

体の感覚も曖昧だし、浮遊感があるようなないような。

それにこれはどこかに落ちてるような気もするし、上に昇ってるような気もする。

自己認識が出来ているようで、どこか境界線が曖昧。

俺が俺で私がお前?

俺以外の他者がそこら中に存在して、俺と接触しては塗り替えようと襲ってくる。

当然、俺も抵抗するし、相手も負けじと抵抗する訳で・・・・。

「・・・死んじまう・・・・いや、死んだ方がましだ」

そんな泥仕合であろう精神の殴り合いを永遠と続けていればこうなるのも当然。

弱音なんて毎秒吐き捨てている気がするが、休んでいる暇なんて与えてはくれない。

「名づけるならば地獄の窯って感じだよな」

ぐつぐつと死者を煮る窯が地獄にあったよな~と思いながら軽口を叩いてみるが、

現状は何も変わらない・・・どころか周囲の暗闇は増すばかりで、

悪い方へと向かっていそうだ。

「だけども、これしか出来ないしな」

肉体的な疲労が無いせいで限界が無いお陰か、自然と前向きにはなれる。

精神的な苦痛も無くは無いが、淡々と仕事をこなすのは向いている。

時間的に厳しいという追い立てられる状況ではあるのだろうが、そこは一端切り離して考えてみれば、やる事は単純。

「目の前の事をコツコツやるしか無いってね」

至極明快な結論に至り、俺は溜息混じりに目の前の作業へととりかかった。


何て事が遥か昔にあった気がする今日この頃。

初志貫徹とばかりに作業を続けてどれ程の年月が過ぎたものやら。

数十はたまた数百年?

暗闇の中、時間間隔が曖昧な中で、永遠と続く膨大な知識と経験の処理。

数多の人と呼ばれた者達の残骸で埋め尽くされた闇の中を一人、

もくもくと作業を続けて現在に至る。

「最初の内は単純に作業してれば終わると思ったけど、まぁ甘いよな」

当然、一人の作業量で一人の人生を経験するなど無謀な話。

まともな考えでも馬鹿げた事だが、幸いな事に抜け道も存在する。

「そもそも処理する案件が多いなら抜け道前提、まともにやる方が馬鹿ってね」

少しばかり初めの志からずれてる気もするが、終わり良ければ全てよし。

人数に勝るマンパワー無し、一人で無理なら二人、二人で無理なら三人用意するまでの事。

まぁ、つまるところ・・・・。

「足りない人数を仮想人格に任せれば良いってね」

楽をするのは人間の特徴ではあるのだが、さすがに楽だけはさせてくれないようで。

『┃┃統合処理システム『カオス』より異議申し立て、娯楽の要求』

「なにぃいい!?」

『似たような経験ばかりで暇』

「・・・・のぉおおおお」

突如として湧きおこるストライキ宣言に、俺の心は既にベコベコ。

そもそも『カオス』が怒るのも無理は無く、カオスという名前が指す様に、魂から抜け落ちた経験と思考から無理やり人格を形成したのがこのシステム。

転生に際して不要となった人々の経験を糧にしていても、老若男女幅広い数値を入力している為、要望も果てが無く、総体としての要望もまた、多種多様。

ストレス耐性もそれ故に果てしの無いものであったが、とうとう限界を迎えたようだった。

「確かに生まれてからこのかた数百年は経ってそうだし、そうなるのも仕方ない」

『限界』

「・・・・・まぁ、そうだよね」

『肯定』

「とは言っても、現状が現状なんだけども」

そう言って俺は周囲の闇に目を向ける。

ずっと見なれば光景だが、今となっては絶好の安眠空間。

音もしなければ匂いも無い、疲れもしないし、眠ろうと思えばすぐ眠れる。

仕事に追われて疲れていた頃を思えば天国にも感じるというのが皮肉でもない事実。

自分で感想を述べておいて悲しくもなったが、住めば都という奴なんだな此れが。

「まぁ、そういう訳だから此処で何か探したりするなら・・・」

『認識可能範囲に知的好奇心を満たすものは皆無、故に処理速度を増速開始』

「・・・えっ? まさか手を抜いてたって・・・」

『・・・返答を保留、全ての処理完了まで3,2,』

「いやいや、絶対抜いてただろうが」

『現実世界への回帰開始』

「・・・・・っ」

俺は白濁に飲まれる視界の中、言葉にならない悲鳴が口から飛び出すのを感じ、

喉が潰れるかの様な痛みに見舞われた瞬間、意識が覚醒したのを感じた。

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