第11話 こ、コイツら……(梓)

「……っ、ば、バカ殿って……っ!」


 ウチらの話を聞いて、必死に笑いをこらえる姫崎院さん。一体どうしたんスかね? 小太郎も、昨日爆笑してたっスけど、そんなに面白い事をウチしたんスか?


 そう思って小太郎の方を見ると、こっちもこっちで思い出し笑いをしているみたいで、肩を震わせてたっス。


 うーん、そんなに面白い事なんスかねコレ?


 聡明の方を見ても、ウチと同じように訝しげに二人を眺めてるだけで、どうもこの反応は聡明にとっても予想外の事だったみたいっス。梨花ちゃんは未だにトリップしてるから除外っス。


 聡明と二人で顔を見合わせていると、小太郎が震えながら説明してくれたっス。


「い、いやね、環って結構天然というか、生まれた環境のせいか浮世離れしてるところが結構あってさ。中々の頻度でズレた行動をとるんだけど、それを真っ向かはツッコミ入れる奴なんて殆どいないんだよ。それなのに梓ちゃんは、ドンピシャな例えツッコミをしてくれた訳。昔から環の事を知ってる俺たちからすると、もう本当にツボなの」


 つまり、あのバカ殿は昔からバカ殿だったけど、それを指摘する奴が今まで現れなくて、そこにウチがぶちかましたって事っスか?


 んー?


「それおかしくないか? 普通バカな事してれば、家柄とか関係無しにバカキャラ扱いされるだろ。聞いた限りの御門の評価と一致しないんだが」


 ああ、聡明も同じ事を不思議に思ってたみたいっス。ウチが気になってた事を、代わりに訊いてくれたっス。


 その疑問に答えたのは、やっと喋れるぐらいに復活した姫崎院さんだったっス。


「それはですね、御門君のズレた行動の殆どが、上から目線的と言いますか、上位者のような行動なんですよ。梓さんの事を例にすると、自分が歩いている時に道が譲られるのを疑問に思っていない、という感じで。そういう行動をごく自然に行うせいで、皆さん気付かないんですよ。元々、御門家は家格としては最上位ですし、最初から目上として扱っている方が多いですから、違和感がないんです。家柄の他に、本人の風格もありますけどね」


「あー、なんとなく分かったっス……」


 立場、性格ともに王様みたいな奴が、王様的な行動をとってもそりゃ違和感ないっスよね。どうりで変な評価がついてない筈っス。


「ただね、俺みたいに環と仲が良かったり、姫崎院さんみたいに家格が同じだと、そういう偏見、というかフィルターみたいなのはない訳よ。だから環のズレた行動を見たら、ちょっと待て、いやそれ違うだろ、みたいに思うんだけど……」


「当人は無自覚ですし、周りもそれが当然みたいな反応するせいで、指摘しても暖簾に腕押しといいますか……」


「いっその事環の性格が高圧的な俺様系だったらまだ良かったたんだけど、梓ちゃんも知っての通り、アイツって纏う雰囲気と違って意外と繊細でしょ? だから行動と内面の違和感が凄くてさ」


「落ち込まれても困る、というか面倒なので、下手に強く言えないですし」


 しみじみと言う辺り、この二人も結構苦労してたっぽいっス。後、姫崎院さん結構言うっスね。


 ただまあ、二人があのバカ殿に振り回されてたのは理解したっス。


「だからね、梓ちゃんと出会った時は救世主がきた!って柄にもなく興奮しちゃってさ。自分の影響力ってのは十分理解してたんだけど、それでもこの縁は絶対に逃がしちゃダメだと思って行動しちゃったんだよね……」


「天然ボケのツッコミ役に抜擢されるのに、ウチの学校生活がベットされたんスか……」


 これは聡明じゃないけど怒っていいッスよね?


「……吊るしてバーベキューだな」


「何か分かんないけど死刑宣告されなかった!?」


 あ、駄目っス。ウチ以上に聡明がキレてるっス。これでウチが怒ったら本当に小太郎をヤりかねないッスね……。


 いや、ウチも少しイラッとはしてるんスけど、小太郎も地味に凹んでるというか、反省してるっぽい雰囲気なんスよね。こんなシュンとした空気出されると、王子様フェイスも相まってこっちが悪役にやってる気分というか。


 あと、ここでキレたら聡明の同類扱いされそうで嫌ッス。


「……うん、まあ、流石にコレはやっちゃいけない事だって言うのは分かってるんだ。吊るされたりとか命に関わりそうなのは勘弁だけど、それ以外ならどんな罰も甘んじて受け入れるよ」


「おし。なら爪の間に針を刺してみようか」


「聡明ステイ!」


 何でコイツは命に関わらない類の拷問をサラッと要求出来るんスかね!? あと被害者のウチを差し置いて罰を要求すんなっス!


「痛そうだけど、それで気が晴れるのならやるよ?」


「要らないっスよ!? ウチが要求した感じ出すのも止めるっス!」


 ウチはそんな残虐な事を求めてないっス!


「因みに補足しておきますが、それ痛いじゃ済みませんよ。重度の被虐主義者であったアメリカの有名なシリアルキラーですら、爪の間に針を刺す痛みには耐えられなかったそうですから」


「姫崎院さん何でそんな事知ってるんスか!?」


 ムーンマニアックとか普通の女の子じゃ知らないような豆知識っスよ!?


「実はホラー映画とか好きでして」


「ああ、何かそんな感じするわ」


「……聡明は一体どういう風に私を見ているのか、今度じっくり話し合いたいですね」


「魚を絞める動画とかをボーっと眺めてそう」


「っ、ほ、本当に失礼ですね聡明は……」


 何か一瞬言葉に詰まったっスけど、まさか図星じゃないっスよね? 聡明が素っ頓狂な事言ったから二の句が告げなくなっただけっスよね?


