第12話 やろうじゃないか(聡明)

「二人だけで通じ合ってないで、早くウチらにも教えるっス!」


 瑠璃と今後の展開について話してたら、梓たちから分からないと文句が出た。別に大した事は言ってないんだけどなぁ。


 だが、今後の方針が分からないってのは問題だ。なので噛み砕いて説明する事に。


「吸収しやすいように噛み砕いて説明してやるから、謹聴しろよ雛鳥ども」


「煽ってないであくしろっス」


 煽りにスラングで返すあたり、やっぱりコイツも庶民だよなぁ。


 それはそれとして。


「まず瑠璃と梓が友達になる。ここまではOKだな? ついでに瑠璃には、噂の内容を正しく広めて貰う」


「え、何で? 事実が結構アレなんだから、むしろ正しい噂は広めない方がいいんじゃない?」


 御門に暴言を吐いた以上、大して変わらないんじゃないかと高藤は言うが、これが実はそうでもない。


「広まってる噂の中には、朽木さんが御門君に手を上げた、という類のものもあります。下手すれば教師も出張ってきますし、そうなると私たちだけで対処するのは困難になってきます。このような不測の事態を避けるために、噂の内容は1つに纏める方がいいんです」


 瑠璃が言った通り、噂を纏めるのは、妙な噂が広まって、頓珍漢な事をする馬鹿が出るのを防ぐためだ。


「なるほどっス。でも、それは難しいって姫崎院さんは言ってなかったっスか?」


「事実を捏造するのは難しいだろうが、真実を広めるなら、瑠璃の影響力なら問題ないだろうよ」


「ええ。聡明が身体を張ってスケープゴートになってくれましたし、大した手間でもないでしょう」


 良い幼馴染を持ちましたねと、梓に向けて瑠璃が微笑む。だが当の梓はキョトンとした顔。


「スケープゴート? 聡明、羊になったんスか?」


「お前、そろそろアホって言葉じゃフォローしきれなくなってきてるからな?」


「何でっスか!?」


 例えボケだろうが、その返しをしてる時点で相当にアレだからだよ。


「で、実際何したんスか? ウチの為にこっそり何かやったみたいっスけど」


「大した事じゃねえよ。ほら、さっき3組で瑠璃を大声で呼んだろ? アレだよ」


「それが何なんスか?」


 不思議そうにする梓。答えは横を見れば分かるぞ。


「そうだよ聡明君! どうしてそんなに姫崎院様と親しげなの!?」


「とまあこんな感じで、瑠璃と俺が親しいってのは、昨日の噂と同じぐらい帝櫻ではインパクトのある事なんだわ。これで興味を上書き、ないし分散させたんだ」


 瑠璃は御門と同じ四大名家のご令嬢で、容姿もトップクラス。人気も御門に並ぶくらい高い、所謂学園のアイドルと呼ばれる類の人間だ。更に言えば、恋人やそれに近しい立場の異性がいないので、帝櫻男子とっては憧れの君、高嶺の花である。


 では、そんなマドンナに馴れ馴れしくファーストネームで呼び掛ける、何処の馬の骨ともしれない男子がいきなり現れ、あまつさえ瑠璃本人がそれを許容、更に同じようにファーストネームで返事を返していたら、一体どうなるだろう?


 下手すりゃ梓の件以上の大事件だ。御門の場合は、やかましく騒ぐのは女子だけだが、瑠璃の場合は男子は勿論の事、瑠璃に憧れている女子も騒ぐ。女子ってのは、それぐらい仲間意識が強いし、恋愛に飢えているのだ。


「ただその代償として、俺が梓と似たような立場になったんだけどな」


「なるほど、スケープゴートってのはそういう……。でも良かったのか? そうなると次は星野が危ないんじゃ」


「ハッ。んな訳あるかよ。相手は金持ちってだけで世間知らずのガキだぞ。ちょっかい出してきたら、逆にハメて身ぐるみ剥いで晒してやんよ」


 その時は、元世界的詐欺師でメル友の音羽さん仕込みの詐欺術を披露してやろう。


「台詞が犯罪者というか世紀末過ぎるっス……」


「すげえ失礼な言われようだが、これお前の為にやってるからな?」


「ありがとうっス。で、他には何かあるんスか?」


「軽いんだよなぁ。てか俺は兎も角、瑠璃には本気で感謝しろよ。事後承諾とは言え、お前の為に変な噂が立つのを承諾したんだから」


「はっ!? そうっス! 姫崎院さん、ウチの為にここまで身体を張ってくれてありがとうっス! それとこんな奴と妙な噂が立つような真似させて、本当にゴメンなさいっス!」


「オイ」


 梓さん、ちょっと瑠璃と俺で態度違い過ぎやしませんかね? 俺も同じく身体張ってるんですが?


「流石の俺も異議申し立てるぞコラ」


 おい、そんなテヘって笑って誤魔化すな。んなあざとい仕草で俺が許すと思ってんのか、しょうがない奴だなぁ。


(速攻で許した!?)


