40.解呪 【FINAL】



 ……それから。


 あっという間に1週間がすぎた。



 『カフェ・神月』の営業は、順調そのものだ。


 連日満席。


 行列も、あとを絶たない。



 僕らスタッフ7人は、忙しい毎日を送っている。



 カンナギ。


 フレデリカ。


 ユウリ。


 ハルカ。


 アイ。


 ナヅキ。



 そして僕、マモル・フジタニ。




「お会計は、銅貨8枚になります! またお越しくださいね!」



 カンナギが人懐っこい笑みを浮かべ、会計対応をしている。


 そのニコニコした笑顔は、お客さんだけでなく。


 僕らの心にも、大きな癒しを与えてくれている。




 そういえば。


 この間、カンナギにひとつ質問をしてみた。


 ちょっと、興味があったんだ。




『カンナギはいつもニコニコしてるけど、怒ったことはあるの?』




 すると。


 カンナギはにこやかな笑顔で、こう返した。




『もちろんありますよ? ワタシ、敵や悪人には容赦しませんので!』




 その笑顔には、何ともいえない迫力があり。


 カンナギだけは、絶対に怒らせちゃいけない、と。


 僕は心に、固く誓ったのだった。




「お待たせ……いたしました……」



 フレデリカが少しだけ危なっかしい手つきで、お客さんに紅茶を配っている。



 先日フレデリカが言っていた、『カフェ・神月』で働きたいという話。


 それをナヅキとカンナギに伝えた結果は、もちろんオッケー。



 かわいらしく、とてとてと店内を走り回る姿は。


 『カフェ・神月』のマスコット的存在として、定着しつつある。




 そういえば。


 フレデリカが働くようになってから。


 必ず毎日やって来る、お客さんがいる。




「おお、見るのだ大臣! フレデリカが見事な手つきで、紅茶をテーブルに置いたぞ!」



「くう……っ! 姫さまのこんな立派な姿が見られるとは……! 国王陛下! この大臣、感無量でございます!」




 あれがフレデリカの言っていた、パパとじいやさん……なのかな?


 それにしても国王とか、大臣とか、姫とか……何かの暗号か?


 まさかここに、ホンモノの王族が来るわけはないし……?



 ううむ、謎だ。




「いらっしゃいませー!」



「どうぞ、こちらのお席へ」



「ご注文は、何になさいますか?」



 ユウリは明るく、ハルカは冷静に、アイはしとやかに。


 3人で連携を取りながら、お客さんを次々とさばいていく。


 バツグンのコンビネーションは、戦いの場だけにとどまらないみたいだ。




 そういえば。


 次の店の休みは。


 4人で、僕らの故郷――『フューチャ村』を訪れる予定だ。




『お父さんや村のみんなのお墓、作ってあげましょうよ!』



『お花もいっぱい、持っていこうね』



『ハルカお嬢さまのお姿を拝見すれば、天国のファーザさまも喜ばれますわ』




 いつの日か、僕たちの手で。


 廃墟になってしまった『フューチャ村』を、復興させたい。


 今はそんな夢も、心に抱いている。




「マモルくん、ごめんなさい。ちょっと、『死神』の仕事で抜けるわ」



 ナヅキは、カフェの仕事はもちろんのこと。


 『死神業』の方も、熱を入れてこなしている。



 ナヅキいわく。


 ファーザ叔父さんの一件が、自分を見つめ直すきっかけになったんだとか。




『これまでの私は、『死神』としての自覚が甘かった。亡くなる方への敬意が、足りなかったと思う』



 そして。



『これからは。逝く人の心に少しでも寄り添えるように、全力で努めていきたいの』




 と、ナヅキは語っていた。



 今は事前に、亡くなる人の経歴をしっかり把握した上で。


 最期の場では。


 現世に悔いを残さないよう、ふさわしい言葉をかける。



 そんなことを意識しながら、『死神業』に励んでいるんだとか。




 そういえば。


 この前、気になる出来事があったんだよな。



 ちょうど、店がものすごく立て込んでいた時間帯だった。




『あ、きゃ、きゃああああああっ!?」



『ナヅキ、あぶない!』




 ナヅキがつまずき。


 僕が助けようとして。 




 むぎゅっ! ちゅっ!




 またしてもナヅキと、うっかりキスをしてしまった。


 その瞬間。




 ファッ……。




 一瞬だけど、確かに感じた。


 消えたはずの、『いにしえの勇者パーティー』の力が。


 僕の中に、ふくらんだのを。




「まさかとは思うけど……」



 いつの日か。


 『力』がよみがえる、なんてことは……?


 いや、それはさすがに――。




「すみませーん! 注文いいですかー!」




 おっと、ぼーっとしてる場合じゃない!


 お客さんを待たせちゃいけないな。



「お待たせいたしました」



 僕が向かった席にいたのは、2人組の若い女性だった。



「へー! 男の店員さんもいるんだー!」



「ここの店員さん、性別関係なくレベル高すぎじゃない!?」



「ははは……」



 どう答えるべきかわからず、乾いた笑いを浮かべていると。




「そういえば! お兄さん知ってる? 魔王ジョウカーが倒されたって話!」




 あ……。



「やっつけた人って、結局誰だかわからないのよね? どんな人なのかなぁ?」



「そんなの、正義の心を持った勇者様に決まってるわ! 人類を守るために、命をかけて世界を救ってくれたのよ! お兄さんも、そう思うでしょ?」



「…………」



 少しだけ、考えたあとで。



「……いや」



 僕はゆっくりと、首を振った。




「もっと……個人的な理由だと思いますよ」




「えっ?」



 目を丸くする女性たちに、僕は続ける。



「正義の心なんてのは、これっぽっちも持ってなくて。自分の周りのことしか、見えてなくて。どうしようもなく、自分勝手で」



 そう。



「ただ単に。どうしてもやりたかったことを、貫き通しただけ……じゃないかなって。僕はそう、思うんです」



 ふっと笑い、僕は締めくくった。



「もちろん、ただのカン……ですけどね」





 僕たちがこれから、どんな未来を迎えるのか。


 それは、わからない。


 復讐は復讐を生むだけ、なのかもしれない。



 それでも、今は。



 ようやく訪れた、平穏な日々に。


 心の底から、浸っていたい。



 『復讐』という名の呪いは、『解呪』された。



 僕たちの止まっていた、時計の針は。


 今ようやく、動き出したばかりなのだから……。





最強解呪師の復讐 ~勇者パーティー追放された解呪師、迎えの死神とうっかりキスして無敵の力に覚醒、圧倒的最強になってしまいました。この無敵の力で10年前、僕のすべてを奪った犯人へ復讐します。~



 FIN.


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最強解呪師の復讐 ~勇者パーティー追放された解呪師、迎えの死神とうっかりキスして無敵の力に覚醒、圧倒的最強になってしまいました。この無敵の力で10年前、僕のすべてを奪った犯人へ復讐します。~ カズマ・ユキヒロ @2148258

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