悪魔のささやき

奇妙な感触だった。なんか、生き物の体に手を突っ込んだというよりは、濃い煙の塊に差し込んだみたいな、『何となく何かに触れてるような気もする』程度の感覚しかなかった。


「なんだこれ!?」


慌てて手をひっこめると、本当に煙が渦を巻くようにしてぐるりと一つ目の怪物の体が裏返り、霧散するようにふわあっと消えていった。本体に遅れて伸ばされた触手も消えていく。


「まあ、そういうことだ。お前はこれを、二百万秒の間、繰り返せばいいだけだ。簡単だろ?」


クォなんとかがやっぱりにやにや笑いながら話しかけてくる。すると、


「ああそれから、私は『クォなんとか』じゃないぞ、クォ=ヨ=ムイだ。名前なんか別に重要じゃないが、そこまでいい加減なのはちと気分が悪い」


口に出してた訳じゃない筈のそれを指摘されて、僕はギョッとなってしまった。こいつ、心まで読めるのか。


「神を『こいつ』呼ばわりとは、恐れを知らん奴だな。だがまあいい。お前が倒さなきゃならん<敵>の数は三百。一日で十三体以上片付けなきゃ間に合わん。しかも、後になればなるほど犠牲者も増えていく」


一方的に喋る、え、と、クォ=ヨ=ムイだっけ?に、僕はまたも訊き返していた。


「一日で十三体以上片付けなきゃって、その言い方だとそれなりに頑張らないと十三体以上片付けられないってことですよね? こいつら一体、どれぐらいの範囲にいるんですか? 『世界を救う』ってことは、世界中に散らばってるってことですか?」


やけに丁寧な話し方になってることに自分でも内心苦笑いしつつ、気になることとして確認しておかないとと思ったんだ。


するとクォ=ヨ=ムイはこともなげに、


「まあ、世界中に散らばってるよなあ。数はたったの三百だが、正直、人間の世界を終わらせるだけなら三百でも多いくらいだな。今の人間が持つ兵器ではこいつは倒せんし。核攻撃ですらこいつには通用しない。今、人間でこいつらを倒せるのはお前だけだ」


と言い放った。


それに対して僕は問い掛ける。


「そんな、世界中に散らばってるような奴をどうやって倒していけばいいんですか? どこにいるのか……!」


とまで言いかけたところで、僕の頭の中に何かがよぎるのが分かった。まさかと思って意識を向けてみると、それはあの怪物達の<現在地>だった。何故かそれだと分かるんだ。


そんな僕の様子を見て、クォ=ヨ=ムィはまたもニヤァと邪な笑みを浮かべる。


「そういうことだ。ちなみに移動手段も心配要らん。お前が望む任意の位置にお前は存在することができる。どうだ? これで納得がいったか?」


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