(問題解決に積極的だったから分かってはいたけど、梓ちゃんに相当甘いな星野って)


「恋愛感情……というよりは世話焼きな兄? シスコンなんですね聡明って」


「……色々と言いたいが、取り敢えず瑠璃はミュートしろ」


 コソコソ話すのは百歩譲って許そう。だが普通のボリュームで分析すんのは止めてクレメンス。


「んんっ、話を戻すぞ。瑠璃は梓について噂の操作。高藤はその補助だ。んで、影浦は俺付き。友達になったという事にする」


「おっと、ここでまさかの俺? え、何で俺?」


 突然自分の名前が出てきた事で、影浦の頭にはてなマークが乱舞する。本当に予想していなかったようだ。


「梓とお前がいたら火に油だから。このままだとお前がやることがないから俺付き。御門を引き込むための釣り餌」


「簡潔に説明してくれたのは有り難いけど、ちょっと待って。最初のはその通りだし、2番目も協力すると言った手前、納得はする。でも環を引き込むってのはどういうつもりだ?」


「御門が居れば都合が良いんだ。仮にも被害者と加害者が同じグループで仲良くしてれば、余計な大義名分を外野に与えないで済む。それに四大名家出身が二人もいれば、梓にちょっかいかける馬鹿はグンと減る。だから引き込む」


「つまり環を利用すると?」


 僅かにを雰囲気を鋭くしながら、影浦は俺を睨み付ける。ああ、そうだろうよ。その反応は予想通りだ。御門の為に梓を捕まえようとしたのだから、それだけお前は友達思いだって事なんだろうよ。


 だがな、


「それは貴方が口に出すことではありませんよ、影浦君」


 俺が文句を言う前に、瑠璃が影浦を黙らせた。有無を言わせぬ迫力は、御門の持つ雰囲気とは別種の、だが明らかに凌駕するナニカがあった。


「聡明とはお友達になって貰う必要があるので、私が代わりに言わせて貰います。貴方は御門君の為に、朽木さんの学校生活を勝手にベットしたんです。その時点で、影浦君が文句を言う資格はありません。影浦君が御門君を大切に思っているように、聡明も朽木さんの事を大切に思っているのですよ? 先にやったのは貴方で、聡明は貴方と同じ事をやろうとしているだけです。それでも尚、気に入らないと言うのなら、聡明の案以上のものをこの場で挙げてください」


 そうでなければ黙ってろと、瑠璃は告げる。その瞳はとても冷たく、問答無用で他者を従わせる雰囲気が漂っていた。


 影浦は咄嗟に何かを言おうとしたが、結局何も言えずに押し黙る。俺の案を超えるものが思いつかなかったのだろう。実際、俺の案は短期間で効果を上げるとするなら、限りなくベストに近いベターといった評価となるぐらいには、現実的で効果的だ。


「それに利用するといっても、本当にただ同じグループで纏まるだけで良いんです。更に言えば、拒否されたところで致命的という訳ではない。御門君の重要度はその程度です。いちいち目くじらを立てる程ではありませんよ」


「……ああ、そうみたいだね」


 あーあ、目に見えるぐらい落ち込んじゃってまあ。こうも小さくなられると、少し同情してしまうよ。後、他の席からの視線が痛い。いや、ここには瑠璃もいるし、というか瑠璃が原因だし、俺や梓にヘイトが向けられてるって訳じゃないんだけど。どっちかというと、どうしたんだろう?っていう疑問の視線だ。


 とは言え、それでも長くこの視線に晒されるのは具合が悪い。


「ほら、さっさと持ち直せ。こっちに被害でるわ」


 噂の渦中の人物が二人いるんだ。変な風に関連付けられて、また尾ひれがついたら堪らない。


「お前、励ますにしてももうちょっとちゃんとしろっス……」


「え、励ましてるように見えんのお前? 目玉腐ってるんじゃない?」


「OKその喧嘩買ったっス」


「500円になりまーす。おら、あくしろよ」


 梓の額に青筋が浮かび、俺が指で輪っかを作って更に煽る。通常運転だな。


「……ははっ」


 もはや定番芸とかした、汚い会話のドッジボールを二人でしていると、何故だか影浦が吹き出した。あ? なに笑ってんだコラ。


「いや、ゴメン。ただキミたちを見てたらついね。うん、当たり前の事を言われただけで、落ち込むような事じゃないもんな」


「いや、あれは普通に落ち込んで良いと思うっスよ?」


「まあ瑠璃怖かったしな」


「聡明、貴方は誰の味方ですか?」


 おっと、矛先がこっちに向いた。瑠璃が今度は俺を冷たい瞳で見ている。はよ矛先を変えねば。


「まあ立ち直ったんなら良いや。取り敢えず、大まかな方針はこんな感じだ。俺と影浦、出来れば御門。梓と瑠璃と高藤で、まずは行動する。グループを合流するのは、周囲の様子を見てから考えようか。で、早速今日の放課後から行動に移りたいんだが、三人は構わないか?」


「私は大丈夫だよ」


「俺も」


「あ、すみません。私は今日部活があるのですが。……そうだ、良かったら朽木さん、作戦の一環として見学しませんか?」


「あ、是非っス!」


 お、早速決まったみたいだな。


「なら影浦は、放課後に俺を御門に紹介してくれ」


「分かった」


 さてそれじゃあ、楽しい学校生活に向けて、行動開始といこうか!



──これが、長い付き合いとなる俺たちの始まりだった。




ーーーー

以上で読み切り終了となります。お読みいただきありがとうございました。

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天は二物と異物を与える〜天才系主人公(女)と問題児系主人公(男)は名門お金持ち学校の台風の目となるそうですよ? モノクロウサギ @monokurousasan

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