斜坂
高黄森哉
それは困難な
こんなにも急な坂が近所にあるとは思わなかった。ここの道は通ったことがなかったが、はたから見ると、そこまで地形的にへこんでいるとか、逆に突出しているとかはない。だから、こんな急な坂が現れるとは予想しなかったのだ。坂の終わりは遠く見えない。後ろを振り返る。後ろにも終わりはない。上り坂が続いているのである。
坂は結構、繁盛していた。いままで見たことがないスーパーやコンビニが立ち並んでいる。試しに覗いてみると、そこには油焼きという得体のしれない料理が売っていた。私はそれを買い、食べながら歩くことに決めた。
急に心細い心持がした。私は小さな路地から折れてこの坂に入ったのだが、このどこも同じような景色が続く坂から、再び元来た路地を見つけることは出来るだろうか。
「できやしないよ」
しわがれた声が片耳に入る。道に老婆がいた。その老婆は年季が入っていた。老婆は老婆でも、一つも若さがない老婆なのだ。きちんと年をとった人間として信用しても良さそうである。
「なぜですか」
「ここは坂じゃないからさ」
「坂でないならどこですかね」
「ここはここだけで完結した一つの世界だ」
そうかもしれないと思った。こんなにも長い通りが、あの通ったことが無かった小さな小径に存在するはずない。ここは小さくたたまれた世界で、あの裏が入り口だったのだ。
「ここでは一つしちゃいけない事がある。ほら、あれを見な」
肉が転がってきた。それはたぶん人だと思う。人の痕跡が見受けられる。あの無限の坂のどこかで転んでしまったのだろう。その死体が通り過ぎ、小さく点になっていく。店から通りを掃除するために人が出て来る。肉片が道を汚し、それをそのままにしていると、ウジが湧くのかもしれない。
「ころんではいけない」
そして老婆は果物屋に入店した。
仮にこの坂は無限に続くとする。ならば毎秒のように人が転ぶ。もし坂に最後があるなら、どうなっているのだろう。そもそも終わりなんてないのだろうか。
そう考えたときにはそこは元の小径だった。それは坂に入る前の路地だ。老婆のいうことは嘘か、出まかせだったらしい。つくづく、人は見た目じゃない。
道を踏み外したら死ぬそんな構図は他にもある。それがたったいま歩いている道でもある。毎秒のように人が転ぶ人生の坂。お終いに救われない肉塊のたまり場があり、そこにハエが湧いているのだろうか。肉の肉会だ。それとも坂に終わりはないのだろうか。永遠に墜ちていける構造なのだろうか。坂の終わりが気になって、破滅のそりを滑らせたい
斜坂 高黄森哉 @kamikawa2001
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