使徒

何て事があったのが数か月前。

意気揚々と犬っぽい奴に続き、蛇っぽい奴、鳥っぽい奴と多種多様な生き物を量産していたのだが、それが不味かった。

「神々の敵に裁きを!」

何とも物騒な言葉を吐きつつ、一人の男が俺に向かって剣を振り下ろす。

「うお!?」

勿論、素直にくらってやる必要も無いので、浮遊して回避する俺。

意味の分からん突然の攻撃に、俺が量産した獣シリーズが牙を剥くが・・・。

「邪魔だ化け物ども!」

先程の男とは別の筋骨隆々なむさ苦しい男が見てくれによく似合う大斧を手に、

獣達を切り刻む。

『・・・ッギュ』

そもそも抵抗らしい抵抗も出来ない獣達はそれだけで死に至り、白い塊へと姿を変えていく。

獣シリーズには俺と同じ物理攻撃への抵抗力があるにも関わらず、この惨状。

どうやらこいつらにはそうした特性を無視する力がある事は確実であり、偶然の衝突という訳では無い事が明らかになったという事。

「やはり世界の理を歪ませているのは貴様か!」

獣が白い塊へと変化するのを見て、杖を持った如何にも神の使徒という風貌の女が怒りを隠すことなく周囲にばらまく。

先程の予想通り、敵は準備して殺しにきているのだと宣言する言葉に、内心苛立ちもつのる。

「よせ、ミザリー、奴の言葉は俺達には理解不能だ。それに会話できたとして、神の敵である事には変わりはしない。使徒である俺達にとってはそれだけで敵だ」

俺の苛立ちに反応したのでは無いだろうが、一人目の男がそう語り、

「でも、キルケス・・・・」

ミザリーと呼ばれた女は嫌悪を露わに、キルケスと呼ばれた男に異議を唱えるが。

両者の力関係は明白か、次第に折れるように女は静かに頷いた。

それは傍からみれば敬虔な信徒の姿なのだろうが、俺の内に生まれたのは・・・・。

「・・・・何だこいつら」

というミザリーに勝るとも劣らない嫌悪の感情だけだった。

だが、気持ち悪いからといって相手を無視したところで始まらないし、此処は怒りを抑えて、

相手の意図を考えるべきかと思考を巡らせるが・・・。

「死ね、死ね、死ね!」

「うぉおおおおお!」

「焼き尽くしてやる!」

などと俺の意図など関係なく、目の前の三人は狂喜乱舞とばかりに無抵抗な獣を刈り、

笑みを浮かべて神を称えるばかり。

俺からしてみれば悪魔の所業だが、彼等にとっては善なる行いなのか、

本気で何なんだろうかと思わずにはいられなかった。

そもそも勝手に襲って、その上勝手に納得して俺の仲間を殺し、俺を悪だと断じたのだ。

そして極めつけは、俺の言葉が分からないからか、今俺が吐いた悪態を攻撃命令とでも勘違いしたらしく、攻撃の手は更に苛烈に変化し、

無抵抗な獣達を雑草でも刈るように刈り取っていく。

「何なんだよお前等・・・俺が・・・・俺達が何をしたってんだ!」

絶望から膝を折った俺の悪態に対し、返って来た言葉は・・・。

「今更後悔したとしても神に抵抗する意思を持った時点で討伐対象だ」

「つまり、死んで詫びろ」

「そうよ、早く消えなさい」

と、三者三様の侮蔑混じりの言葉であって、敗者を称える言葉は一片もなし。

まさに腸が煮えくり返るという感覚を感じたまま、

俺は獣たちに最後の命令を与えるべく口を開く。

「強くなれ! 暴力に抗うだけの力を手に入れ━━━」

俺が会話できたのはそこまでだった。

気づいた時には俺の首は空を舞い、くるくると回る視界の中、俺の最後の命令を聞いた獣たちが、散り散りに逃げていくのが見えた・・・が、それが最後の光景だった。


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