SNSとリハビリと「お前が言うな」
@HasumiChouji
SNSとリハビリと「お前が言うな」
俺が見せられたのは、Z新聞の誤報を批判している投稿だった。
俺はマスゴミ嫌いだが……俺にとっては、Z新聞はマスゴミの中ではマシな方だった。
そして、問題は、その投稿の主だ。
俺にとって、最悪のマスゴミであるB新聞の記者だったのだ。
「SNSをやめる気がないのなら、一〇分以内に、この投稿にレスポンスを付けて下さい。ただし、レスポンスを付けるまでの時間が三分未満だった場合は、何も考えていない脊髄反射的な反応と見做して『指導』を行ないます。では、カウントダウン開始」
リハビリの
SNSやめます……許して下さい。
そう言えば楽になる事は判っていた。
だが、そう言ったが最後……俺は生き甲斐を失なう。
俺は、SNS上ではアニヲタのフリをしてるが……気付いた時には、アニメを観る時間を惜しんでSNSへの投稿をやるようになっていた。ここ数年のアニメに関する俺の知識は、SNSに流れてくる感想を元にしたものだ。
気付いたら……好きなモノなど無くなっていた。
SNSを除いては。
SNSをやめたら、俺は単なる抜殻だ……。
けれど……。
恐怖……「指導」への恐怖で考えがまとまらない。
時間は迫る。
SNSを続けるには……何か……レスポンスを付けるしか無い。
『お前が言うなwwwwww』
俺が、そうレスポンスを付けた瞬間……。
「うぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃッ‼」
死なないが苦痛の余り糞小便を漏らす場合が有る程度の電撃による「指導」が行なわれた。
始まりは昨日の朝だった。
起きた直後にスマホを見ると、SNSの運営からメールが届いていた。
『貴方は居住している国または地域の法律に違反する投稿を、ここ一週間で規定回数以上行ないましたので、公的機関への通報を行ないました。貴方のアカウントはリハビリを終えるまで凍結されます』
え?
何の事……?
だが、その時……朝の七時前にも関わらず、玄関のチャイムが鳴った。
何がどうなってるんだ?
恐る恐る玄関に向かい……。
「居るのは判ってます。早く開けて下さい」
低く野太い男の声。
ドアを開けると……ダークグレイの背広の2人組の中年男。
「こういう者です」
2人の男が見せた身分証に記載されているのは……
「えっ?」
「で、こちらが令状。貴方には、これからリハビリを受けてもらいます」
ちょ……ちょっと待て……。
「あ……あの……何の……?」
「だから、SNS依存症のリハビリですよ」
い……いや、ちょっと待て……身分証と令状が本物だとしても……この人達の所属先とSNS依存症の間に何の関係が有るんだ?
でも、令状に書かれている名前は……確かに俺のモノだった。
「あ、勤務先には我々から連絡しておきますのでご心配なく」
「あ……あの……もし、SNS依存症だと勤務先に知られたら……その……査定なんかが……」
「そう云う話は、リハビリが終ってから勤務先の上司や……総務か人事とやって下さい。あ、貴方には前科が付かない代りに、拒否権も黙秘権も弁護士を呼ぶ権利も有りませんので、あしからず」
PCの画面に表示されているのは、SNSで良く見掛ける「お前がそう思うんなら、そうなんだろ。お前ん中ではな」の画像。
だが……俺は、その画像を貼り付けたくなる誘惑に抗い……その投稿への批判を一〇分以内に一四〇文字以下にまとめる事が出来た。
問題の投稿は……俺が嫌いな某野党の政治家による首相への批判だった。
俺にとっては、的外れな批判に思えたが……そうだ……今までずっと、どこが的外れなのか、自分でちゃんと考えた事が無かった。
リハビリの
ここ半月の間、俺は洗脳を受けていた。
そうだ……
「SNSの運営には、貴方のアカウントの凍結を解除するように連絡しておきます。本日でお帰りいただいて結構です。最後になりますが……もし、今後も、貴方が気に入らない意見に対して脊髄反射的な反応をしたくなったら……一〇分間だけ、気持ちを他の事に逸らして下さい。可愛い猫の動画を見るとか、グルメサイトを眺めるとかね……。一〇分間だけ、気持ちを他の事に逸らせれば、衝動は消える筈です」
「は……はぁ……」
SNS依存症になっていたクセに知らなかったのもマヌケな話だが……SNS上で、ネット上で拾った画像を貼り付けたりだの「お前が言うな」だののワンフレーズで相手を論破したつもりになってるらしいヤツは、強制的にリハビリを受けさせられる法律が、いつの間にか通っていたらしい……。
「あの……最後に聞きたいんですが……不勉強で良く判んないんですが……何で、俺をここに連れて来たのが
「いや、貴方のやってきた事は麻薬と似たようなモノでしょ」
「へっ?」
「だって、依存症になりやすく、やればやるほど頭がバカになり、一度抜け出せても、何かの拍子にあっさり再発する」
SNSとリハビリと「お前が言うな」 @HasumiChouji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます