エピローグ

エピローグ

 ――エピローグ。


 昌高の告白に三都美は感涙を滲ませると同時に、感激の言葉を漏らした。


「はい、喜んで。嬉しい……。ありがとう」

「こっちこそありがとうだよ、樫井さん」

「樫井さん? なんだか、よそよそしいよ」

「じゃぁ……ミトン?」

「そんな、みんなが呼んでるあだ名じゃなくて、名前で呼んで欲しいな」

「わかった。好きだよ、三都美」

「うん、知ってる!」


 そう言って三都美は、昌高に向かって飛びつく。

 昌高も両腕を広げて、胸に飛び込んできた三都美をがっしりと抱きしめた。

 そして見つめ合う二人。

 静かに三都美が目を閉じる。

 昌高もその合図に応えるようにそっと顔を寄せ、三都美の唇に自分の唇を――。




『コラ、コラ。あたしのファーストキスはそんなに安くないよ、このバカー!』


 思わずあたしはキミの頭をはたく。しかしその手はキミの身体をすり抜けて、ただの素振りに終わった。これで最後。


「え、どうして。小説の中に戻ったはずじゃ……」

『まだだよ。まだ完結になんて、してあげないんだから』

「でもそれじゃ、いつまで経ってもハッピーエンドを迎えられないですよ?」


 ビックリしてるキミの目は、真っ赤に泣き腫らしたまま。あの後でキミはきっと、涙が枯れるほどいっぱい泣いたんだろうね……。

 キミをこんなに泣かせたのは、そもそもあたしが無責任にけしかけたせい。

 そして、そんな傷心のキミにこのエピローグを書かせたかと思うと、あたしは罪悪感で押し潰されそうになる。


『いいんだよ、もうちょっとだけ延期。キミを泣かせっぱなしのまんまじゃ、あたしのハッピーエンドは永遠にやってこないよ』

「それじゃぁ、ミトン……」

『そんな、みんなが呼んでるあだ名じゃなくて、名前で呼んで欲しいな』


 たった今書かれたキミのセリフを、なぞってみせるあたし。

 キミもあたしの言葉を受けて、続きのセリフを口にする。


「わかった。好きだよ、三都美」


 そのキミの言葉に、あたしの心が激しくときめく

 ただのノリでもいいよ。ありがとう、その言葉を言ってくれて……。


『うん、知ってる! でもね、小説が完結したらあたしの未来はそこで終わり。だからまだ終わらせないで。もう少しだけ、キミと物語を続けさせて?』

「本当に? もちろん。喜んで」


 あたしの言葉を聞いて、明るい笑顔になってくれたキミ。その顔を見て、あたしも幸せで胸がいっぱいになる。


『で? キミはたった一回の失恋で、もうあたしのことを諦めちゃったのかな?』

「まさか。そんなに簡単に諦められるわけがないですよ」

『ほほう。そうなると、さっそくあたしの出番かな?』

「はい、どうしたら三都美と付き合えるようになりますか?」

『あたしを口説きたいのなら、あたしに任せておきなさい!』


 あたしは自信たっぷりに胸を叩いてみせる。

 そして決して重ねられないキミの唇に、あたしの方から唇を重ねた……。


(完)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あたしを口説きたいのなら、あたしに任せておきなさい 大石 優 @you

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