第18話大阪人のアイデンティティ
「もし貴方に少しでも良心があるならば説明してもらえないでしょうか?」
一睡も出来なくて迎えた早朝、
彼に丁寧なメッセージを入れた。
これを無視されたら本当に終わりだと思って
いたちょうど1時間後、
彼は死んでしまうのではないかと思う程の
弱々しい声で、電話をかけてきた。
「彼女は俺の元カノで、ずっとマホの相談に
乗ってもらっていたんです。
いつも子供優先で結局旦那さんとの関係が
切れない所を見るのが苦しかったので。
元カノだから家に来たりしていたのですが、
マホと別れた後に付き合おうと言いました。
だけどその前からずっと俺の携帯のデータを
勝手に転送して会話を全部見ていたんです」
「ちょっと待って、時系列おかしいやんか。
携帯のデータを勝手に送るなんて荒技、
寝てるかお風呂入ってる時しか出来んやろ。
つまり元カノと一緒に住んでたって事?」
私は早口の大阪弁で畳み掛ける。
「これから一緒に住もうって話してました。
でも勝手に携帯見てマホに電話をかけるなんて、信じられません。
あれから何もかもが嫌になってお酒で睡眠薬を沢山飲んだので、今死ぬほど気持ち悪いです。
彼女と一緒にいるのが怖いです。
もう多分無理です」
「ほんましょーもない男やな!!」
ついに私はキレた。
「彼女からも逃げるんかいな!
受験からも逃げて私からも逃げて、
あんたほんま逃げてばっかりやな!!」
喧嘩をすると自動的に大阪弁になるのだ。
「どうせ俺は何の能力も才能もない
ただの穀潰しですよ」
と彼がうすく笑ったので、さらに私はキレる。
「私はあんたに能力と才能なんかなくても、
愛と信頼さえあればそれで良かったのに。
でも今はそれすらも無いよな。
ほんま空っぽや。
あんたはいつも私が一番欲しい言葉を
真っ先にくれるし、
細かい所まで気が利くし、優しいし、
いい所なんかなんぼでもあるのに、
こんな事してもうたら、
私達の美しい思い出もなにもかも、
もう台無しやんか!!阿呆!!!」
グスングスン。
彼は泣いていた。
私も泣いていた。
上手く愛せなかったのかもしれない。
全てを捨ててこの愛に走る勇気もないくせに、思いが募って空回りし続ける私を
一時でもリクは受け入れてくれた。
カッコばかりつけた嘘つきで甘ったれな
私のヒーロー。
空っぽなのは私も同じだ。
お金だってまた貯めればいいか。
彼は私を『女』に戻してくれたのだから。
逃げずに足掻き続けよう。
例え一人でも。
いっぱい夢見させてくれてありがとう。
本当に楽しかったよ。
って、オイ。
何を少しだけ許しちゃってるんだろう、私。
やっぱり今回は完全にしてやられたよな。
あれ、こういう時大阪弁で何ていうんやっけ?
「イカレコレや!!!」
鏡に向かって自分にツッコミを入れて、
少し笑った。
ー完ー
アクマ日記 mayo @mayo802
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます