魔法少女の白雪さんはプロデュースされるようです!

いヴえる

魔法少女の白雪さん!


 俺の名前はかぶらぎ鏑木 咲人さきと。高校3年生。趣味はナンパとプロデュースである。

 だがそんじょそこらのナンパ野郎と一緒にしてもらっては困る。

 硬派な軟派!! それが俺の美学。可愛い子に片っ端から声をかけるような事なんてしない。


 まずはターゲットを絞る。ケバケバした女や遊んでそうな女は論外。俺の守備範囲外だ。

 狙うのは原石。そう! まだ垢抜けない磨けば光る女子!!


 そんな女子を狙って落とす。そして磨く!!

 磨きに磨いて、老若男女誰もが振り返り、嫉妬し、羨望する子に仕上げる!!

 磨き終わった瞬間の快感と余韻……。女の子の笑顔……。これは得も言わぬ俺だけのカタルシス。

 まぁ一種のプロデュースと言えよう。

 とにかく、ナンパとプロデュースに命をかける。それが俺、鏑木咲人の趣味!! 趣味である!!


 だが、何故こうなってしまったのか…………。





「ねぇ、咲人くんになんて口聞いてんの……? オラッ、オラッ!!」


「ぐぼっ! ごべっ! か、勘弁してくれぇ……」


「俺らが悪かった!! ごばひっ!!」



 まさに惨状。うえっぷ


 薄暗い路地裏。どこからか風鈴の音と、風に乗って漂う焼き鳥の香り。そういえば隣は焼き鳥屋さんだったな。


 っと違う。そうじゃない。


 俺の目の前に横たわる完全にそっち系のお兄さん2人組。イカつい格好で明らかに悪そうな奴らだ。


 それが目の前で這いつくばりながら、明らかに魔法少女の姿をした女の子に折檻されていた。


「ほらっ! 謝んなさいよ!! ほらっ!!」


「ぐぼあっ! す、すいまグボヘッ!」


「も、申し訳あべしっ!」


「聞こえないわよ!! 何!? なんて言ってるの!?」


 あっち系のお兄さん達が魔法少女にボコボコにされるの図。


「どーしてこうなったぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 時間は3時間前に遡るのであった……。



 ━━━━━━━━━━━━━━━



「おっ! いたいた。……うむ、今日も地味だな」



 俺の目線の先にいるのは白雪しらゆきゆいひめ。どこにでもいる普通の女子。どころか結構地味系女子。

 ポニーテールと大きなメガネ。長い前髪で顔が隠れ、表情は伺い知れない。

 休み時間は読書をしながら時間を過ごし、授業中は発言はあまりしない。お昼はお弁当持参で外のベンチで食べてる。

 物静かなどこにでもいる女子。


 だが!!


 俺には分かる! メガネで隠されちゃいるが、長いまつ毛にクリっとした大きな瞳。高い鼻に着痩せするだろうボディライン。意外と長い足! あれは脱いだら絶対ナイスバディだ……。

 別によからぬ事を考えてる訳じゃない……俺はプロデュースにも命をかけてるからな……。

 そして、あの子は磨けば絶対に光る!!

 俺の勘がそう言っている!!



「あっれ〜ゆいひめじゃーん! また読書なんかしてんの? くっら! 」


「あんたいつも1人よね? 友達いないの? ウケるんですけど」



 で、でたー! クラスカースト上位の麻宮と飯島ぁぁ。

 俺の一番嫌いな上から目線系ギャルだぁぁぁ!!




「ちょっと、聞いてんの!?」


「あ、あの……すいません……」



 ちょっと聞いてんのって、そんなん何て答えんだよ!アホか! 頭の足りない奴らめ!

 白雪さん気にするなよ!!



「もう行こうよ、こいつに構っててもつまんないし」


「そうねー。そういえば駅前にスイーツ食べ放題のお店ができたって! 今日行っちゃう〜?」


「やば! マジ上げなんですけど! モチのロンっしょ! 早く行こ!」



 お前らは永遠に甘いもんでも食ってろ!! そんで豚みたいに太って激烈な虫歯に苛まれて一生ブーブー言ってろ!!

 ……それにしても白雪さん、大丈夫か……?



「……はぁ。帰ろう」



 ちょっと落ち込んでるなぁ。普段の俺だったら準備が整うまでは絶対に仕掛けないんだが……、

 ちょっくら行ってみるか。



 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 校舎前下駄箱



 俺的ナンパ極意その1、「偶然を装う必然」


「あっ!」


「おっと、ゴメン。大丈夫?」


 靴を取って振り返る瞬間に後ろにわざと割り込み衝突を演出!!

 フハハハハ!!

 これはどこからどう見ても自然とぶつかってしまった感じだ! まさに不慮の事故!


「あれ、同じクラスの白雪さんだよね。怪我はない?」


「あ、はい。大丈夫ですから」



 軽い衝突。それはそうだ。これは偶然の衝突を装った必然の衝突。怪我などさせないよ!!



「良かった。ごめんね。それじゃ……あれ?」


「あ、はい。……?」



 そしてここで第2の極意、「ターゲットの趣味嗜好は徹底リサーチ」!



「それ、キラマジのシオンのキーホルダーじゃない? 白雪さんキラマジ好きなの?」



 土曜朝7時半から放送中のキラッと!マジカルガール!!

 正直全く興味はないけど、白雪さんがこのアニメのキーホルダーをつけてるのは既に確認済み!

 アニメ1話から98話と劇場版3本。そして公式設定本も既に購入して読破したぜ!

 こういうのは興味がなくても見始めると意外とハマっちゃうんだよな。最後の方は結構ハラハラしながらモニターにかじりついて見てたぜ。



「え、鏑木君。こういうの見るの?……その、文武両道でこういうのは見ないと思ってたから……」


「あぁ、全然見るよ。お母さんも好きでね、こういうの。いつの間にかハマっちゃって劇場版も全部見たんだ」


「本当!? 凄い! 高校生でこういうの見てる人ってあまり居なくて……キラマジの話を学校で初めてしたかも」




 おっ! 食いつき良いねぇ!! やはりこの極意その2は、相手がハマってればハマってる程、そして自分のリサーチの理解度が深ければ深いほど効果がある。

 そして極意その3、「相手にギャップ萌えさせるべし」も発動している。

 俺はナンパに命をかけているが、普段チャラついた姿なんて見せない。部活は入ってないが、学校内で活躍できるよう基礎的な自主トレや空手と合気道なんかも毎日してるし、学業も手を抜いてない。こういう地道な努力の積み重ねがナンパの成功に繋がるのだ。



「良かったら一緒に帰らない? 白雪さんキラマジ好きだったんだねぇ」


「あ、はい。私は……大丈夫ですよ……」



 メガネの奥の白雪さんの綺麗な瞳が揺れる。

 っく〜! 原石だ! それもダイヤの!

 俺の見立てに間違いは無かった。キラマジのテンション熱いままに、さりげなく一緒に帰る約束を取り付けた!


 だが焦るなよ俺。勝負はまだまだこれからだ!!



 そして学校の帰り道。



「キラマジは本当に凄いんです。世界観の設定から各キャラクターのバックボーンの設定、重要な性格や生い立ちまでしっかりと納得させるだけの説得力がちゃんと描かれていて、しかもアニメ化の監督もその辺をちゃんと理解してて、作画にも手を抜いてないバックボーンの描写や戦闘シーンまで原作に忠実かと思いきや、視聴者をあっと驚かせるような……あ、これはいい方の意味での話なんですが…………ペラペラペペラペラ」


「あ〜、そうだよね。劇場版の監督もアニメと一緒で……」


「そうなんです! 鏑木さんすごいよく見てますね!! 劇場版は作者さんとアニメ制作会社のオリジナルストーリーでありながら、既存のアニメの世界観を崩すことなく上手く話に繋げていて、戦闘シーンや今までの作画のクオリティはもちろんの事BGMやオープニングエンディング、SEにまでしっかりとしたこだわりがあって、なんでもシーン136……あっこれはシオンが真の敵の正体をを知った時の胸のうちの悲しみを表現する時の効果音なんですけど…………」



 やべぇ。ガチだ。ガチガチのガチだ。

 いや、準備しててよかったー。公式設定本まで読み尽くしてもまだ話についていけない部分すらある。実際制作現場にいたんですか?ってぐらい詳しい。


 こういう事があるから極意その2はしっかり準備しておかなきゃならない。好感度を上げる必殺の極意だけど、不十分な場合があると相手の熱を一気に下げてしまうことがある。



「流石白雪さんだね。SEの話は初めて聞いたよ。公式設定本は読み尽くしたつもりだったけど、まだまだだな。……良かったらそこの喫茶店にでも入らない? ……俺、まだ白雪さんと話していたいな」


「いえ、そんな……。鏑木さんも凄く……ってえ、……私と話していたい…………?」


「勿論、白雪さんと話してるのすごく楽しいよ。もっと話していたいな……。…………ダメかな?」


「あっ、……あの、……その……私」



 どうだぁぁぁぁ!!

 白雪さんの頬が見る見る内に赤くなっていく! キラマジの話をさせつつ、我に返る前にジャブを打ち込んだ!

 引っ込み思案で自分に自信がない子……、こんな子には遠回りに行くより自分の好意の感情をストレートにぶつけてしまう方が良い。

 まぁぶつける好意の感情は、いきなり好きです! とかではなく、あなたといると楽しいね! ぐらいが適量だろうな。

 用法用量を守って正しく使うべし。



「は、はい……。私なんかで……良ければ」


「ホントに! ありがとう。じゃ行こ!」



 そうして俺は白雪さんと共に近くの喫茶店に入っていった。極意を守りつつ、白雪さんに気持ちよく喋ってもらい、さり気なく合間合間に俺の好意を滑り込ませていく。

 仕掛けは順調に功を奏し、日が暮れる頃にはすっかり白雪さんと仲良しになっていた。


 そう。



 ここまでは、順調だったんだ。




 ここまでは……





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「えっ! もうこんな時間!? いけない! 私もう帰らないと!」


「あっ! ゴメンね白雪さん! オレのせいだね……。送ってくよ!」


「えっ、そんな。鏑木君のせいじゃないよ。その……私こんなに楽しくおしゃべり出来たの初めてで……。凄く楽しくて時間忘れちゃって」


「それは良かった。それじゃあ……「あの!」」



 白雪さんがおもむろにメガネに手をかける。顔を隠していた大きなメガネが透き通るような白い指先に攫われて、その素顔をあらわした。


 メガネが大きかったからって顔が見えてなかった訳じゃない。

 だけど、そこには全く別の誰かがいた。



「また、お話できますか?」



 ああ、なんてこった。

 俺の想像なんて軽く飛び越えてきた。

 まるで全てを拒絶していたような長い前髪が白雪さんの手でかき分けられる。

 そこからあらわになった透き通るような白い肌。クリっとした大きな目に映る、穢れのない青い空のような瞳。

 吸い込まれそうになる薄い桜色の唇。


 白雪さんの瞳は真っ直ぐに俺へと向けられている。



「もちろんだよ。白雪さん」



 ダイヤの原石なんてもんじゃなかった。比べるのすらおこがましい。

 この子は俺が今まで出会った女子の誰よりも、可能性を秘めている。

 プロデュースしたい、したい、したいしたいしたいしたいしたいしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!



「あ、あの! か、鏑木君……」


「…………え? あっ!ああ! ご、ごめん!」



 気づいたら白雪さんの肩を両手で掴んでしまっていた! やべぇ! 俺としたことが興奮しすぎた!!


「お、送ってくよ! 早く家に帰らないとでしょ?」


「う、うん」



 ………………良かった。あまり嫌がられてない……かな?

 軽々しく女の子に接触するなんて愚の骨頂。俺はチャラいナンパ野郎なんかじゃあない。落ち着け……落ち着け。



 そして会計は俺が持ち、喫茶店を出た。

 既に空は暁の名残を残し、月夜が息づき始めた夜の繁華街を照らしていた。



 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




「すっかり暗くなっちゃったね。急がないと、道はこっちであってる?」


「う、うん……」


「なんかキラマジまた見たくなっちゃったな。家に帰ったらもう一周しようかな!」


「うん……そうだね……」



 や、ヤバい。白雪さんがあまり喋らなくなってしまった。やっぱり無意識に肩を掴んでしまったのがまずかったか!?