 それはそれとして、小太郎の方を片付けるっス。そろそろ見てらんなくなってきたっス。


「……はぁ、別にそこまで怒ってないっスよ。どっちにしろバカ殿呼ばわりした時点で、ウチは色々と詰んでるんス。そこに嫉妬が加わっても、大して違いがないっス」


「火薬庫の中に水素ぶち込んだようなもんだけどな」


「聡明ハウス!」


 お前人のフォローを台無しにすんの止めろっス!実際は結構違うっスけど、それは言わないのが優しさっスよ!?


「兎も角! ウチはそんなに怒ってないっス。解決を手伝ってくれるなら、それで手打ちにするっス。それでいいっスね?」


「うん。全力で当たらせて貰うよ」


「まあ元凶の一人なんだから当然だけどな」


「聡明シャラップ!」


 お前、実は水指すの楽しんでるっスよね!? ウチが手打ちにするって言った時点で、怒るの止めたの分かってるんスよ!


「ったく、本当にしょうがない奴っスねお前は……。で、色々な理由が分かったところで、そろそろ聡明の策って奴を教えて欲しいんスけど」


「はっ!? そうだよ聡明君! 早くなんとかしないと梓ちゃんが!」


 あ、梨花ちゃんが復活したっス。それはそれとして早くするっス。


「そう急かすな。今説明する。つっても、策って程じゃないんだけどな。さっき触りだけ話したが、梓がヤバいのはちょっかいを掛けやすいからだ。だから手っ取り早く人脈を強化する。具体的に言うと、瑠璃と友人になって貰う。要するに後ろ盾だな」


「うわぁ、そんな打算全開で友人関係結べとかよく言えるっスね……」


 自分の事とは言え、それはちょっと抵抗あるんスけど……。


「別にいいだろ。友情なんて後から育め。恋人のふりから本当の恋人へ、的な展開とか漫画でよくあるだろ」


「あ、なるほどっス」


 そう言われると大して抵抗無いっスね。ちゃんと友達になればいいんスから。


 ……あの、何で皆そんな微妙な顔してるんスか? その、うわ単純って言いたげな目止めるっス! それで良いのか?みたいな顔でこっちを見るなっス! ウチだって傷つくんスよ!?


「そこのアホは何時もそんなんだから気にすんな。で、瑠璃に後ろ盾になってもらって、ついでにとっちらかってる噂の修正を付けて貰いたいんだ」


「おい、サラッと人の事をアホ扱いするの止めるっス」


「噂の修正ですか?」


 あれ、ウチの文句はスルーっスか? 姫崎院さんも?


「姫崎院の影響力なら、別に難しい事じゃないだろ? なにも真実を隠蔽しろって訳じゃない。殴りかかったとか、告白したとか、そういう根の葉もない類の奴だけ否定してくれれば十分だ」


「ああ、前提で錯綜されると結果も滅茶苦茶になりますからね。ですが御門君関係ですと、私にも限界がありますよ?」


「同じぐらいの爆弾あればいけるだろ?」


「……なるほど。そういうつもりだったんですか。というかサラッと巻き込まれてますよね私?」


「どっちにしろ広がる事だし、協力して貰うつもりだったからな。悪いとは思ったが、効果が高い内に利用させて貰った」


「……まあ、効果的なのは確かです。ええ、構いませんよ。ちゃんと考えた上で頼られるなら、悪い気はしません」


「悪いな。瑠璃の負担がデカいが、他に適任がいないんだわ」


「問題ありません。その程度、この私が捌けない訳ないでしょう? むしろ、聡明の方が不味いのでは? 朽木さんと同じ立場になりますよコレ」


「感情で行動する奴なんかカモだカモ」


「ふふ、違いありませんね」


 ……あの、二人だけで通じ合うの止めて欲しいんスけど。せめて甘酸っぱい感じになんないスかね? 滲み出る雰囲気が黒いんスけど……。


「けどそうなると、影浦君はどうします? 贖罪の機会があまりないですよ」


「影浦は俺付きだな。梓のとこに置くと嫉妬が広がるし。それより俺のところに置いた方が、間接的とは言え防波堤になるだろ。俺の盾にもなるし、御門を引き込む餌になる」


「彼も引き込むつもりですか?」


「それが出来れば万々歳だ。これでグループとして固められれば、これ以上ないだろ? 当事者二人が同じグループにいれば、外野がとやかく言う事じゃないし」


「ですがリスクが高いのでは? 同じグループにしてしまえば、結局朽木さんに矛先が向いてしまいますよ」


「梓の無自覚タラシを舐めるなよ? コイツの人柄が広がっちまえば、ガチの奴ら以外は動かんだろうよ」


 おい、人を見境無しのナンパ師みたいに言うの止めるっスよ。


「人たらし、ですが。そう言われると、確かにと納得してしまう気がしますね」


 ちょっと姫崎院さん!? そこは納得しないで欲しいんスけど!?


「ではその方向でいきましょうか。ただ、御門君は下心がある相手には敏感です。協力を得るのは難しいですよ」


「それは俺がなんとかする。ネゴは得意だ」


「それはお手並み拝見ですね」


 ……いやあの、本当に二人だけで通じてないで、ウチらにも分かるよう詳しい説明をして欲しいんスけど。あと何度も言うけど黒いっス。ダークマターみたいっス。


「ひたすらに黒いっスねこの二人……」


「何か見ちゃいけない取り引きを見てる気分だよ……」


「黒幕とか経験してそうだな……」


 ウチらがドン引きしていると、聡明と姫崎院さんがこっちを見たっス。


「どうしました?」


「不思議そうな顔してんな?」


 お前ら仲良いっスね……。

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