第4話 小学6年生の君へ


あの時彼はどうして私の代わりに歌ってくれたのかな。

学級委員長だったから?

私が泣きそうにしていたから?

それとも、彼が言ったように同じ名字だったから?

今となってはそのどれもが正解のような気がします。きっと彼にはそれは何でもない普通のことだったのではないかなと。

彼は誰からも慕われる学級委員長だったことを思うとちっとも不自然ではなくて。むしろ私は「同じ名字だから歌うよ」と言ってくれたことが嬉しかった。


彼がもし私の代わりに歌わなかったら私はどうしていたのでしょう。

仕方なく歌って、メチャクチャな音程を笑われて、恥ずかしくて、自分の障害を悔やんで、翌日から不登校になっていたかも分かりません。

皆を恨むこともあったかも知れない。

もしかしたら今の私はここにいない、違う人格の私が存在していたのかも。

彼が代わりに歌ってくれたことで、私は不登校にもならず、皆を恨むこともしないでいられた。

彼の何気ない温かさに触れた私は、もっと皆と仲良しになろう、誰かに居てくれて良かったと思われるような存在になりたい。

そんな風に思うようになりました。

それからは少しずつ勇気を出して会話の中に加わるようにして、聞こえないときは「ごめんね、もう一度話して」と言えるようになりました。


小学校を卒業してからは、彼は私立の中学校へ進学、私は地元の中学校に進学したので、それ以来会うことはありませんでした。


成人してから同級生の話で彼は海上自衛隊に入隊したことを知りました。

彼らしい、、やっぱり大人になっても学級委員長だった。そう思うと嬉しかったのを思い出します。


小学6年生の君へ

あの時言えなかった一言。

「私の代わりに歌ってくれてありがとう。小学6年生の君は今でも私の恩人。ヒーローだったよ。」

君はもう忘れていると思うけど、私は君に会えて良かった。

同じ名字で良かった。

ありがとう、心から感謝しています。




お・わ・り

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小学6年生の君へ 千恵花 @caorinhana

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