「あ、あの!」


「え?」


 突然声を上げた白雪さん。……顔が真っ赤だ。俺まだ何も仕掛けてないけど……。何故?


「鏑木君て……その、……お、お付き合い…………」



 バタン!!



「キャ!!」


 何かに当たりよろめく白雪さん。咄嗟に家で練習していた女の子をふんわり受け止める動作を発動させ、転ばぬように支える。


 って……げぇ




「ってーなぁ。なんだこらガキィ!!」



 完全にそっち系の人2人組……。まじかァ……。このタイミングちゃうやろ…………。



「おぉい、こいつ骨が折れてんなぁ! あぁ!? どうしてくれんだよ!! あぁ!?」



 いやいや、そんなんで一々骨が折れてたらお前の日常生活どないなっとんねん。

 分かりやすい嘘を……



「あ、あの。すいません!! 私、前見てなくて……」


「そぉんなんこと聞いてんじゃねぇぇぇんだよ!!! どうするかって聞いてんだよぉぉ!! あぁ!?」


「お前彼氏かぁ!? あぁ!? 慰謝料払えやぁ? お? 払えるよなぁ? あぁん? 」



 あ行が多いな語尾に。しかも骨が折れて慰謝料って。まず医者行ってこいや。


 ったく。面倒な。とりあえず1発殴らせてからボコボコにするか? しかし、白雪さんに暴力的な姿を見せる訳には……



「あの! 私が悪いですから! 鏑木君に乱暴しないで!」


「うるせぇ!芋くせぇ女はすっこんでろ!!」


「きゃ!」


「白雪さん!! おいお前!」



 俺に迫る2人に白雪さんがすがりつく。だが、片方の奴が手をパンと払いのけると、白雪さんは尻もちをついた。

 だんだん人の目が集まり、ザワザワし始める。



「ッチ。おいガキ、お前ちょっとこっち来いや」


「へへへへ」



 無理やり腕を引っ張られ、路地裏に連れていかれる俺。……はぁ。しょうがない。やるしかないか。



「ま、待って!鏑木君!」


「白雪さん。大丈夫だから。ここにいて、ね?」


「そんな、鏑木君!!」



 そうして俺は路地裏の奥へと引っ張られていく。ビールケースが積み上げられた路地を抜け、くつろいでいた野良猫を強引に追い払いながらチンピラ2人は俺を前後で挟み、進んでいく。




「さてぇ? お前、いくら出せんだ? あぁ?」


「はぁ? あんたらだって前方確認してなかったんだろ? お互い様だろ」


「んだとぉこらぁ!!! 痛い目見ねぇとわかんねぇか??」



 チンピラの片方が俺の襟をつかみ引き寄せる。顔近! 息臭!! 歯磨きしてんのかこいつ。



「そうだなぁ、50万だ50万。キッチリ払ってもらおうか。嫌とは言わねぇよなぁ!?」


「え、嫌だけど」



 50万て……。高校生相手にふっかける額じゃない……。もうちょっと考えて話せよな……。



「てめぇ!! 1発ぶん殴ってやる!!」



 ……はぁ。しょうがない。痛いのは嫌だけど、正当防衛するためには殴らせないと……。

 最悪逃げて、交番に突撃でも良いな。

 とにかくここを切り抜けよう。白雪さんのためだ。

 そして、チンピラが俺の顔を殴る寸前、それは聞こえた。





「ラブエナジーパワー!!マジカルメタモルフォーーーーゼッ!!!」






 へ?





 あまりに場にそぐわない台詞。俺もチンピラも思わず後ろを振り返る。

 すると、とてつもなく眩しい何かが俺たちの目に飛び込んできた。

 思わず目を瞑る。そして、うっすらと目を開いた。そこには




「鏑木君を離してください!!!」





 魔法少女に変身した白雪さんがいたのだった。





 ━━━━━━━━━━━━━━━

 あとがき


 思いつきで1話書いてみました。

応援イイネ、評価お待ちしております!

 反応が良さそうなら続き書いてみます!

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魔法少女の白雪さんはプロデュースされるようです! いヴえる @iveel

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