忘年会 - 柚羽 - 第2話 これから

「ここでこんな形でするのは、もう最後だから、今日は来てくれてありがとう」


「部屋決まったの?」


真依の家は元々は両親の家で、両親が田舎に引っ越して以来真依が一人で住んでいた。


わたしも転がり込んでお世話になったことはあったけど、姉との同棲生活を始めるに当たって引越を考えているとは聞いていた。


「うん。もう契約は済ませた、って契約者は葵さんだけどね」


引越をすることが決まっているから、3人で最後に忘年会をしようと声が掛かったのだろう。


「この家はどうするの?」


「お正月に田舎に帰った時に話をするつもり。貸すのか売るかは親に任せようって思ってる」


「折角家があるのに、もったいない」


「でも、ここは私が育った家だから、例え私の両親が許したとしても、私は住みづらいだろうって、葵さんが言ってくれたんだ。何年も一緒に住んでいたら、私と葵さんの関係だって、近所の人も気づくでしょう?」


「そっか……ここ分譲だし、近所づきあいもあるよね」


「うん。周りに理解して貰えるのがいいんだけど、葵さんとのことで、今までの関係が壊れるようなことになったら辛いでしょうって葵さんが言ってくれたんだ」


「後悔しないの?」


それに真依は大きく頷く。そんなに迷いなく、頷かないで欲しいけど、それが今の姉と真依の関係性なんだろう。


「私が葵さんといるって決めたから」


その答えにわたしは深く溜息を吐く。


「柚羽?」


「なんかさ、わたしが仮に真依とつき合えてたとして、そんな言葉を真依に言って貰えるかな、って思った」


「どうだろう。葵さん、しっかりしていそうで、全然そうじゃない所もあって、目が離せないんだよね。私が傍にいないとって思っちゃった」


「情けないのに、ほんと腹立つよね、この人」


そう言って床に突っ伏している存在を示す。


「最近は柚羽の方がお姉さんらしい気がする」


「わたし、保護者じゃないんだけど」


「柚羽」


改めて名前を呼ばれて、真依に視線を合わせる。


姉と付き合い始めて、悔しいことに真依は綺麗になったと思う。


その直視が少し辛い。


手を伸ばさないというのは、わたしが自分で決めたことだ。


「なに?」


「無理はしないでね。私と葵さんはこうして柚羽とこれからも会いたい、一緒に騒ぎたいって思ってるけど頑張らなくていいから」


「真依……」


「無神経なのは分かっているんだ。でも、葵さんにも私にも柚羽は大事な存在だから、こうして時間を過ごしたくて声を掛けるけど、柚羽の心に無理をさせる必要はないから。絶縁されても仕方ないって覚悟はしてる。柚羽の今の気持ちを教えて?」


「……最近慣れてきた。想いを整理できていない所はあるよ。でも、それ以上に真依はお姉ちゃんじゃないと駄目だって分かったから」


「どうしてこんなに葵さんだけが特別なのかなって思うくらい」


「そういう惚気はいりません」


蕩ける笑顔は一人だけがさせられるもので、眩しくて仕方がない。


「そうだ。柚羽、ちょっと早いけど、これ。クリスマスプレゼント」


そう言って真依は近くの棚から小さな箱を取り出す。


差し出されたそれを受け取って、開けてもいいかを問う。


「うん。大したものじゃないけど、葵さんと私からの」


真依からだけでいい、とは思ったものの包装を解いて、箱を開く。


アクセサリーボックスのようなものを開くと、そこにはシルバーのネックレスが収められている。


小さな天使のチャームがついているそれを手に取って持ち上げる。


「わたしの柄じゃなくない?」


「そうかな? 羽根が柚羽っぽいなって思って選んだんだ。柚羽、もうちょっと髪を伸ばせば似合うようになるよ」


わたしの名前に羽がついているからだとは想像できたけれど、真依の中では天使のようなイメージを持ってくれていることは嬉しい。


「それは髪を伸ばせってこと?」


「髪が長い柚羽は可愛いだろうなって思って」




そんな呪いを掛けられて、わたしはそれから髪を伸ばすようになる。


髪が伸びた頃には、わたしは新しい恋を見つけられるだろうか。



end

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