第4話 警告

陽が高くなる中、船は針路通りに航行し続ける。

針路135°速力15ノット。

もう陸地と無線はつながらず、周りを見渡してもほとんど船はない。


コーヒーを入れていたコップもすっかり乾いているが、

もう一杯という気にもなれない。


たまに他の船舶同士の交信がVHF無線に入ってくるくらい以外は何も起きない。

船舶同士が交差する針路を進む場合、自分から見て右に位置する船が自船の前を横切る状態で衝突の恐れがある時には右に舵を切って衝突を回避しなければならない。


回避行動をとらなければならない船舶が漁網などを引いていて操縦性能に制限がある場合は例外だ。

どんなに小さな漁船であっても巨大なタンカーが避けてくれる。


「漁網を曳いている標識でも揚げてたら避けなくていいから積んで来ればよかったなー。」


もちろん、そんなことをしては法律違反だからやる意図は毛頭ないが、

針路を変えなくてもいいことを羨んでいたのは事実であった。

しかし、漁網を曳いている船は網に引っ張られ危険が付きまとっているのだから、

針路の維持が楽じゃないということも当然わかっていた。

その程度のことは船に乗っている人間ならだれでも知っていることだ。

暇な時間が続くとバカげたことを考えてしまうものである。



その静寂を打ち破るように無線に声が飛び込んできた。



「こちら海上保安庁です。東経127度37.4分、北緯24度40.3分、針路135°速力15ノットの船舶聞こえますか、どうぞ。」


「無線感度良好です。どうぞ。」


そう応答すると巡視船から無線のチャンネル変更を促される。


「16chから12chに変更お願いいたします。」


その要請に従って無線を切り替え感度の確認を行う。


「12chに切り替えました。感度いかかでしょうか。」


そう問いかけると相手から反応が返ってくる。


「こちらも良好です。貴船の目的地及び入港予定地及びその時刻を教えていただけますか。」


「目的地は------、入港予定地は------、入港予定時刻は17:30です。」


そう返答して船検証の確認などを行った後にドキッとする言葉をかけられた。


「その大きさの船舶では転覆しやすいのでお気をつけてください。」


そんなことはわかってる。

わざわざ言われなくても。

この船はそんなに大きくはない。


「お一人ですと何かあったら大変ですから、無理はなさらないでください。」


それだってわかってる。

一人での航海が危険なことぐらい。


「積乱雲が発達しやすい時期なので気象レーダーには常に注意してください。」



本当は分かっている。

自分が無茶なことをしていることぐらい。


それでも、たとえどんなに困難な道であっても、

何かを実現するために努力をし続けたい。

壁にぶつかっても諦めたくない。


まだ見えない水平線の先に進み続けたい。

何も得られなくたっていい。

ただ前に向かい続けたい。


「了解しました。」


そう答え無線を16chに戻した。



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その水平線を越えて 郵便ポスト @kureside

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